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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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反対株主の株式買取請求権について(その6)~カネボウ事件~

現在は「海岸ベルマネジメント株式会社」という商号になっている旧カネボウ株式会社(*1)は、平成16年に産業再生機構による支援決定を受け、その後、平成17年には過去の粉飾決算が発覚し、東京証券取引所・大阪証券取引所に上場していた株式が上場廃止となりました。なお、上場廃止直前(平成17年6月13日)の市場株価は360円でした。産業再生機構は、平成16年10月に第三者割当増資を引き受け(このときの払込額は一株当たり380円)、その株式を平成18年1月に一株当たり201円でファンド連合(*2)に売却(その結果、ファンド連合が約70%の株式を取得)、そのファンド連合は、平成18年2月に一株当たり162円で公開買付を行い、その結果、旧カネボウの約82%の議決権を保有するに至りました。

旧カネボウは、その後、新カネボウ(ファンドが設立したクラシエホールディングス株式会社)に営業譲渡を行いましたが、これに反対した旧カネボウの株主が株式買取請求権を行使した結果価格決定請求事件にまで発展したのが本事件です。本事件において、

① 旧カネボウ側は、(公開買付価格と同額の)一株当たり162円が適正と主張
② 株主側は、一株当たり1578円が適正と主張(*3)


していましたが、裁判所は360円(旧カネボウの上場廃止直前の株価と同額であり、かつ、裁判所鑑定の鑑定評価額と同額)と決定しました。なお、本件は、会社法施行(平成18年5月1日)前の、すなわち旧商法時代の株式買取請求が問題となっていますので、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」(旧商法245条の2)がいくらであるかが問題となっていました。

さて、本事件で注目すべきは、裁判所鑑定の鑑定人および裁判所ともにDCF方式で株式の価格を計算したことです。

提訴した株主側は、「(本件は)理論的にゴーイング・コンサーン企業の株式の客観的交換価値を算定するのに最も正しい方式として、実務上も定着しているDCF方式を用いることが適切な事案である」として、当初からDCF方式を採用するよう求めていました。他方、会社側は、「営業譲渡と公開買付との間に時間的な隔たりがないことから、多数の株主が応じた公開買付価格と同額である162円が取引先例価格になる。反対株主が少数株主でありその株式には市場流通性もない点も考慮すべき。本件では基本的には配当還元方式が適正である」といった主張を展開しました。なお、公開買付のために旧カネボウが株価算定を依頼した第三者機関はDCF方式を用いており、その算定結果を受けて162円という公開買付価格が決められたという経緯がありましたが、本事件における会社側の主張は、「DCF方式における将来の収益予測は困難であるし、DCF方式は将来キャッシュフローが全て株主に帰属するとの前提に立つが、少数株主は会社による投資や配当等について決定する力を持たないのでDCF方式は不適切である」と主張していました。すなわち、大まかに言えば、株主側は、「将来キャッシュフローの現在価値」を求めるDCF方式が妥当であると主張していたのに対し、会社側は株主、特に少数株主であってもはやその株式を市場で売却することもままならない者たちが受け取れるのは、配当を基準にした金額に過ぎないと主張していたことになります。

さて、このような両当事者の主張の狭間で、裁判所が選任した鑑定人は、鑑定書の中で、類似会社比準法、純資産評価法、市場株価基準法についてはそれぞれ欠点があり、本件では相応しくないと述べた上で、「継続企業の価値評価であること、反対株主にとっての経済的損失を負担するものであることを考慮した評価手法を用いる必要がある。よって、継続企業を前提とする評価としてDCF法によることとした」と書いています。また、その鑑定人の鑑定評価額を結果的に採用した裁判所も、「本件において、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法は、収益方式の代表的手法であるDCF法であるということができ」るとして、DCF法を採用しました。

