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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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ドイツでの買収交渉

3月(2011年)には、ドイツでの現地交渉に行ってきました。日本企業によるドイツ企業の買収です。半年ほど掛けて交渉してきたのですが、段々とスケジュールがきつくなってきたため、最後はface to faceの交渉を行い一気に片付けたい!というクライアントからの要請があったため、同行させていただいた次第です。

東日本大震災の翌々日に成田から飛んだのですが、皆家族を日本に置いての海外出張ですから、仕事に集中せよという方が無理があります。しかし動いている案件を止めることもできません。全員が、交渉は2日間に限定し、必ずその2日間で合意に至るという不退転の決意で乗り込みました。

宿泊したのはマンハイムという小さな街で、フランクフルト空港から車で1時間ちょっとかかるのですが、何とものんびりした雰囲気です。今回は現地の法律事務所に応援を依頼していましたので、到着した後すぐにホテルに全員集合し、戦略会議です。私も含めて時差ボケに強い人はいいのですが、結構な強行スケジュールとなりました。

当日は、相手方の弁護士が提供してくれた法律事務所の一室で、朝から交渉が始まりました。場所はハイデルベルクという綺麗な街で(但し、街を歩く時間がなかったので、法律事務所周辺が綺麗だと感じるに留まりました)まずは皆でコーヒーを飲んで、日本の地震の話がしばらく続いた後に、契約書の話に入っていきました。交渉中もこちらは皆、日本の家族とニュースが気になります。しかし、電波が悪くブラックベリーも使えない中、嫌でも交渉に集中せざるを得ない状況でした。

タフネゴシエーターが結集していますので、お互い一筋縄では行きません。相手の利益にも配慮しつつ、ビジネスアライアンスを成功させるのだという本来の目的を忘れずに、条項の一つ一つについて丁寧に誠実に、ときに駆け引きを使いながら交渉していきます。ドイツ語と英語が飛び交う交渉は皆の頭脳的体力を徐々に奪って行きます。まだ明日があるから……ということで、初日は午後9時頃に交渉を中断し、散会となりました。

翌日も午前9時に集合です。初日はこちら側のアドバイザーとしてドイツの法律事務所のパートナー弁護士がいらっしゃったのですが、2日目は都合がつかず、私がメインネゴシエーターとなります。たまにドイツ法に関連する部分が出てきますので、そこは同席してくれた別のドイツの弁護士に確認しながらの交渉になりました。英語で交渉すること10数時間、夜中の11時過ぎにようやく契約書がまとまりました。内容が固まったことを確認するために最終ドラフトに双方がサインをして終了です(実際の調印には公証人の立会いが必要となるため、後日に回されました)。

交渉終了後に、相手方の弁護士が、-いつも事務所に置いてあるのでしょうか- シャンパンを持ってきてくれました。相手方も当方も一緒になって交渉成立を祝って乾杯し、しばらく談笑が続きましたが、こちらはやはり日本の地震の状態が気になりますので、達成感はあるものの、笑顔にはなりきれませんでした。

今回は2日間で計26時間に及ぶ交渉になりましたが、M&Aにおける本当の勝負はこれからです。ドイツでの事業展開が順調に進むことを心から願っています。
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米国での調停(その3)

Mediation statementは出すタイミングも重要です。どちらかが先に出してしまうと、もう一方はそれを見て反論を追加できることになって不公平だからです。そこで、相手方の弁護士と電話で話して、合意した特定の日時に同時にmediatorと相手方当事者にメールで送信する約束をしました。その時間の10分前に相手方弁護士に「今から10分後にメールで送ります」と連絡し、時計を睨みながら丁度の時間に同時に送りました。Mediatorからは「受け取った」というメールが届き、相手方からも相手方のmediation statementが届き、一安心です。時差があるので、こういった手続も事前によく協議して決めておかなければなりません。

その後飛行機に飛び乗り、飛行機の中で相手方のmediation statementを入念に読み込んで、口頭で反論できるように詳細なメモを用意しました。時差があるため3日の夜にニューヨークに着き、早速その晩、mediatorと、まだ西海岸にいる相手方の弁護士と、3者で電話会議です。Meditorは既に両者のmediation statementを読んでいるわけですが、お互いの主張を簡単に口頭で伝えた上で、和解の方向性・可能性についてヒアリングを受けました。その後、Mediation当日の集合時間や、2日間の進め方の確認をして終了です。

Mediation当日は、mediatorのローファームに集合です。アメリカらしく、コーヒーやスナック類が豪華に飾られている待機室で、久しぶりの米国ローファームの雰囲気を味わった後、にこやかに(内心は好戦的に)相手方弁護士と握手をしてmediationが始まりました。アメリカのmediationでは、最初にopening statementというプロセスがあります。これは口頭で当事者の主張を述べる手続です。そこで相手方弁護士は、おもむろに畳くらいの大きさがあるボードを5枚ほど取り出しました。このボードは米国の陪審員向けプレゼンテーションでよく用いられるもので、大きな字で契約書の条項が貼り付けられています。相手方の若手弁護士が、法廷映画の俳優のように、流暢に、今回の契約書の内容と紛争の概要、相手方の主張を説明します。すると、いきなりmediatorから質問が出されます。手馴れているようです。こちらも遠慮せずに意見を言ったため、opening statementがディスカッションになってしまい、最初から熱い口頭弁論のようになってしまいました。

途中経過は省略させていただきますが、その後、論点ごとに交渉を重ね、初日は夜7時くらいに解散となりました。翌日も朝9時からスタートし、残りの論点を解決していきます。おおよそ15時くらいでしょうか。ほとんどの条件について合意ができましたので、その後和解契約書(Settlement and Release Agreement)の作成に取り掛かります。しかし、これが大変でした。和解契約書自体はこちらでその場で案を作って提示したのですが、相手方弁護士はトランザクション系の弁護士で訴訟(紛争解決)担当ではないため、和解条項の検討をするために先方の法律事務所で待機している訴訟部門の弁護士と逐一協議を行っているようです。結局、細部にまで交渉が続き、双方の代表者が和解契約書にサインをしたのが何と夜中の3時でした。結構年配のmediatorの弁護士さん、夜中まで全くスタミナが切れず、むしろどんどん元気になっていかれるのが印象的で、夜中3時過ぎにmediationが終わると、おもむろにヤンキースの野球帽をかぶって、待たせてあった車で颯爽と郊外の(?)自宅に帰って行かれました。

私自身はと言いますと、久々のニューヨークということで飛行機を一日遅らせ、友人の弁護士を順番に尋ねて充実したafter mediationを過ごし、翌々日に帰国しました。おそらくは今回のmediationを行わなければ、今でも紛争は継続していたのではないかと思います。当事者双方が2日間で終わらせると決めて臨んだからこその解決だったと思いますが、海外でのmediationはなかなか面白く、紛争当事者にとってもやってみる価値のある手続のように思いました。

米国での調停(その2)

さて、しばらくするとmediatorのリストがメールで送られてきました。候補者全員について経歴書やタイムチャージの金額が書かれています。確かに、mediation経験豊富な弁護士や製薬関連の業務や研究経験がある弁護士がずらっと並んでいます。

ここでは、こちらに有利な判断をしてくれそうなmediatorを探しますが、フィーも若干気になります。Mediatorへの報酬は弁護士報酬と同様にタイムチャージとなりますが、時間当たり300ドルから700ドルまで様々ですので、できればタイムチャージ単価の低めの弁護士を選びたいと思うからです。但し、タイムチャージ単価が安いということは、経験が浅かったり、若かったり、それなりの事情があるものと思われます。こちらは日本の弁護士(今回は米国の弁護士を起用しませんでした)で、先方は世界的に有名な大手ローファームがついていますので、先方の不合理な主張については「それはおかしいでしょう」とたしなめてくれる年配の弁護士が望ましいという配慮も必要です。

CPRからは、当事者間でmediatorを合意して選べるのであればそれでよいが、選べない場合はselectionプロセスに進めると言われています。結局、こちらの希望する候補者と相手方の希望する候補者が一致しなかったため、selectionプロセスに進みました。selectionプロセスというのは、各当事者が希望する候補者を5名ずつ選んで、それに順位をつけてCPRに提出すれば、CPRがそれを点数化して一番獲得点数の高かった候補者がmediatorに選ばれるという仕組みです。そのselectionプロセスの結果、ニューヨークのローファームで長年弁護士をやっておりmediation経験も豊富な弁護士が選ばれました。料金は高いですが頼りになりそうです。

