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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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新たな防衛策指針(報告書)の確定

経済産業省・法務省は、2008年6月11日付けで、新たに買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめ、「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方(案)」として公表していましたが、当該新指針の「案」は字句の訂正やコメントの追加を経て、2008年6月30日付けで正式な報告書として公表されましたので、以下にリンクを載せておきます。「案」と比較して、特段大きな修正点はないと言ってよいと思います。

● 新指針: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a01j.pdf
● 指針「案」との変更履歴付き比較データ: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a02j.pdf
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新たな防衛策指針案について(その3)

新指針案は、基本的に、「買収策の発動は制限的であるべきだ」というスタンスで書かれており、安易な防衛策の発動に警鐘を鳴らすものとなっています。なぜ、このような形で軌道修正が必要となったのでしょうか?

もともと2005年に発表された防衛策指針には、指針全体を支える中心的概念として(意味内容の曖昧な)「企業価値」という言葉が用いられており、ここで(より直接的な)「株主価値」という言葉が使用されなかったことから、投資家側からは、経産省や指針は企業(経営者)寄りだという批判が寄せられていました。また、同指針発表後に買収防衛策を導入する企業が多数現れ、かつ、経営者側に、「買収防衛策は万全だ(すなわち、ライツ・プランを実際に発動して敵対的買収を阻止できる)」という意識が芽生えたことにより、防衛策の濫用を心配する声が高まっていました。

更には、ブルドックソース事件の最高裁決定において、

スティール関係者は、本件取得条項に基づきスティール関係者の有する本件新株予約権の取得が実行されることにより、その対価として金員の交付を受けることができ、また、これが実行されない場合においても、ブルドック取締役会の本件支払決議によれば、スティール関係者は、その有する本件新株予約権の譲渡をブルドックに申し入れることにより、対価として金員の支払を受けられることになるところ、上記対価は、ブルドック関係者が自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので、本件新株予約権の価値に見合うものということができる。これらの事実にかんがみると、スティール関係者が受ける上記の影響を考慮しても、本件新株予約権無償割当てが、衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められない。

と書かれてしまったことにより、その後導入された防衛策には、買収提案者に金銭の支払いを行なう可能性を盛り込んだものが見られるようになりました。しかし、本当にその買収提案者が、ブルドックソース事件の高裁が言及したような「濫用的買収者」なのであれば、金銭を支払うことはまさに株主の利益を害することにつながります。そこで、企業年金連合会などは、この「金銭支払い」について強い反対論を唱えており、それを受けて今回の新指針案では、買収者に金銭補償を行なうことに対して否定的な意見を提示する必要があったのです。お金を払いさえすれば防衛策の発動を差し止められることはないと企業(経営者)側が考えてしまってはまずい、早期に軌道修正をしなければならないと考えた結果、このタイミングで新指針案が提示されたのだと思います。

さて、上記の点も含めて、新指針案では、経営陣の行動のあり方として、以下の諸点が提案されています。

① 取締役会は、株主以外の利害関係者の利益に言及することで、買収防衛策によって保護しようとする利益を不明確としたり、自らの保身を目的として発動要件を幅広く解釈してはならない。
② 取締役会は、被買収者の資産を買収者の債務の担保とすることや、被買収者の資産を処分し、その処分利益をもって一時的な高配当をさせることが予定されているなど、それのみでは当該買収が株主共同の利益を侵害するとまでは言い難い理由のみをもって、買収防衛策の発動が必要であるとの判断を行ってはならない。
③ 取締役会は、買収提案の検討期間をいたずらに長期なものとしたり、意図的に繰り返し延長することによって、株主が買収の是非を判断する機会を奪ってはならない。
④ 取締役会は、株主共同の利益を最大化させる買収提案であると判断した場合には、株主総会で株主の意思を問うまでもなく、直ちに買収防衛策の不発動を決議しなければならない。
⑤ 取締役会は、株主が買収の是非を判断できるよう、買収提案に対する取締役会の評価等について、事実に基づいて、株主に対する説明責任を果たさなければならない。
⑥ 買収防衛策を発動する際に、買収者に対して金員等の交付を行う必要はない。


また、これまでにも議論がなされていた特別委員会に関しては、

特別委員会委員会については株主からみた責任があいまいであるとの議論があり、形式的に同委員会を設置し、その勧告内容に従ったからといって、直ちに、取締役会の判断が正当化されるということにはならないことに留意すべきである。同委員会を設置し、実際の買収局面においてその勧告内容を最大限尊重しなければならないとするとしても、取締役会は、かかる勧告内容に従うという判断に関する最終的な責任を負い、それが合理的であることを株主に対して説明する責任があることに留意すべきである。