DCF法の詳細についてはまた別の機会に述べたいと思いますが、裁判所が従来の判断枠組みを離れてDCF法を採用したことと、公開買付時の買付価格に引っ張られずに会社主張額の二倍以上の金額をもって「公正な価格」と認定したことには非常に大きな意味があると思います。新会社法は、少数株主保護の最後の砦として株式買取請求権に大きな期待をかけています。今後は、アメリカのように、TOB価格を超えるFair Valueを裁判所が認定したことによって、安い価格でのTOBに賛同した取締役の責任を追及する訴訟が別途起こされる時代になるかも知れません。162円と360円の違いは小さいように見えて、実は、少数株主保護に対する考え方を変えさせるだけのインパクトを持っていると感じます。

東京地裁の決定に対しては、当事者双方から東京高等裁判所に不服申立て(抗告)がなされていますので、更なる検討のために高裁の決定を待ちたいと思います。

(参考資料) 本裁判に関する準備書面、鑑定書、裁判所の決定などは、<「カネボウ個人株主の権利を守る会」のウェブサイト>で閲覧できます。


(*1) http://www.bell-m.co.jp/
(*2) アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合、株式会社MKSパートナーズ、ユニゾン・キャピタル株式会社の連合体。
(*3) 粉飾決算が発表される前の市場株価より少し高い金額。
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反対株主の株式買取請求権について(その5)

引き続き、Delaware Block Methodの説明をしていきたいと思います。

ウ Investment/Earnings Value (投資/収益価値)について
これは日本で収益還元法や配当還元法と呼ばれる株式評価手法と同じく、対象会社の収益(通常は過去5年程度の平均収益)を利回りで割って会社の収益還元価値を計算するものです。後に述べるDCF法も収益還元法の一種ですが、DCF法は将来収益の現在価値を考慮する点で一応区別しておきたいと思います。DCF法とは異なり過去の収益のみを考慮した結果であるInvestment/Earnings Valueについては、「継続企業としての価値」を適正に評価できているか(例えば、成長企業における収益価値を正確に評価できるか)という疑問があります。

以上でDelaware Block Methodで主に考慮される3種類の評価方式についての説明を終わりますが、Delaware Block Methodでは、ここまでに述べた複数の評価手法を用いて出てきた数字のいずれかをピックアップして採用するのではなく、それらの金額について一定の割合で加重平均した数値が結論として採用されます。すなわち、例えば、
ア Net Asset Value: 1,000円
イ Market Value: 2,000円
ウ Investment/Earnings Value: 3,000円

と仮定すると、アを30%、イを20%、ウを50%といった割合で配合し(その割合は対象会社の置かれている状況と算定の目的に応じてケースバイケースで決める)、株価は
1,000円×0.3+2,000円×0.2+3,000円×0.5=2,200円
となります。

では、なぜ、特定の数値を採用せずに、全ての数値を少しずつ持ち寄って合計するのでしょうか?・・・それはシンプルに言えば、どの数字をとってみても、それ単独では会社の価値を適切に反映しているとはいいがたい、すなわち、単独では信頼できないからです。しかし、信頼できない数字を組み合わせれば結果が信頼できるものに生まれ変わるものではありません。一応、理論上は、
資産価値の按分比率: 企業の清算の可能性
市場価格の按分比率: 株主が所有する株式を売却する可能性
収益価値の按分比率: 一定期間に株主が所有株式から利益を得る可能性

を示していると言われています。しかし、株主や企業は選択を迫られたその瞬間において「極大の利益が得られる一つの行動」を選択しますので、それぞれの可能性が何%存在するというのは本来測定不能なものだと言えます。結局、必ずしも明確ではない理由付けによって、個別の計算結果に割り当てる按分率が「裁判所の裁量」によって決定されること、および、そもそも個別の算定手法で得られた数字自体に信頼性がないことに対する批判の声が高まり、Delaware Block Methodは、裁判所自らが「Delaware Block Method はもはや支配的な地位を有し得ない」と述べたWeinberger v. UOP, Inc., 457 A.2d 701 (Del. 1983)事件以降、DCF法にそのポジションを奪われることになります。