次は、mediation statementと言われる申立書(主張書面)の作成に取り掛かります。事実関係と当事者の主張を整理してmediatorに分かりやすく書かなければなりません。契約書などの疎明資料も一緒に添付します。Mediationでは、通常書面は最初に出す申立書のみですから、必要なことは全部書かなければなりません。今回の調停は1月5日と6日の2日間と決めてスケジュールを組みましたので、12月28日から1月3日までの殆どの時間を申立書の起案に当てることになりました(正月三が日を3日とも事務所で過ごしたのは初めてでした)。

続きは次回に。

米国での調停(その1)

少し前の話になりますが、今年(2011年)の1月にニューヨークで調停をしてきました。当方は日本企業で、相手方は米国企業です。昨年、半年ほど掛けて交渉を行ってきたのですがどうしても合意に至らず、のんびり時間を掛けていると対象となっている事業・技術が劣化してしまうために契約書に従って調停に持ち込んだ次第です。

調停(Mediation)は仲裁(Arbitration)とは異なり、調停委員(Mediator)の判断には何ら拘束力はありません。その意味で通常の「和解」と同じなのですが、第三者が入って話をまとめる手続であり、2日とか3日といったスケジュールを決めて行うため、和解しやすい(和解できないことも早期に判明する)という効果があります。

さて、今回の契約には、Dispute Resolution条項に以下の規定が入っていました。
"If the dispute has not been resolved by negotiation as provided in Section ** within 30 days after delivery of the initial notice of negotiation, or if the senior executive failed to meet within 30 days after delivery, the Parties shall endeavor to settle the dispute by non-binding mediation under the CPR Mediation Procedure then currently in effect. Unless otherwise agreed, the Parties will select a mediator from the CPR Panels of Distinguished Neutrals."

シニアエグゼクティブによる交渉が30日以内にまとまらなければCPRのルールに従って調停を行いましょう、調停委員はCPRに登録している「利害関係を有しないメンバー」から選びましょうということです。
CPR(International Institute for Conflict Prevention and Resolution)というのは民間の調停機関で、フットワーク軽く調停委員(通常は登録している弁護士)の紹介をしてくれます。

今回はまず相手方との間で、どこでmediationをやるのかが争点になりました。こちらの会社は東京、先方は米国西海岸です。最初はサンノゼを提案され、こちらから「あまりにそちらに近過ぎる。コスト面でも人選面でもこちらに不利益」と反論し、その後、サンフランシスコになりかけましたが、結局、なるべくニュートラルにやりたいということでニューヨークに決めました。

続いて、CPRにメールをしてmediatorの紹介を依頼します。Mediator候補者リストには2種類あります。一つは"Unvetted list of mediators"と呼ばれるもので、紛争になっている分野(今回は製薬)に強い候補者を紹介してくれるが、利益相反に関する事前チェックは経ていないものです。もう一つが"Vetted list of mediators"といって、利益相反チェックを済ませた候補者のリストになります。いずれのリストも最大15名をピックアップしてくれますが、前者は1,500ドルで後者は1,750ドルということでした(その当時の料金です)。利益相反があれば意味がないため、相手方と協議して” Vetted list of mediators”を希望しました。費用についてはこれも相手方と協議して折半にしました。

続きは次回に。

グローバル企業における国際税務戦略

外国に複数の子会社を保有している日本の企業がアウトバウンドの買収を行うケースや、外国の子会社をまとめてぶら下げる中間持株会社を設立する場合、ビジネスの問題(サプライチェーン・マネジメントなど)に加えて、必ず国際的なタックス・プランニングが必要となります。

クロージング後/設立後の論点としては、移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、PE課税などがあり、一方、持株会社設立の際には、どこの国に設立するか、会社形態をどうするか(具体的には、受取配当に対する課税、親会社への配当の際に発生する源泉税が問題となり、それに関係してタックスヘイブン対策税制や租税条約が問題となります)、買収の場合には、買収資金をどのように調達しどのように直接の買い手に提供するか(具体的には、誰が資金調達して、それを出資/貸付のいずれの方法で買収ビークルに提供するかという問題)が問題となります。

日本では、平成21年税制改正によって、受取配当金が非課税(益金不算入)になりましたので、一見、日本の親会社にどんどん資金を吸い上げれば良いかのように見えますが、孫会社から親会社まで配当が流れてきた場合には配当の5%部分について日本で課税されることになっているため、これまで例えばEUにある中間持株会社で資金を溜めてEU内で循環させて利用していた場合には5%部分の二重課税を甘受する理由が本当にあるのかを検討する必要があります。また、上記税制改正を受けてタックスヘイブン対策税制も平成22年に改正され、持株会社が子会社から受領した配当が原則合算課税の対象外となりましたが、他方で、持株会社が支払った法人税に関する間接外国税額控除と、持株会社が日本の親会社に配当する際に発生する源泉税に関する直接外国税額控除が認められなくなったことから、タックスヘイブン国に持株会社を置くことが本当に有利かどうかを検討する必要があります (*1)。

続いて、買収のケースでは、親会社が借入れを行った資金を、買収ビークルに出資するか貸し付けるかという論点が発生し、かつ、買収ビークルは買収対象会社国に作るとしても、その買収ビークルをぶら下げる中継持株会社を別の国に設立すべきかどうかも問題となります。

まず、日本の親会社が借入れを行い、買収ビークルに出資した場合は、親会社レベルで受取配当の益金算入(5%×41%=+2%)と支払利子の損金算入(△41%)が発生し、トータルで△39%となります。すなわち、出資という形で買収ビークルに資金を提供すれば受取配当課税を検討することになるわけですが、これが買収ビークルへの貸付(ローン)となれば、受取利子の益金算入を考慮することになります。例えば、日本の親会社が借入れを行い、海外の買収ビークルに貸し付けた場合は、親会社レベルでは支払利子の損金算入(△41%)/受取利子の益金算入(+41%)がおおむね相殺され、買収ビークルにおける支払利子の損金算入(例えば、米国なら大体△36%、イギリスなら△28%、オランダなら△25.5%)のみが残ることになります。よって、親会社に利益が出ている限り、前述した出資スキームの方が税務上は有利ということになります。

更に、例えば、オランダや香港等の中継国に持株会社を設立し、日本の親会社がその持株会社に出資又は貸付を行い、その持株会社から対象会社国の買収ビークルに出資又は貸付を行うスキームも検討に値します。一般的に、買収ビークルには貸付の形態を採ることにより、支払利子の損金算入を利用でき、中継国の持株会社には出資の形態を採ることで、日本の親会社において受取配当の益金不算入を利用でき、更に中継国が税率の低い国であれば、持株会社において受取利子の益金算入による課税を減らすことができます。なお、対象会社→買収ビークル→中間持株会社→日本の親会社の順番で配当を流していく場合には、すべての配当局面で配当源泉税を検討する必要があり、外国同士または外国と日本との間の最新の租税条約や、それらの条約の改正の動向にまで目を配らなければなりませんし、配当源泉課税の対象外となっている特殊なエンティティ(例えば、オランダにおける協同組合(Coop、Cooperative Association(Cooperatieve Vereniging))を使うかどうかも検討すべきです。

もちろん、実体のないペーパーカンパニーを節税のために利用した場合は、税務当局から租税回避行為であるとして否認されるリスクがあります。また、最終的なエグジットを見越してキャピタルゲイン課税の問題も併せて考慮する必要がありますし、更には、組織再編/買収後の取引ベースでの課税(移転価格の問題)も一緒に検討しなければなりません。あるいは、外国子会社の株式を新たに設立する中間持株会社に譲渡する場合には、日本の親会社レベルで株式譲渡損益課税が発生するに留まらず、国によっては、事業の譲渡と同視され、その国でも譲渡損益課税が発生することがありますから(ちなみに、米国では日米租税条約によってこの場面での米国での課税は発生しないとされています)、関係各国の税法と租税条約は全て調査する必要があります。ここが国際税務戦略の難しいところでありますが、世界の大企業が徹底的に研究されたタックス・プランニングによりグループ全体の負担税率を大幅に引き下げている中で、日本企業はまだまだ良い意味でも悪い意味でも正直に高い税負担を甘受している傾向にありますので、今後、日本企業が海外企業を買収する際あるいは国際的なグループ再編を行う際には、積極的に税務戦略を検討・立案したいと考えています。