として、取締役会が最終的な責任と説明義務を負うことが改めて強調されました。しかし、もちろん、これによって取締役会内部に存在する利益相反問題をクリアできるわけではありません。株主によって選任され業務執行者の解任権を有する者が、業務執行者を監視しその利益相反問題をクリアするという構造にならなければ、「責任も権限もない社外者や独立者」にいくら丁寧に判断してもらってもその判断に拘束力を持たせることは出来ませんし、全取締役が利害関係を有すると言えるM&Aにおいて取締役会が株主に対していくら説明責任を果たしたと主張しても、それを信用することは困難だからです。取締役会と業務執行者の関係や位置付けがアメリカと異なる日本においてアメリカの制度(独立取締役や特別委員会制度)を導入しようとすることによる歪みは、まだまだ解消されそうにありません。

新指針案については、あくまで「案」ということですので、最終的な指針が確定し公表された時点で違いがあれば、また取り上げてみたいと思います。

新たな防衛策指針案について(その2)

今回の新指針案においては、「株主意思の原則」に修正が加えられ、「ただし、買収防衛策の発動について多数の株主から賛成の意思表示を得たからといって、直ちに当該買収防衛策が正当化されるということにはならない点に留意すべきである。すなわち、その意思を確認するに当たって取締役会が株主に対する説明責任を果たしたかどうかのほか、買収者の属性、買収提案の内容や被買収者の株主構成などの点が買収防衛策の発動の公正性を判断する上で勘案され得ると考えられる。」とされました。

また、同指針案は、更に直接的に、「取締役が自らは判断を回避し形式的に株主総会決議により株主の多数の賛成を得さえすれば、買収防衛策が安定するとの議論については、株主総会決議を通せる株主構成になっていれば、盤石な防衛体制がとれるといった、誤ったメッセージを関係者に対して送りかねない。実際の買収局面において、善管注意義務を負っている被買収者の取締役が、買収提案が株主共同の利益に適うか否かに関する第一次的判断を自らは回避し、形式的に株主総会に買収の是非に関する判断を丸ごと委ねて、自己を正当化することは、責任逃れと捉えられても仕方がない。したがって、買収局面における被買収者の取締役には規律ある行動が求められる」とも書いています。

日本では、大陸法から輸入した株主総会万能主義については約60年前に廃止されたものの、未だに「困ったときは株主に決めてもらおう」という発想が残っているようです。しかし、機関投資家が古くから「モノ言う株主」として活動してきたアメリカと異なり、株式持合いとメインバンク制がインサイダー型ガバナンス体制を作ってきた日本では、株主総会は長期間形骸化していました。そのような歴史と実態がある以上、「権限分配法理」に全面的に依拠して株主総会に判断してもらえればよいというのは、まさに「責任逃れ」になる可能性があるわけで、新指針案の上記コメントについては私も同じように感じます。

ライツ・プランの発祥国であるアメリカでは、株主は取締役の選任・解任権を通じて最終的なコントロール権限を発揮するに留まり、買収防衛策そのものに関し株主が導入や発動の是非を決めるという文化はありません。それは所有と経営の分離が日本よりも徹底しているからであるとも言えますし(*1)、ライツ・プラン自体がそもそも買収提案者との適切な交渉プロセスの確保のみを目的としているものであり、最後は、プロキシーファイトを通じて取締役を入れ替えて防衛策を消却できる道が残されているからであるとも言えます。機関間の権限分配やコーポレート・ガバナンス体制は日本とアメリカとで未だ同一とは言えませんが、アメリカからの各種働きかけによってその差はどんどん縮まりつつあります。今回の新指針案も、完全な株主総会重視型を離れて取締役会の判断と責任を重視する立場に移行したことにより、更にアメリカ型に近づいたと言えるでしょう。

このように、今回の新指針案においては、取締役会が責任を持って判断すべきと書いてあるわけですが、「株主総会の事前承認によって得られる安心感」は相当大きいため、実務上は、当面、株主総会の事前承認を得るという近時流行りのプロセスは変わらないものと思われます。しかし、個人的な予測としては、数年後には、取締役会の判断のみで防衛策を導入するけれども、「一定数(例えば10%以上)の株式を有する株主が臨時総会を招集することによって防衛策を消却できるようなシステム(chewable)」と「取締役会で防衛策を導入した後、一定期間(例えば1年間)以内に株主総会の事後的承認決議を得るシステム」を組み込んだ防衛策実務に変わるのではないかと考えています。その前に裁判所の新たな判断が出るのか、省庁の新たな指針が出てくるのか、一部の日本企業と欧米の議決権行使アドバイザリー会社のやり取りによってベスト・プラクティスが確立されるのかは分かりませんが、最終的には、①買収防衛策を導入するのであれば取締役会の判断と責任において導入するが、株主意思を排除しないためにchewableにしておき、②後はひたすら経営努力と情報開示に努めるという方向に落ち着いていくのではないかと考えています。