さて、日本では、国税庁の昭和39年の相続税財産評価基本通達が、Delaware Block Methodと同様に、類似業種比準価額、純資産価額、配当還元価額を使い分ける方式を提案して以来、裁判実務においてもこれらの複数の評価方法を組み合わせて使う実例が多く見られました。しかし、カネボウ事件の東京地裁が採用したのはDCF法でした。M&Aの実務では、日本でもアメリカの実務の影響で相当前からDCF法による株価や企業価値の算定が行われるようになっていますので、裁判所もその流れに乗ってきたと言えます。次回は、カネボウ事件の概要を紹介します。

反対株主の株式買取請求権について(その4)

カネボウ事件について見る前に、米国デラウエア州における株式買取請求権の「買取価格」の算定方法について紹介しておきたいと思います。

デラウエア州では、1950年の最高裁判決(Tri-Continental Corp. v. Battye, 74 A.2d 71 (Del. 1950))において、①解散する会社の価値は、(清算企業ではなく)継続企業として評価される必要があることと、②株式の価格算定に当たっては、会社の価値に影響を与える全ての要素を考慮しなければならないことが示されました。そして、このうち、②の「全ての要素を考慮すべき」という考え方から、デラウエア州では、
ア Net Asset Value (純資産価値)
イ Market Value (市場価値)
ウ Investment/Earnings Value (投資/収益価値)

といった複数の算定結果をミックスさせて用いる、いわゆるDelaware Block Methodと呼ばれる手法が確立されました。

ア Net Asset Value(純資産価値)について
このうち、Net Asset Value(純資産価値)は、文字通り、対象会社の純資産の評価額を発行済株式総数で割って出てきた一株当たりの価値であり、この純資産評価額を利用する計算方法は、貸借対照表上の数字をそのまま用いる「簿価純資産方式」と、資産の含み損益や、退職金の引当不足などの簿外負債を反映させて純資産を算定する「時価純資産方式」に分けることができます。簿価は資産の含み損益を反映していない時点で企業の現在の価値を表現しているとは言えないため、指標としてはあまり利用されていません。他方、時価については、どこまで含み損益を反映させるのかが難しいという問題もあります。更には、「含み益に対する将来課税」をどこまで未払い税金(負債)として計算に含めるかといった困難な問題もあります(*1)。

イ Market Value (市場価値)について
続いて、Market Value (市場価値)は、上場株式であれば市場株価を参考に決められ、非上場株式であれば同一または類似業種の他の会社の株価と業績を参考に求めます(日本では類似業種比準方式または類似会社比準方式と呼ばれます)。ただし、これもそう容易な作業ではなく、上場会社のケースでは、「どの期間の平均株価を採用するか」といった問題があり(*2)、非上場会社のケースでは、①類似会社の選定が困難(*3)、②PER、PBR、EBITDAといった「比較のためのモノサシ」の選択が困難(恣意的になるおそれがある)(*4)といった問題点があります。

なお、対象会社が非上場会社で、参考にする類似会社が上場会社である場合には、非上場株式には「流通性の欠如から来る価値の低下」が存在することを理由に、いわゆるNon-Marketability Discount(非流動性割引)をすべきではないかが問題となりますが、株式買取請求がなされる文脈では、当該株式を買い取ると言うオファーが現実になされていることからMarketabilityがないとは言えず、また、少数株主のスクイーズ・アウトがなされているような状況でNon-Marketability Discountを考慮するとunfairになりますので、原則として考慮すべきでないとされています(州によって異なりますが、少なくともデラウエア州では株式買取請求の際には、Minority Discount(*5)もNon-Marketability Discountもなされません)。