(*1) 平成22年改正によって、タックスヘイブン税制におけるトリガー税率は、従前の25%以下から20%以下に変更されました。中国(25.0%)、マレーシア(25.0%)、ベトナム(25.0%)、韓国(22%)といったアジア諸国に進出している子会社数は相当数に上るため、トリガー税率が20%以下となれば、企業の税務負担と申告作業が相当程度軽減されることになります。なお、これらの国は法人税率を下げることに熱心であるため、具体的な税率は個々のトランザクションの際に確認してください。

日本の製薬会社による米国バイオベンチャー買収

一昨日,製薬世界最大手の米ファイザーが同じくアメリカのワイスを680億ドルで買収するというニュースが流れましたが,今朝は,アステラス製薬が,米ナスダック上場のバイオベンチャーで心臓病関連の治療薬に強いとされるCVセラピューティクス(カリフォルニア州)に買収提案を行ったとの報道がなされました。買収提案の内容は,CV社の発行済株式の全てを1株16ドル(直近の終値に対して41%のプレミアム)の現金にて買い付けるというもので(総額は10億ドル),CV社の対応によっては敵対的な要素を含んでくる可能性もあるとされています。

アステラスの場合,連結売上高の20%を占める主力薬である「プログラフ」(免疫抑制剤)の特許が米国で2008年4月に切れ,欧州では2009年6月,日本では2010年12月に切れるとのことですが、大手製薬会社はいずれも主力薬の特許切れ問題を抱えていますので、米バイオベンチャーの買収は今後も多数発生すると思われます。

なお,近年の例を挙げると以下のとおりとなりますが,このうち事業譲渡型だった5を除くと,全て現金公開買付け+(逆)三角合併というスキームが用いられています。その理由については,別のエントリーで整理してみたいと思います。

1 エーザイがモルフォテックを買収(2007年3月)・・・3.25億ドル
2 エーザイがMGIファーマを買収(2008年1月)・・・39億ドル
3 アステラスがAgensysを買収(2007年11月)・・・ 3.87億ドル
4 武田がミレニアムを買収(2008年5月) ・・・74億ドル
5 大塚製薬がPDLバイオファーマを買収(2007年12月)・・・2億ドル

なお,本日の報道では,大鵬薬品工業がバイオベンチャーであるアリジェン製薬から潰瘍治療薬の国内での開発販売権を取得するための大型契約を締結したとの発表もありました。多くのバイオベンチャーは現在資金調達面で苦労しており,かつ,製薬会社は新薬不足問題を抱えていますので,国内においても製薬会社と創薬ベンチャーとのアライアンスが今後益々活発化すると思います。

日本企業による海外企業の買収手法(その3)

前回のコラムで、日本企業の株式を対価として海外企業の株主から株式を取得する場合の注意点としては、公開買付け規制現物出資規制の2点が挙げられると書きましたが、現物出資規制に関しては、取締役の財産価額填補責任の存在に気をつける必要があります。すなわち、現物出資財産の価額が、蓋を開けてみれば株式発行決議時の評価額と比較して著しく不測していたというケースでは、その決議に参加した取締役は、注意を怠らなかったことを立証できない限り(*1)、不足額に関して連帯して会社に払い込む義務を負います(会社法213条1項・2項・4項、同法施行規則44条以下)。

すなわち、現物出資対象となる海外企業の株式に関して株式発行決議の後に株価が下落した場合、取締役はその価値下落分に関して責任を負わされる可能性が出てきます。これは現物出資財産が日本企業の株式であるか海外企業の株式であるかを問いませんが、海外企業の場合は日本企業の場合と比べて将来の株価変動につながるような資料・情報が入手しにくい場合があると思われ、しかし、だからといって対象会社に関して十分な調査を行なわずに現在と過去の株価だけを見て現物出資財産の価額を決めてしまうと、調査不測、すなわち過失ありと認定される可能性がありますので、より慎重な価額決定プロセスが要求されると言えるでしょう。なお、対象会社が非上場であれば、もともとその株価は目に見えにくいものですので、取締役の財産価額填補責任が問題となる可能性は減るものと思われますが、この場合は「市場価格のない有価証券」になりますので、検査役の調査、あるいはそれを回避するための弁護士・公認会計士・税理士等の証明(会社法207条9号)が必要になってきます。

また、別の問題として株式の有利発行規制にも注意する必要があります。なぜなら、株式の大量取得を目指している場合、既存株主からは、支配権移動に伴うプレミアム付き価格で株式を買い取ることが通例だからです。これを株式を対価とする株式買取りに当てはめれば、例えば、現物出資財産の価額が1億円しかないのに、既存株主には1億3000万円分の新株を発行するといった形になりますので、発行する株式1株当たりの払込金額が減ることにつながります。よって、有利発行の度合いが大きい場合は株主総会の承認決議(会社法201条1項、199条3項)を経ることも検討しなければならない場合が出てくると考えられます。ただ、そもそも、「現物出資財産の価額」自体が、支配権移動の価値も含んでいるものであるはずだから、単純な株価相当額の1億円ではなく、プレミアムも含んだ1億3000万円であると考える余地も有りますので、この点は、解釈論の更なる充実を待ちたいところです。

最後に、海外企業を100%子会社にするためには、株式買取り後にShort-Form Mergerなどを利用して残存株主をスクイーズ・アウトすることになりますが、Short-Form Mergerといった手法が採れるか否かということと、スクイーズ・アウトの許容性(少数株主保護の問題)についてはまさにその海外企業側の法律・判例の問題ですので、現地のM&A専門弁護士との十分な事前協議が大事になってきます。


(*1) この取締役の財産価額填補責任は旧法下では無過失責任でしたが、会社法になって過失責任となりました。

日本企業による海外企業の買収手法(その2)

2.準拠法について

さて、海外企業を買収する場合、その海外企業の設立準拠法や本拠地法を確認する必要があるかどうかが次に問題となります。たとえ日本の会社法が、「三角組織再編における子会社による親会社株式取得」を認めていたとしても、外国の法律がそれを認めていない場合があるからです。

「三角組織再編における子会社による親会社株式取得」に関しては、一般的に、親会社側の法律によって決めればよいとされていますが、子会社の設立準拠法や本拠地法が「三角組織再編における子会社による親会社株式取得」については子会社側の法律で規律すると定めているケースが皆無とは言えません。その場合は、親会社サイドの法律と子会社サイドの法律が抵触することになってしまいますので、子会社の設立準拠法や本拠地法の内容をチェックし、親会社サイドの法律に委ねられているのか、委ねられていない場合には、日本法と抵触しないかを確認しておかなければなりません。

続いて、三角組織再編を利用できるか、すなわち、買収される企業の株主に買収する企業の親会社の株式を対価として交付してよいかという問題については、買収される企業の設立準拠法や本拠地法が日本のように「対価柔軟化」を認めているか否かにかかってきます。よって、この点の確認が必要です。

また、合併や株式交換といった組織再編行為には通常取締役会や株主総会の承認手続が必要ですが、これは国によって異なることがありますので、買収される企業の設立準拠法や本拠地法に照らして必要な手続およびそれに要する日数を確認しておかなければなりません。

3.海外子会社による日本の親会社株式取得の手法について

子会社が親会社株式を取得する手法には、

① 市場において親会社株式を取得する
② 市場外で、第三者から親会社株式を取得する
③ 親会社から新株の発行を受ける
④ 親会社が自己株式や新株を子会社に対して現物出資する


方法などがあり、それぞれ問題を含んでいるということを、<三角組織再編の手続と留意点(その2)>で述べました。この議論は、日本企業による海外企業の買収時にも当てはまります。そして、親会社と子会社が現物出資の形を採って相互に新株発行や自己株式を行なう場合には、子会社側の設立準拠法や本拠地法を確認する必要性が高まりますので、更に注意が必要です。

4.日本企業の株式を対価として海外企業の株主から株式を取得する場合の注意点

これまで、合併・株式交換といった組織再編手法を検討してきましたが、オプションとしては株式取得の方法も存在します。株式取得となると、一定数を超える取得を目指す場合は対象会社国の公開買付け規制に服することになるほか、株式を対価として株式を発行することになる点で、現物出資規制が関係してきます。

現物出資規制との関係では、検査役の調査を回避できることが大事になりますが、買収対象の海外企業が上場企業であれば「市場価格のある有価証券」が現物出資財産となりますので、

① 価額決定日における当該有価証券の市場価格
② 価額決定日における公開買付け等に係る契約における当該有価証券の価格

のいずれか高い方の金額を超えなければ
、会社法207条9項3号・会社法施行規則43条によって検査役の調査を回避することが出来ます。

株式取得の方法による海外企業買収に関する問題点の続きは、次回のコラムで述べたいと思います。

日本企業による海外企業の買収手法(その1)

<三角組織再編の手続と留意点(その3)>において、「新しい会社法では、消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での親会社株式の取得を認めていますので(会社法135条2項5号、同施行規則23条8号)、日本企業が海外で三角合併を行うために、海外に子会社を設立し、その子会社に日本の親会社の株式を取得させることができるようになりました。」と書きましたが、日本の会社が海外の会社を買収したり海外の会社と合併したりする場合の方法や問題点について更に紹介して欲しいというリクエストがありましたので、ここでまとめておきたいと思います。

そもそも日本企業が海外企業を買収する場合、日本板硝子によるピルキントン(英)の買収(2006年2月)や、JTによるガラハー(英)買収(2006年12月)に見られるように、現金を対価とするケースが多いようです。その理由としては、税務上の問題(原則的な考え方としては、対価として「現金」を受け取ると、資産・負債を移転した対象会社においてその譲渡損益に関する法人税処理が必要となり、対象会社の株主に関しては株式譲渡益課税やみなし配当課税が行われる)に加えて、対象会社国の証券規制の問題が考えられます。後者に関して言えば、例えば、日本企業が米国企業を吸収合併するケースで、米国在住株主に存続会社(日本企業)の株式を交付する場合、1933年証券法に従ってSECに対してForm F-4と呼ばれる登録届出書を提出しなければなりませんが、この作業が相当手間と費用の掛かるものとなっています。

それに加えて、海外企業の株主に日本企業の株式を交付するということは、日本企業が当該外国の証券取引所に上場していない場合には、当該外国では流動性が不十分な株式を交付するということになりますので、それが障害となり対象会社株主の同意が得られないことも十分考えられます。この問題は、日本企業が買収の対象となる三角組織再編に関して、日本側の抱く懸念として既に十分議論されている点ですので、同じ問題が相手国側でも当然に起こりうるということです。このような問題があるために、株式を対価とする海外企業の買収・合併が少ないのが現状です。

では、法律上、株式を対価とする海外企業の買収・合併ができないのかと言えば、そうではありません。最初に述べたように、会社法によって、消滅会社の株主等に対して親会社株式を交付するのに必要な限度での親会社株式の取得が認められるようになりました。従来、海外子会社に日本の親会社株式を取得させて、それ(あるいはそれを原株とするADR(*1))を対価として海外企業を買収する手法(*2)には、

①子会社による親会社株式取得規制
②自己株式取得規制
③現物出資規制


の3つが障害になると指摘されていましたが、少なくとも①については立法的に解決されたわけです(*3)。そこで、以下では、具体的に日本企業が海外企業を買収する手法のうち、株式を対価とする方法について、順に見ていきたいと思います。

1.プロセス

日本企業による海外企業買収のプロセスは、海外企業が日本企業を三角組織再編によって買収する手法とほぼ同じです。すなわち、原則として、以下のプロセスを踏むことになります。ただ、100%子会社とするか否かに関しては、上記で述べた京セラ方式の問題点②との関係で、京セラがそうしたように意図的に95%といった数字に抑えておく手法が考えられます(100%であれば、「100%子会社に親会社株式を取得させることは経済的に見れば自己株式の取得に他ならない」という指摘がなされる可能性がより高いため)。

① 海外に100%子会社を設立する。
② 海外子会社に日本の親会社株式を取得させる。
③ 海外子会社と海外の対象会社を合併させる(株式交換でも良い)。
④ 海外の対象会社株主に日本の親会社株式を交付する。


なお、日本の会社法は日本企業が海外企業と直接合併や株式交換を行うことを依然認めていませんので、上記①の「海外子会社の設立」は必須のプロセスとなります(既に存在する子会社を利用しても構いません)。

次回のコラムでは、親会社株式の取得に関わる論点や、準拠法の問題等について具体的に見ていきたいと思います。


(*1) 米国預託証券(American Depositary Receipt)
(*2) いわゆる京セラ方式。
(*3) ただし、海外子会社が日本の親会社の株式を取得した上で、それを対価として海外企業の株主から「株式買取り」を行なうことは新会社法でも認められていませんので、その点は注意が必要です。

日本における対内直接投資規制の概要(英語版)

財務大臣・経済産業大臣が、2008年5月13日付けで、TCIファンド(ザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンド)に対し、電源開発株式会社の株式追加取得に係る対内直接投資を中止するよう命令したニュースは、日本におけるFDIに対する初の中止命令ということで、アメリカでも波紋を呼んでいます(*1)。そのような流れの中で、日本における対内直接投資規制の概要について英語でまとめる機会がありましたので、掲載しておきたいと思います。なお、転用される場合には、その時点における最新の情報が反映されているか否かにつきご確認ください。以下の内容は2008年6月末現在のものです。

1. Primary Law regulating FDI in Japan
In Japan, foreign investment is regulated mainly by the Foreign Exchange and Foreign Trade Act (FEFTA) in 1949, which allows government ministries to prohibit or restrict a proposed foreign investment when they think the investment may harm national security, public order, public safety, or the smooth management of the economy.

2. Definition of “foreign investment”
In the first place, “foreign investment” defined under FEFTA includes: (1) acquisition of at least 10 percent foreign ownership of shares in a company listed on a Japanese stock exchange; (2) acquisition of any shares in an unlisted company; (3) establishment of a branch, factory, or other business office in Japan; (4) consent given to change the corporate objectives of a domestic company with one-third or more foreign ownership; or (5) loan of certain types and amounts of money to domestic companies.

3. Regulatory Frame
The regulation on foreign investment in Japan under FEFTA can be classified into two categories - prior notification and after-the-fact reporting. The sensitive sectors enumerated below require prior notification and government approval.
• aircraft, weapons, nuclear power, spacecraft, and gunpowder (in light of national security);
• electricity, gas, heat supply, communications, broadcasting, water, railroads, passenger transport (in light of public order);
• biological chemicals, guard services (in light of public safety); and
• primary industries relating to agriculture, forestry and fisheries, oil, leather and leather products manufacturing, air transport, and maritime transport (in light of smooth management of the economy).
Furthermore, FEFTA requires prior notification for investments from countries with which Japan has not completed a reciprocal investment agreement.
Foreign investment in other sectors only requires an after-the-fact notification to the government, whereas there are some types of insignificant investment which requires neither a prior notification nor an after-the-fact notification even when the investment is conducted by foreign corporations or foreign individuals.

4. Recent Change of Regulation
A Japanese Cabinet Ordinance came into effect on September of 2007 which was the first amendment since the latest amendment of FEFTA in 1991. This Cabinet Ordinance requires prior notification for foreign investment related to items used for the maintenance of the defense industrial. To be specific, the change covers industries related to the manufacture of arms, aircraft, satellites, and nuclear reactors, including testing equipment, repair equipment, and certain types of software usable in weapons and airplanes. The change also includes foreign investment in a parent company when its subsidiary falls under a sector that is subject to review.