長くなってきましたので、続きは次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) 一般的には、会社が事業を継続するためには必須の資産となる工場や本社ビルなどの不動産の含み益に対する将来の課税については考慮しないが、いずれ手放すことが確実な有価証券等の含み益に対する将来課税については「未払い税金」すなわち負債として資産から控除するといった考え方を採ることになると思われます。
(*2) M&Aの計画を公表すると株価がその影響を受けて変動するため、「計画公表前の市場価格」を参考にすることが多い(かつ妥当)と思われます。
(*3) 取扱商品の類似性のみならず、資産高、売上高、従業員数といった会社の規模、利益の額および率なども考慮して類似会社を探す必要があります。
(*4) 例えば、PER(Price-Earning Ration、株価収益率)を基準として用いる場合、類似会社の株価が1000円で一株当たり利益が50円であればPERは20倍となり、対象会社の利益が一株当たり30円であれば対象会社の株価は30円×PER20倍=600円という計算結果になります。
(*5) Minority Discount(少数株主であるがゆえにその株式を高値で売却できないという問題)を考慮することについては、MBCA(標準事業会社法)が明確に否定しているほか、デラウエア州では、(法律には明記されていないものの)「支配株主を不当に利することになる」という理由で判例上(Cavalier Oil Corp. v. Harnett, Del. Supr., 564 A.2d 1137, 1144 (1989))明確に否定されています。

反対株主の株式買取請求権について(その3)

引き続き、買取価格に関する改正について述べたいと思います。

前回のコラムで書いたとおり、反対株主の株式買取請求権に関する買取価格については、もともとは「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」と書かれていたものが「公正な価格」と表現が変わりました。その意図するところは、M&Aの結果として発生する(であろう)シナジーの配分という要素を加味して買取価格を算定できるようにするという点にあります。ただ、今回の改正によっても、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」を採用することが不可能になったわけではありません。実際のM&Aでは企業価値が減少するケースもありますので、そのようなケースにおける反対株主については、M&Aによって毀損する企業価値を前提とした株価ではなく、当該M&Aが存在しなければ有していたであろう本来の株価を基準に買取りをすべきだからです(*1)。

続いて、裁判所がどのようにして「公正な価格」を算定するのかについて検討してみたいと思います。

まず、裁判所として、当事者が行った算定結果をどの程度尊重すべきかという問題が発生します。この点については、「もっぱら実務的な実行可能性という観点から、再編前の当事会社の企業価値を主たる基準として合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか判断することになるが、算定の基礎となったデータや適切な情報開示の上利害関係人以外の株主が賛成しているかといった諸事情もあわせて考慮してもよい。もし、当事者の設定した条件が合理性を欠くとされた場合、裁判所は独自にあるべき公正な企業再編対価を算定することになる。」とする見解があります(*2)。

確かに、支配株主が少数株主をスクイーズ・アウトする場面で行使されることが多い株式買取請求権については、価格算定プロセス自体に公正性を疑わせる事情が存在する場合も多いと思います。MBOの場面ではMBO指針等の影響で独立委員会が設置されるケースが増えていると思いますが、通常の事業譲渡や合併においては利益相反問題を排除する具体的措置が採られないことも多いと思います。実際に、株式買取請求権が行使され、価格決定の申立までなされたカネボウのケースでも、買取価格を決めるために独立委員会が設置されたということは聞いていません。そこで、算定プロセスに問題があったかなかったかをまずチェックし、「プロセスに公正性を疑わせる問題がない場合は会社の判断を尊重し、逆にプロセスに問題があれば改めて裁判所がゼロから算定する」という発想にも一定の合理性があるように思います。ただし、会社法自体は、そのような手続審査的判断枠組みを採るべきと明記しているわけではありません。その結果、「算定プロセスが公正であった場合は、会社の算定結果を100%尊重すれば足りる」とも言いにくいわけです。そこで、上記のように、手続的審査に加えて、多少実体的な判断(計算に利用された前提条件などのチェック)にも踏み込んで、会社による算定結果が「合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか」を判断するという手法が提案されているのではないかと思います。

実務的な観点から言えば、たとえ「合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか判断する」ためであっても、裁判所の判断能力の点から考えると、やはり原則として専門家による裁判所鑑定は必要になってくるだろうと考えます。そして、鑑定がなされた以上、裁判所としては、(カネボウ事件のように)鑑定に基づいて判断した独自の算定結果を裁判所の結論として公表するのではないでしょうか(数千万円という多額の鑑定費用を当事者に支出させて鑑定を行った場合は尚更)。よって、この場合に、「まず合理的に説明できる範囲内に収まっているかどうか判断する」という二段階的判断方法が採られる余地はあまりないのではないかと感じます。ただ、(全部取得条項付種類株式の取得価格が問題となったレックス・ホールディングス事件のように)鑑定費用が高すぎるといった理由で裁判所鑑定がなされなかった場合については、「多くの株主が公開買付けに賛同した」といったプロセスに関する諸事情もあわせ考慮した上で、「合理的に説明できる範囲内」にあるとして、会社提案額が尊重されるケースもあるのだろうと考えます。

レックス事件やカネボウ事件といった具体的な事件名が登場しましたので、次回のコラムでは、主に2008年3月14日に東京地裁が価格決定を出したカネボウ事件について見てみたいと思います。


(*1) そもそも、定款変更などの「シナジー効果が関係ない会社の行為」に関しては、当然に「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」が採用されることになります。
(*2) 藤田友敬「新会社法における株式買取請求権制度」(江頭憲治郎先生還暦記念論文集『企業法の理論』、商事法務、上巻296頁)

反対株主の株式買取請求権について(その2)

2 行使期間と撤回制限について

旧商法下では、株主は株主総会において組織再編行為が承認された後20日以内に買取請求権を行使しなければなりませんでしたが(旧商法245条の3)、会社法の下では、「組織再編行為等の効力が発生する20日前の日から効力発生の前日まで」と変更されています(会社法469条5項、785条5項等)。そして、株主が買取請求権を行使できるように、会社は、効力発生日の20日前までに、組織再編行為をすることを株主に対して通知しなければなりません(*1)。

また、旧商法時代には、株式買取請求の取下げに関する制限規定が存在しなかったため、とりあえず株式買取請求権を行使し、その後の対象会社の株価変動を見つつ、裁判所が決定するであろう価格よりも市価が上昇した場合には株式買取請求を取り下げた上で市場で売却するという株主の投機的行動を許すことにもなっていました。そこで、会社法では、一旦買取請求をした場合は、会社の承諾がなければ当該買取請求を取下げることはできないものとし、濫用的に株式買取請求権が行使されることを防止しています(会社法469条6項、785条6項等)(*2)。

このように、取下げに対する制限を課した結果、株主は株式買取請求を行うかどうか慎重に判断しなければなりません。それゆえに、買取請求権の行使期間を組織再編決議直後ではなく、クロージング日の手前20日間に持ってきた(すなわち、遅らせた)というのが新会社法の規定の趣旨と説明されていますが、これに対しては、結局、「かなり長期間、株価の動きを見ながら買取を請求するか否かを考慮することが可能になる。」との批判もなされています(*3)。


3 買取価格に関する改正

株式買取請求権が行使された際に会社が株式を買い取る価格については、旧商法下では、組織再編等についての「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」とされていましたが(旧商法245条の2)、新会社法ではシンプルに「公正な価格」によって買取がなされることとなりました。すなわち、ケースによっては、組織再編によって見込まれるシナジー効果のうち、対象会社の株主に分配されるべき部分をもらえることになったわけです。

この点、米国では、例えば、<MBCA>の定義条項(§13.01(4))を見ますと、

(4) “Fair value” means the value of the corporation’s shares determined:
(i) immediately before the effectuation of the corporate action to which the shareholder objects;
(ii) using customary and current valuation concepts and techniques generally employed for similar businesses in the context of the transaction requiring appraisal; and
(iii) without discounting for lack of marketability or minority status except, if appropriate, for amendments to the articles pursuant to section 13.02(a)(5).