5. Review and Reporting Process
The ministries are given 30 days to complete the reviewing process of a proposed foreign investment after a foreign investor has notified the ministries of the proposed investment. If the investor has not received a response from the ministries within the 30 days, the transaction is automatically approved. The review period may be extended up to 4 months in case they believe further inquiry is needed. A Committee on Foreign Exchange and Other Transactions also may extend the review period an additional month. In actual business, the review period are frequently shortened to 14 days by the request of the parties and the approval of the ministries. The ministries review investments on a case-by-case basis, and specific criteria used in the course of the review to decide if the investment poses a significant threat are not made public.
A foreign investor in sectors that require after-the-fact reporting must file a report with the Ministry of Finance and the ministry with jurisdiction over the industry through the Bank of Japan within 15 days after a transaction occurs.
In addition to the review process implemented under FEFTA, there are specific regulations on some sectors such as broadcasting, telegraph, telephone and aircrafts, where foreigners or foreign-controlled enterprises are not granted license or their board members and auditors are required to have Japanese nationality.

6. Penalty in case of Violation
Failure to notify, among other violations under FEFTA, can result in criminal penalties including jail for up to 3 years and/or a fine of three times the investment amount or 1 million yen, whichever is larger.

7. Recent High-Profile Case
While the Japanese government has not used this authority since FEFTA was amended in 1991 to recent days, the Minister of Finance and the Minister of Economy, Trade and Industry of Japan made a recommendation based on FEFTA toward The Children's Investment Fund (TCI) on April, 2008, blocking TCI's efforts to raise its stake in a major electricity company on the grounds that this investment is likely to impede the stable supply of electric power and Japan’s nuclear fuel cycle policy, and disturb the maintenance of "public order." It was the first rejection of such a proposal under a law that requires government approval before foreign companies can hold stakes of more than 10 percent in companies in sensitive sectors such as utilities, broadcasting and weapons manufacturing.

Japan ranked 37th in terms of the average value of FDI inflows world wide between 2000 and 2006, which is significantly less than for other large economies. In March 2006, the Japanese government set an updated goal that has been officially adopted by the cabinet to increase foreign investment in Japan to 5 percent of the country’s GDP by 2010(*2).

(*1) http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tci20080513-01.htm
(*2) Foreign Investment Laws and Policies Regulating Foreign Investment in 10 Countries, GAO, February 2008

米国におけるM&A契約条項の分析(その4)

8.MAC条項において将来予測(prospects)を入れるか否か

MAC/MAE条項については以前のコラムで紹介しましたが、最も一般的なMAC/MAEの定義は以下のようになります。

“Material Adverse Effect” means any change, development, effect or condition that, individually or in the aggregate, has effect on the business, properties, assets, liabilities, condition, prospects or results or operations of the Company and its subsidiaries….

ここで、注目すべきは、「将来の業績予測(prospects)に対する重大な変更」をMACの定義に含めるか否かです。将来の業績予測は買主側にとっては重要な問題であり、買収契約締結後に将来の業績が思っていたよりも悪化しそうだということが判明すれば、買主側はディールから撤退したいと思うことでしょう。しかし、業績予測はあくまで予測であって、対象会社のビジネスや資産に現に重大な問題が発生しているケースとは別に扱うべきとも考えられます。そこで、実務上は、「将来の業績予測(prospects)に対する重大な変更」についてはMACの定義に含めない方が普通であり、買主側が交渉上有利な立場に立っているケースで稀に取り入れられる程度に留まっています。

9.MAC条項におけるCarve Out事由(例外事由)

MAC条項におけるCarve Out事由については、<MAC条項について(その3)>で扱いましたので詳細な説明は省略しますが、対象会社が属する業界のマーケット全体が低迷している場合や、その国または世界全体の経済が悪化している場合については、MACに該当しないとするのが一般的な傾向です。では、それ以外にどのような事情がMACの例外事由とされるのでしょうか?

まず、当該M&A契約の発表そのものによって発生した影響(従業員が退職したり、取引先や顧客が逃げてしまった等)については、MACから外されることがあります。ただ、それによって事業の遂行が困難となるケースもありますので、これをMACに入れるか入れないかは半々といったところでしょうか。
その他、GAAPや会計基準の変更、法令の変更によって対象会社の業績評価や今度の事業運営のあり方に重大な変化が発生した場合についても、これは対象会社に帰責できないものですから、MACから外されることがあります。また、MAC条項がもともとアメリカのテロ事件をきっかけに近年流行りだしたということもあって、テロと戦争によって対象会社の事業に重大な悪影響が発生したケースについてもMACから外される場合があります。

MAC条項におけるCarve Out事由は、ここ数年でより頻繁かつ具体的に契約書に盛り込まれるようになってきたと感じます。一旦「買う」と合意しながら後に撤回するのは例外的処理になりますので、その例外の範囲を狭める方向で実務が動きつつあるのは、自然なことなのかも知れません。

10.Financing Out Condition

買主側は通常買収のために借入れも起こしますが(そのときに締結するのがDebt Commitment Letter)、その借入れが実行されない限り、買主は買収を完了させる義務を負わず、プライベート・エクイティ・スポンサーもEquity Commitment Letterに定められた出資義務を履行しなくてもよいとする条項が、Financing Out Conditionです。
近年のM&A実務においては、このFinancing Out Conditionを契約に盛り込むケースが非常に増えており、ここ1~2年ではほぼ100%入っているのではないかと思われます。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その6)~外資規制はどうあるべきか~

米国の外資規制は、日本と異なり、事後介入方式となっています(*1)。また、エクソン・フロリオ条項は、対象業種を限定的に規定せず、全ての業種が規制される可能性がある点に特徴があります。よって、ここは事後介入形式ともあいまって、「予見可能性」という点では国際的に批判が強いところです。

日本は、前述のとおり、個別業法の改正によって外資規制を行う傾向があるため、その都度、海外から「外資に対して閉鎖的だ」と言われることがありますが、規定を曖昧にし、大統領と委員会の判断によって必要に応じて規制ができる構造を採っているアメリカの方が、外資規制は厳しいと考えられます。また、中国では、中国国内投資家向けのA株、海外投資家向けのB株、香港上場株であるH株など、いくつかの種類がありますが、A株という種類の株式が存在すること自体が強力な外資規制になっていると言えます。

その他、外資規制が厳しいか緩やかかという議論をする際には、それぞれの国がどれほど海外からの資本を必要としているかにも注目する必要があると考えます(海外資本を切望する国が緩やかな外資規制を採るのは当然であるため)。経済構造に関しては、確かに日本は輸出を重視している部分もありますが(*2)、それは積極的な外資導入が必要な理由にはならないと思います。どこの国でも、国内企業が発展するためには、
① 十分な内需があること
② その内需に応える十分な事業があること
③ その事業を行う十分な資金があること
の三つの要素が必要ですが、日本の場合は、(少子化の影響で①は懸念されているものの)現状では①と③についてはそれほど問題はありません。問題は、モノ作り国家日本の一番の強みである②が空洞化しつつあるということではないでしょうか。発展途上国は、通常③の要素に欠けるために外資導入を促進しますが、日本の場合はこれと同様に考えることはできません。確かに、外需頼みの経済成長は不安定ではありますが、内需を支えるために「内需関連事業」そのものが必要なのか、「海外からのお金」が必要なのかについては、明確に分けて考える必要があると思います。事業を行うための資金がないわけではない日本の場合は、むしろ、「外資導入=投資資金の回収というエグジットが必ずある=日本が抱える豊富な個人資産が流出する可能性がある」と考えた上で、必要な規制を行い(アメリカがエクソン・フロリオ条項を維持するのであれば、日本も同様の規制を導入することを検討すべき)、外需を求めつつも内需関連産業の再発展に重点を置くべき時期に来ていると感じます。

クロスボーダーM&Aに関わっていると、常に、海外の企業を買うことの意味を考えさせられます。ストラティジック・バイヤーの場合は、シナジー効果を狙ってのものが多いと言えますが、フィナンシャル・バイヤーの場合は、キャピタル・ゲインの取得が主目的です。また、ストラティジック・バイヤーの場合でも、それがファンドのポートフォリオ・カンパニーであれば、結局は、キャピタル・ゲインの増大を狙って戦略が立てられます。近年流行しているMBOのほとんどがファンド絡みである点にも注目する必要があります。キャピタル・ゲインの取得が目的であっても、そのためには事業内容そのものを改善する必要があり、マッコーリー銀行が取得した「箱根ターンパイク」のように、結果として事業・産業の発展につながるケースも少なくありませんので、金融界の原理が「ほんの少し」産業界にも持ち込まれることについては賛成しますが、海外からの圧力に負けて外資導入論を唱えたり、逆に、徒に外資脅威論を唱えるのではなく、常に「日本に足りないものを補う」という基本発想を持っておくことが大切だと感じます。