(訳:
「公正な価格」とは以下の方法によって算定された株式の価値を意味する。
(i) 当該株主が反対した会社の行為の効力発生直前の価値であること
(ii) 同種の業界において当該行為に関して一般的に利用されている普遍的かつ最新の評価方法および技術を用いること
(iii) 13.02(a)(5)に基づき定款に変更がなされた場合を除いて、少数株式に市場流通性が欠ける点は考慮してはならない)

と書いてあります。ここでは、特段、組織再編によるシナジーを含めてはならないと明記されているわけではありませんが、「当該株主が反対した会社の行為の効力発生直前の価値であること」というのはすなわち、(日本の旧商法と同じく)当該組織再編行為が存在しない場合の価格を指しているものと解釈されており、多くの州において、シナジー効果を買取価格に反映させることは、特にそれをすべきと考えられる特段の事情がない限り行われていません(*4)。

日本の新会社法の下では、「組織再編行為自体には賛成するが、それに伴い交付される財産の価額に不満を持つ株主」の利益をも保護されることになりました。今まで合併比率が不公平である場合などにはそれにより損失を被る株主の保護はほとんど不可能だったわけですが、それが株式買取請求権の行使という形で可能になったのです。

確かに、日本においては、「対価の不当性」を理由に組織再編行為を事前に差し止めることや合併比率等の取引条件の不公平さに関連して取締役の責任を追及することが困難であるため、株式買取請求権に少数株主保護の効果を大いに期待することは分からないではありません。しかし、将来のシナジー効果を予測するのは実際には極めて困難で(別の言い方をすれば、色々な予測が可能)、かつ、株主に「株主たる地位を放棄しつつ、組織再編によって得られるシナジー効果をも享受する」というある意味で矛盾した二つの地位を認めることになります。特に、シナジー効果の予測と分配を裁判所に期待する点には相当の無理があるのではないでしょうか。実務上は、当事者双方が鑑定意見書を出し合って、あるいは裁判所鑑定を行って、裁判所はそのいずれかを採用するということになるかと思いますが、今回の改正が裁判所に過度の任務を負わせた点については、果たして正しかったのかどうか、疑問を感じるところです。


(*1) 株主総会で承認されたときなど、一定の場合には公告によることもできます。
(*2) <MBCA>§13.23では、特段会社の同意を要求することなく、株式買取請求の撤回を認めています。
(*3) 藤田友敬「新会社法における株式買取請求権制度」(江頭憲治郎先生還暦記念論文集『企業法の理論』、商事法務、上巻266頁)
(*4) MARY SIEGEL, BACK TO THE FUTURE: APPRAISAL RIGHTS IN THE TWENTY-FIRST CENTURY, 32 Harv. J. on Legis. 79, 1995

反対株主の株式買取請求権について(その1)

今回から数回のシリーズで、M&Aに関する重要問題の一つである「反対株主の株式買取請求権」について書いてみたいと思います。

合併や事業譲渡などのM&A取引は会社の事業運営の根幹に関わるものであり、株主の利益に重大な影響を及ぼしますので、原則として株主総会の承認が必要になりますが、株主が総会で反対票を投じても、資本多数決の原則の結果これらのM&A取引を阻止できない場合もあります。そこで、そのようなケースにおける反対株主の利益を守るために会社法で定められているのが「反対株主の株式買取請求権」です。具体的には、合併や事業譲渡などのM&A取引に反対する株主は、会社に対して、自己の所有する株式を公正な価格で買い取るように請求することによって、投下資本を回収することができます。

この「反対株主の株式買取請求権」は、アメリカの州会社法に倣って昭和25年の商法改正で導入されたものですが、平成18年5月から施行されている会社法によって内容の一部に変容を受け、部分的にアメリカとは異なる制度として歩み始めました。ここは少数株主保護に関する日米間の状況の違いとも関連するところですので、後ほどじっくりと考えてみたいと思います。まずは、会社法下で認められている「反対株主の株式買取請求権」の要件と内容について、旧商法とも比較しつつ見てみます。