(*1) 日本と同様事前届出を要求している例としては、<フランス>が挙げられますが、対象となる業種が日本よりも少なく、規制される株式保有比率は3分の1以上となっていますので、日本(10%以上)よりも緩やかな規制となっています。なお、英国は、米国と同じように事後介入方式です。各国の外資規制に関する日本語での説明については、<ジェトロのウェブサイト>をご覧ください。
(*2) 日本の輸出高は平成19年で約84兆円(出展:<財務省の統計>)、他方、日本のGDPは平成17年で約501兆円 (出展:<総務省の統計>)となっています。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その5)~アメリカの状況~

米国の外資規制は、「エクソン・フロリオ条項」(Exon-Florio provision)(*1)によって行われており、米国内直接投資(FDI)の内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には、エクソン・フロリオ条項が適用され、当該FDI が規制されます。エクソン・フロリオ条項の適用については、財務省が委員長を務めるCFIUS(米国内外資委員会)(*2)が監督しています。

アメリカでは、2006年に、中東・アラブ首長国連邦の政府系港湾運営会社であるDubai Ports Worldが、ニューヨークなどアメリカ東海岸の7つの貨物港の運営を手掛けることになったことに関して、国内でFDI規制に関する大きな論争が発生しました。CFIUSはDubai Ports WorldのUS貨物港取得について一旦承認しましたが、その直後から米議会が党派を超えてこれに反対し、議会はCFIUSに対しその承認を撤回するよう要求しました。このような流れの中で、Dubai Ports Worldは貨物港関連の資産を手放すことに同意しましたが、この事件の後に、外資規制をもっと厳しく行った方が良いという意見が米国内で強まり、2007年には、CFIUSによる調査手続を更に細かく、厳しくするための改正が行われたところです。

エクソン・フロリオ条項によれば、外国人(政府・法人を含む)による米企業の買収・合併・取得が米国の国家安全保障に脅威を与えると判断される場合には、当該M&A取引を適当な期間停止または禁止することができるとされています。規制の対象となるのは、

(1) 外国企業(投資機関や投資家も含む)が米企業の実権を握ることによって、米国の国家安全保障に脅威を与える行動に出る可能性を示す証拠がある場合
(2) 国際緊急経済力法(International Emergency Economic Powers Act)を除いて、国家安全保障を守るための適切かつ効果的な権限を与える条項がない場合


の二つのケースです。CFIUS がかかるM&A取引が行われている旨の告知を受けると投資内容の精査を始め、必要に応じて、本格的調査に発展する場合もあります。本格的調査を行う場合、告知の日から30 日以内に開始され、いかなる場合も開始から45 日以内に完了しなければならないとされています。大統領は、調査結果の報告を受けると、その日から15 日以内に判断を下さなければならないことになっています。

エクソン・フロリオ条項は、「国家安全保障へ影響が及ぶかどうか」を判断する要素として、以下のものを挙げています(原文はこちら:http://www.ustreas.gov/offices/international-affairs/exon-florio/)。

(1) domestic production needed for projected national defense requirements;
(2) the capability and capacity of domestic industries to meet national defense requirements, including the availability of human resources, products, technology, materials, and other supplies and services;
(3) the control of domestic industries and commercial activity by foreign citizens as it affects the capability and capacity of the U.S. to meet the requirements of national security;
(4) the potential effects of the transaction on the sales of military goods, equipment, or technology to a country that supports terrorism or proliferates missile technology or chemical and biological weapons; and
(5) the potential effects of the transaction on U.S. technological leadership in areas affecting U.S. national security.

(訳:
(1) 国家防衛のために必要と見込まれる国内生産かどうか
(2) 国家防衛のために必要とされる要求を満たす能力(人的資源、製品、技術、資材、その他関連サービス)を持っているかどうか
(3) 外国人(政府・法人を含む)が実権を握る米国内生産や商業活動が、国家安全保障のための必要事項に影響を与えるかどうか
(4) テロリズムやミサイル技術拡散、化学あるいは生物学兵器を後方支援する国への軍事製品および軍事技術投資(企業買収も含めて)に対する影響が潜在するかどうか
(5) 国家安全保障に関するいかなる領域において、米国の技術的主導権に対して、当該投資が何らかの潜在的影響力を持っているかどうか)

日本が目指すべき外資規制の態様に関する個人的意見については、次のコラムで書きたいと思います。


(*1) 米国内直接投資(FDI)を尊重しながらも国家安全保障を守る目的で国防生産法(Defense Production Act)を修正した条項がエクソン・フロリオ修正条項で、1988 年に発効しました。
(*2) 同委員会は、複数省庁(財務省の他は国務省、国防省、商務省、司法省、米通商代表部、経済諮問委員会、行政管理予算局、科学・技術政策局など)から構成されています。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その4)~日本の状況~

英投資ファンドで「モノ言う株主」としても知られるザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)は、2008年1月15日付けで、国内の電力需要の1割弱を供給する電力卸の最大手であるJパワー株の買い増し(現在の9.9%から20%へ)を求めて事前届出を行いました。これに対して、経済産業省は、TCIがJパワーの発電や送電事業などにどのように関わる予定かを詳細に審査するために、当初2月13日までとしていた審査期間を最長で5月中旬まで延ばすことを決めました(審査期間は申請から原則30日ですが、4カ月まで延長可能)。ここで進行している手続が、外為法の「事前届出」手続です。以下、法令の内容について見ていきたいと思います。

5 事前届出が必要な取引

対内直接投資の事前届出となるのは、次の(1)、(2)のいずれかに該当する場合です。
(1) 外国投資家の国籍が「日本または掲載国(*1)」以外のもの。
(2) 投資先の事業目的が「事前届出業種(*2)」であるもの。

事前届出は、取引または行為を行おうとする日の前3か月以内に、直投命令に定められた様式により、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣宛てに行う必要があります(法27条1項、直投令3条3項)。

以上をまとめますと、「届出・報告不要とされた取引」を除いて、
① 対内直接投資に関する条約等がない国(アフリカ・中央アジアの一部)からの投資 ・・・ 事前届出
② 上記以外の国からの場合
・ 航空機、武器、原子力、宇宙開発、エネルギー、通信、放送、石油産業等に対する投資 ・・・ 事前届出
・ それ以外 ・・・ 事後報告

ということになります。

なお、外為法による規制の他に、各業法によっても外資規制が行われています。例えば、電波法は、外国人、外国人が代表を務める法人、外国人が役員の3分の1以上を占める法人、外国人が議決権の3分の1以上を占める法人には無線局免許を与えないとしていますし、航空法においても、外国人、外国人が代表を務める法人、外国人が役員の3分の1以上を占める法人、外国人が議決権の3分の1以上を占める法人に該当する者が所有する航空機は、登録することができないとされています。このほか、NTT法は、NTTの持ち株会社である日本電信電話の議決権の5分の1以上を外国人が保有する事を禁止しています。外資規制については、世界的には個別業法ではなく外為法によって行うのが一般的と言われており、今回、国土交通省が空港整備法といった特定の「業法」を改正することによって外資規制を行おうとしていることについては、その点からの批判も聞かれるところです。


(*1) 「対内直投命令別表1」に、「事後報告」対象国(すなわち事前届出が必要ない国)として掲載されている163カ国
(*2) 事前届出業種とは、「告示別表第一および別表第二に掲げる業種に該当する業種」または「別表第三に掲載されている業種に該当しない業種」をいいます。「別表第三」はいわゆる「事後報告業種」で、「別表第一」には、武器、航空機、人工衛星、ロケット、原子炉、核原料物質、それらに関する附属品やプログラムの製造業が含まれています。詳細は、<日銀国際局のウェブサイト>をご覧ください。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その3)~日本の状況~

4 事後報告が必要な取引

対内直接投資は、1992 年1 月の改正外為法施行によって、そのほとんどが事後報告となりました。すなわち、(1)外国投資家の国籍が日本または「掲載国」(*1)であり、かつ、(2)投資先が行う事業のすべてが「事後報告業種」(*2)であるもののうち、以下に該当する取引はいずれも事後報告となります(<届出不要のケース>で述べた取引は除きます)。