1 請求権者について

会社法(785、797、806条)の下では、

① 株主総会決議を要するM&A: 「議案に反対した株主」と「総会において議決権を行使できない株主(*1)」
② 株主総会決議を要しないM&A(*2): 「すべての株主


に株式買取請求権が与えられています(簡易吸収分割における分割会社の株主には、株式買取請求権が与えられていません(会社法785条1項2号))。旧商法下では、議決権を行使できない、すなわち最初から「反対意見」を述べることすらできない株主に株式買取請求権が認められるか否かについては見解が分かれていましたが、会社法の制定によって、議決権を有するかどうかに関係なく株式買取請求権が与えられました。

この点、アメリカでは、元々、「株主総会で反対票を投じる権利を有する株主に合併等を拒否するパワーを与えない代わりに、その株式を買い取って投下資本回収の途を与えようという趣旨で、株式買取請求権制度が設けられた」と考えられているようです。よって、たとえば、多くの州が全部または一部の規定を採用している<Model Business Corporation Act(MBCA、模範事業会社法)>においても、総会において議決権を行使できる株主か、日本で言うところの略式組織再編(*3)における株主にのみ株式買取請求権が与えられており、およそ「賛成株主以外の全株主」に株式買取請求権が付与されているわけではありません(*4)。また、<デラウエア州法>ではShort Form Merger(略式組織再編)における株主の株式買取請求権についても否定されていますので、およそ「合併等の行為を承認する総会での議決権保有者で、かつ、賛成票を投じなかった者」にのみ株式買取請求権が与えられていることになります(*5)。

日本の会社法が株式買取請求権の範囲を広げたのは、株式買取請求権という制度に少数株主保護の機能を大いに期待しているからであると考えられます。アメリカと異なり、「支配株主の少数株主に対するFiduciary Duty」が判例上認められておらず、かつ、組織再編行為を事前に差し止める制度も存在しない日本では、今回の会社法の少数株主保護重視路線への変更は全体のバランスを採るという意味で妥当と考えます(ただし、株主に投機的利益追求の途を過度に与えるべきではありません)。

なお、手続上、株式買取請求権を行使したい株主は総会に先立って当該合併等に反対する旨を会社に通知する必要がありますが、「総会において議決権を行使できない株主」と「株主総会決議を要しない場合のすべての株主」についてはこの反対意思の通知が不要となっています。

続きは次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) 議決権制限株式の保有者や単位未満株主など
(*2) 簡易組織再編、略式組織再編によって株主総会の承認決議を必要としないケース
(*3) 略式組織再編とは、完全子会社に近い会社との組織再編について、子会社側株主の承認手続を不要とするもので、ある株式会社(支配会社)が他の株式会社(被支配会社)の総議決権の9割以上を保有している場合に適用されます。同じ行為は米国ではShort Form Mergerと呼ばれ、MBCLでは11.05条で定められています。
(*4) MBCA § 13.02. RIGHT TO APPRAISAL
(a) A shareholder is entitled to appraisal rights, and to obtain payment of the fair value of that
shareholder’s shares, in the event of any of the following corporate actions:
(1) consummation of a merger to which the corporation is a party (i) if shareholder approval is
required for the merger by section 11.04 and the shareholder is entitled to vote on the merger, except that appraisal rights shall not be available to any shareholder of the corporation with respect to shares of any class or series that remain outstanding after consummation of the merger, or (ii) if the corporation is a subsidiary and the merger is governed by section 11.05;
(*5) DGCL § 262. Appraisal rights.
(b) Appraisal rights shall be available for the shares of any class or series of stock of a constituent corporation in a merger or consolidation to be effected pursuant to § 251 (other than a merger effected pursuant to § 251(g) of this title), § 252, § 254, § 257, § 258, § 263 or § 264 of this title:
DGCL§ 253で規定されているShort Form Mergerは、Appraisal rightsの対象外とされています。

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