① 株式・持分の取得
外国投資家が本邦にある会社(上場会社および店頭公開会社<出資比率が特別の関係にある者と合わせて10%以上のものに限る>・非上場会社)の株式または持分を取得した場合であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ投資先ならびにその子会社および完全対等合弁会社(*3)の事業が事後報告業種であるもの。

② 株式・持分の譲渡
非居住者である個人が居住者時代に取得(昭55.12.1以降に取得したものに限る)した本邦にある非上場会社の株式または持分を、外国投資家に譲渡した場合であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ非上場会社ならびにその子会社および完全対等合弁会社の事業が事後報告業種であるもの。

③ 会社の事業目的の変更の同意
外国投資家が本邦にある会社の定款上の事業目的の実質的な変更に同意(同会社が株式会社の場合、総議決権の3分の1以上を保有している外国投資家が行う同意に限る)した場合であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ新たに追加される事業の全てが事後報告業種であるもの。

④ 支店等の設置
非居住者である外国投資家が、本邦に支店、工場その他の事業所を設置した場合であって、外国投資家の国籍が掲載国、かつ支店等の事業が事後報告業種であるもの。ただし、事業目的が銀行業、外国保険会社、ガス事業、電気事業、第一種金融商品取引業、投資運用業、外国信託会社であるもの、および駐在員事務所を除く。

⑤ 支店等の種類・事業目的の変更
非居住者である外国投資家が、本邦に設置している支店、工場その他の事業所の種類または事業目的を変更した場合であって、外国投資家の国籍が掲載国、かつ新たに追加される事業が事後報告業種であるもの。ただし、手続不要のもの、事業目的が銀行業、外国保険会社、ガス事業、電気事業、第一種金融商品取引業、投資運用業、外国信託会社であるものを除く。

⑥ 金銭の貸付け
対内直接投資に該当する金銭の貸付けであって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ貸付先の事業が事後報告業種であるもの。

⑦ 社債の取得
対内直接投資に該当する社債の取得であって、外国投資家の国籍が日本または掲載国、かつ発行会社ならびにその子会社および完全対等合弁会社の事業が事後報告業種であるもの。

事後報告は、取引または行為を行った日から起算して15 日以内に、直投命令に定められた様式により、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣あてに行う必要があります(法55条の51項、直投令6条の31項)。また、提出部数は、財務大臣+事業所管大臣数です(直投命令6条の2)。


(*1) 「対内直投命令別表1」に、「事後報告」対象国(すなわち事前届出が必要ない国)として掲載されている163カ国
(*2) 平成19.9.7 告示第1 号「対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」で定められた別表第三に掲げる業種
(*3) 完全対等合弁会社とは、会社(その子会社を含む)が総議決権の50%を保有する他の会社(その株主または社員の数が2人であるものに限る)であって、当該会社の子会社に該当しないものをいいます。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その2)~日本の状況~

続いて、そもそも「事前届出」も「事後報告」も必要がない対内直接投資が存在しますので、それを紹介したいと思います。

3 届出不要のケース

対内直接投資であっても、次の(1)~(12)に該当するものは事後報告、事前届出ともに不要です(直投令3条1項、直投命令3条1項、2項等)。

(1) 会社の株式・持分、特別の法律により設立された法人が発行した出資証券、貸付金債権または社債を相続もしくは遺贈により取得したとき。
(2) 非上場の株式や持分を所有する法人の合併により、存続法人または新設法人が株式や持分を取得したとき。
(3) 非上場の株式や持分を所有する法人の分割により、分割後当該事業を承継する新設の法人または既存の法人が株式や持分を取得したとき。
(4) 上場(店頭登録を含みます)申請後、上場までの間に募集または売り出される非上場会社の株式の取得で、出資比率が関連会社等と合わせて10%未満であるとき。
(5) 事後報告で足りるとされている非上場会社の株式または持分の取得で、出資比率が関連会社等と合わせて10%未満であるとき。
(6) 株式の分割または併合により発行される新株の取得。
(7) 特定の外国投資家による出資比率が10%未満の居住者外国投資家(上場会社等に限る)による株式・持分・出資証券の取得、会社の事業目的の変更の同意、金銭の貸付け、または社債の取得。
(8) 会社の組織変更に伴い、組織変更前に取得していた株式や持分に代えて、組織変更後の株式や持分を取得したとき。
(9) 会社の事業目的の変更の同意のうち次のもの。
 a.外国投資家の国籍が日本または事後報告国(*1)であり、かつ、変更前・変更後の事業が事後報告業種(*2)に該当するもの。
 b.事業目的の一部を削除するとき。
(10) 支店等の種類・事業目的の変更のうち次のもの。
 a.外国投資家の国籍が事後報告国であり、かつ変更前・変更後の事業目的が事後報告業種に該当するもの。
 b.事業目的の一部を削除するとき。
(11) 株式無償割当てによる株式の取得。
(12) 取得条項付株式の取得または取得条項付新株予約権に係る取得事由の発生によりその取得の対価として交付する株式、持分、社債もしくは出資証券の取得。



(*1) 「対内直投命令別表1」に、「事後報告」対象国(すなわち事前届出が必要ない国)として掲載されている163カ国のことを指します。この中には、例えば、アメリカ合衆国、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどは含まれていますが、イラクやアフガニスタンは含まれていません。
(*2) 「対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づく財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」(平成19年9月7日内閣府・総務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省告示第1号)に掲載されている「事後報告」業種を指します。ここに含まれる事業の範囲は広範ですが、「安全保障上の必要性を理由に事前届出の対象とする製造業」である武器、航空機、人工衛星、原子炉、ロケット関連事業などが除外されています。

クロスボーダーM&Aと外資規制(その1)~日本の状況~

前回のコラムで述べたように、オーストラリアのマッコーリー銀行が、2007年夏に、羽田空港ターミナルビルを所有する「日本空港ビルデング」(東証1部上場)の株式約20%を取得したことをきっかけに、「空港外資規制」の可否が永田町と霞ヶ関で議論されていますが、天下りの問題など政治的な論争も盛んなようですので、これには深く立ち入らずに、まずはクロスボーダーM&Aを扱う実務家として知っておくべき法的知識を整理しておきたいと思います。

クロスボーダーM&A取引を行うにあたっては、投資対象会社の所在地国の外資規制を確認し、必要に応じて事前届出、事後報告などの手続を行う必要があります。まずは、日本が外国人および外国企業に対して課している外資規制について見ていきます。

外国人または外国企業が日本企業の株式を取得するケースについては、外国為替及び外国貿易法(「外為法」)が規制しています。外為法の規制は、「対内直接投資」(*1)と「資本取引」(*2)に適用がありますが、ここではまず前者について紹介します。

「対内直接投資」に関する外為法の規制については、手続に着目して、「事前届出」類型と「事後報告」類型に分けることが出来ます(法55条の51項、法27条1項)。新聞等を賑わせる「安全保障」関連の外資規制は、主に前者の「事前届出」類型に該当します。すなわち、安全保障などの観点から、武器、航空機、原子力、宇宙開発、火薬類、電力・ガスなどの業種について、外国投資家が該当企業の株式を10%以上保有する場合、財務大臣や事業所管大臣への「事前届出」が必要になります。他方、上記の業種に該当しない場合は、一定の条件の下で「事後報告」が必要です。以下、各種概念について整理した上で、順に説明していきたいと思います。

1 「外国投資家」の意義

外為法では、対内直接投資の当事者として「外国投資家」という概念を設けて、次のとおり規定しています(法26条1項)。
(1) 非居住者である個人。
(2) 外国法令に基づいて設立された法人その他の団体または外国に主たる事務所を有する法人その他の団体(外国法人の在日支店を含みます)。
(3) 上記(1)または(2)に掲げる者により直接または間接に保有される議決権の合計が50%以上を占める法人(*3)。
(4) 非居住者である個人が役員または代表権限を有する役員の過半数を占める本邦の法人その他の団体。


2 「対内直接投資」の意義

対内直接投資とは、外国投資家が行う、次の取引または行為をいいます(法26条、直投令2条9項1、2号)。
(1) 国内の上場会社(店頭公開会社を含みます)の株式の取得で、出資比率が10%以上(*4)となるもの。なお、この場合の出資比率には、当該取得者と特別の関係にある外国投資家の所有株式を含みます。
(2) 国内の非上場会社の株式または持分を、外国投資家以外(*5)から取得すること。
(3) 個人が居住者であるときに取得(昭55.12.1以降に取得したものに限る)した国内の非上場会社の株式または持分を、非居住者となった後に外国投資家に譲渡すること。
(4) 外国投資家が国内の会社の事業目的の実質的な変更について同意(同会社が株式会社の場合、総議決権の3分の1以上を保有している外国投資家が行う同意に限る)すること。
(5) 非居住者個人または外国法人である外国投資家が、国内に支店、工場その他の事業所を設置(*6)し、またはその種類や事業目的を実質的に変更すること。
(6) 国内法人に対する1年を超える金銭の貸付け(居住者外国投資家が行う本邦通貨による貸付けを除く)であって、次のaおよびbの、いずれにも該当するもの。
 a 当該貸付け後における当該外国投資家から当該国内法人への金銭の貸付けの残高が1億円に相当する額を超える
 b 当該貸付け後における当該外国投資家から当該国内法人への金銭の貸付けの残高と、当該外国投資家が保有する当該国内法人が発行した社債との残高の合計額が、当該貸付け後における当該国内法人の負債額の50%に相当する額を超える
(7) 国内会社の発行した社債で、取得日から元本の償還日までの期間が1年超であり、その募集が特定の外国投資家に対してされるものを取得する(居住者外国投資家が行う本邦通貨をもって表示される社債の取得を除く)場合であって、次のaおよびbの、いずれにも該当するもの。
 a 当該社債の取得後において当該外国投資家が保有する当該国内会社の社債の残高が1億円に相当する額を超える
 b 当該社債の取得後において当該外国投資家が保有する当該国内会社の社債の残高と、当該外国投資家から当該国内会社への金銭の貸付けの残高の合計額が、当該社債の取得後における当該国内会社の負債額の50%に相当する額を超える
(8) 日本銀行など特別の法律に基づいて設立された法人の発行する出資証券の取得


なお、上記の定義にも更に詳細な例外規定などが存在しますので、実際の適用判断に当たっては専門家にお問い合わせいただく必要があります。次回以降、「届出が不要な場合」「事前届出が必要な場合」「事後報告が必要な場合」について紹介します。


(*1) 日本法人に参画するか、または、実質的に日本法人の経営を支配することを目的とする株式取得
(*2) 資産運用を目的として行われるポートフォリオ投資
(*3) 「間接に保有される議決権」は、外国法人等が50%以上の議決権を有する国内会社が保有する議決権をいいます(直投令2条1項)。
(*4) 居住者・非居住者間で行われる場合、出資比率が10%未満のときは「資本取引」となります。
(*5) 国内の非上場会社の株式または持分の「外国投資家」からの譲受けは、居住者・非居住者間で行われる場合には「資本取引」となります。
(*6) 事業目的が銀行、外国保険会社、ガス事業、電気事業、第一種金融商品取引業、投資運用業および外国信託会社であるもの、および駐在員事務所を除きます。

クロスボーダーM&Aで有利に交渉を進めるために必要なこと

昨年から私は、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、アジア各国に20以上の関連会社を有する企業の買収案件に買主側として関与しています。ここまでの規模になると、ニューヨークから全てをコントロールすることは不可能であり、現地のローカル・カウンセルとの提携・協力関係が必須になってきます。各国特有の法規制(特に外資規制と証券法、独禁法、労働法などが重要です)を正確に調査・理解することは現地の弁護士でなければ不可能であり、かつ、現地での人脈も大切になってきますので、遠隔操作で物事を進めることは現実的ではないからです。

このような中で各国の当事者の行動パターンや、カウンセルの対応を見ていますと、クロスボーダーM&Aを考えている日本企業がこれから身につけていかなければならないいくつかのポイント(スキル)があることに気付きます。

1つ目は、「意思決定のスピード」を上げることです。日本の会社の多くには厳格な稟議・決裁システムが存在し、例えば買収条件の変更などを相手方から求められると、担当者が会社に持ち帰り、上司に相談し、正式に稟議書を作成した上で、最終的には取締役会に掛けて承認を得るというプロセスが踏まれるのが通常だと思います。これに対して、M&Aに慣れている欧米の企業は、現場で交渉に臨む担当者に一定の判断権限が与えられていたり、CEOの承認が迅速に得られる社内体制にあることから、日本企業よりも早く結論を出してくるケースが多いと感じます。M&Aでは「スピード」と「タイミング」が思いのほか重要で、競合者が複数存在する場合には、指定された締切りに間に合わなかったために負けてしまうケースもあります。

2つ目は、「買収後の詳細な事業計画」を作ることです。M&Aは買収・合併後のシナジー効果を期待して行うため、シナジー効果でカバーできないほどの「高額な買い物」をすると、それは「M&Aに失敗した」との評価を受けることになります。シナジー効果の予測は大変難しく、エクセル上の数字を一つ触るだけで買収額の上限は大きく変化するため、計画はあってないようなものと言われることもありますが、買収後の明確な事業計画が存在しないと、「買収金額をどこまで上げて良いかが分からない」という根本的な問題に遭遇します。そのような中で交渉を続けていると、必然的に相手の要求する条件を飲まされて、結果として「高すぎる買い物」をしてしまう可能性が高いと考えます。

3つ目は、「情報戦」に勝つことです。冒頭で述べたように、クロスボーダーM&Aでは、いわば「自分の庭の外」で戦うことになります。スポーツで言えば「アウェイ戦」です。アウェイ戦で交渉を有利に進めるためには、常に交渉の相手方や、現地のプラクティス、レギュレーションに関する情報収集を怠らないことが大切になってきます。国内M&Aよりも数段難しくなるデュー・ディリジェンスを効果的に進められるように、また、相手から直接受け取る情報を鵜呑みにすることには大きなリスクがありますので、各種問題点について自ら主体的に判断できるように、信頼できるローカル・カウンセルとのネットワークを築くことが求められます。

日本の会社の場合クロスボーダーM&Aの実績と経験がまだまだ少なく、これからしばらくは不利な交渉を強いられる可能性があると予想していますが、世界規模での業界再編の流れは止まりそうにありませんので、上記の点に留意しつつ、M&A交渉に負けないように、また、買収後に苦しまないで済むように万全の準備を行っていきたいところです。

金融の国境が消えようとしています。

世界では大型金融機関同士の合併・買収を通じて世界的な情報ネットワークを持つ巨大金融機関が生まれるとともに、クロスボーダーM&Aという手段を駆使して経営のグローバル化を図る顧客を多数抱える欧米の投資銀行が、投資資金の流れから国境という障壁を取り去りました。それと時期を併せて、日本国内では、時価会計、キャッシュフロー会計、連結財務諸表中心主義などが導入されたことにより企業財務の透明性が向上し、海外の投資機関・投資家にとっても投資しやすい環境が整備されました。国内の企業結合法制も、持株会社方式、会社分割、株式交換などの導入によってM&Aが圧倒的に実行しやすくなりました。

これにより、外国人投資家の株式保有率が上昇し、欧米系投資銀行と国内金融機関がM&Aやプライベート・エクイティ投資の分野において競争をしたり、逆に協力しあったりという状況が生まれました。ファンド・ビジネスの隆盛によって、ポートフォリオ・カンパニーの売り買いも増加の傾向にあります。

M&Aは元来、成長産業における統合や再建に使われるほか、新興産業における成長戦略として用いられ、その効果は規模拡大による取引量の増大、管理部門の経費共有化や重複部門の廃止によるコスト削減、垂直的統合による取引コストの引き下げなど多岐に亘ります。

しかし、M&Aの主たる動機や効果は上記の通りであるとしても、そもそもM&Aには資金が必要であり、「お金のあるところにM&Aが生まれる」側面も強いと言えます。かかるM&Aの金融的要因に注目した場合、金融の国境が消えたことにより、資金の有効な運用方法の一つであるM&Aについても今後一層グローバル化し、アメリカやイギリスに比べるとまだまだ小さな日本のM&A市場も、資金の流入に伴って拡大していくものと考えられます。

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