次回のコラムでは、新指針案のほかの内容に関して簡単に触れたいと思います。


(*1) そもそもアメリカでは、「会社は株主のものである」と言うときの「株主」は「投資のために株を買った人たち」という位置付けであり、経営の素人であるから、所有と経営の分離は徹底していた方が良い、よって、株主には法令と定款で定められた権利のみ(主に取締役の任免権)を与えることで足りるという考え方に立った上で、だからこそ、膨らみがちなAgency Costを抑えるための方策が試行錯誤されてきたという経緯があります。

新たな防衛策指針案について(その1)

経済産業省・法務省は2005年5月27日付けで<「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」>(以下、「指針」と言います)を公表していましたが、2008年6月11日付けで、新たに買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめ、<「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方(案)」>(以下、「新指針案」と言います)として公表しました。

6月の株主総会直前に発表されたというタイミングの問題に加え、裁判所がここ数年の間に示してきた各種基準と比較して一部異なると思われる考え方が述べられているため、買収防衛実務に若干の混乱を発生させる可能性のあるこの新指針案ですが、大きな流れとしては、

① 日本の裁判所が示した株式会社の機関における「権限分配法理」(会社の実質的所有者である株主によって構成される株主総会が最高意思決定機関であり、株主構成そのものに影響を与える買収という大問題に関して、株主に選任されたに過ぎない取締役会が決定するのはおかしいという考え方)と、
② 株主総会の能力限界論(買収防衛策導入・発動の是非について、多数決原理が導入される株主総会において常に適切な判断が得られるかどうか分からない)、および、取締役の責任回避を危惧する意見(株主総会に任せておけば大丈夫として取締役自身が十分な検討をしなかったり、株主への説明義務を怠ることを危惧する立場)


との間で相当頭を悩ませた結果、ひねり出された苦肉の提案ではないかと考えています。

そもそも、2005年の指針においては、「株主総会は、株式会社の実質的所有者である株主によって構成される最高意思決定機関として、株主共同の利益の保護のために、定款変更その他の方法により買収防衛策を導入することができる。定款による株式譲渡制限はその最たるものであるが、第三者に対する特に有利な条件による新株・新株予約権の発行も株主総会の特別決議を経れば適法とされ、また、法律上特別決議が必要な事項よりも株主に与える影響が小さい事項であれば、株主総会の普通決議等により買収防衛策を採ることも株主による自治の一環として許容される。」と記載されていました。これはいわゆる「株主意思の原則」と呼ばれるものです。

また、ブルドックソース事件の2007年8月7日付け最高裁決定は、「議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決されたのであるから、スティール関係者以外のほとんどの既存株主が、スティールによる経営支配権の取得が相手方の企業価値をき損し、ブルドックの利益ひいては株主の共同の利益を害することになると判断したものということができる」としました。その結果、買収防衛実務においては、とにかく株主総会の決議を重視する方向で動いていたわけです。

しかし、私自身は、特別委員会に関するコラム(<独立取締役/特別委員会に関する議論について(その6)>)で述べたように(*1)、株主総会に委ねることで取締役は安心してはならないと考えてきました。

「権限分配法理」は法学上の議論としては一理ありますが、相当改善されてきたとは言え株主への情報開示も不十分(モノ言う株主が日本で登場したのはつい最近のことですから、これはやむを得ません)、取締役の責任追及体制も文化としてあまり定着していない、支配株主の少数株主に対するFiduciary Dutyも法律上・判例上認められていない現在の日本の状況では、株主総会に委ねるという一見民主主義的な方法に頼ることで、取締役会が「気軽に」買収防衛先を導入したり発動したりして、実は株主にとって利益になる買収提案を封じ込めてしまうリスクの方が高いと思うからです。これは株主総会の特別決議を得る仕組みにしたとしても、同じです。

また、関係省庁や裁判所が何か基準や考え方を示す度に買収防衛策の内容や手続を変えること自体が刹那的であり(しかも、経産省・法務省の指針などの位置付けはソフトローと呼ばれることもありますが、指針に従ったからといって裁判に勝てる保証はなく、実際の効果・効力は不明です。また、株主向けの防衛策の説明書面に「本防衛策は○○省の指針に従っています」と明記して株主の同意を誘引するのが通常ですが、これでは防衛策の必要性や相当性に関して実質的な説明を放棄していると取られてもやむを得ないものと思います。)、コロコロと防衛策の内容や手続を変更していては、企業としての骨太の経営方針を示すことができません①買収防衛策を導入するのであれば取締役会の判断と責任において導入するが、株主意思を排除しないためにchewableにしておき、②後はひたすら経営努力と情報開示に努める・・・、そんな骨太の方針の方が好ましいのではないでしょうか。

長くなってきましたので、続きは次回のコラムで述べたいと思います。


(*1) 以下は、過去のブログの引用です。
「利益相反というのは、具体的にはその取引に利害関係を有する業務執行者と株主の利益相反、あるいは、支配株主(およびそれと利害を共通にする経営陣)と少数株主の利益相反です。社外独立チェック型ではない日本の取締役会や現状の特別委員会ではこの利益相反問題を解決できないと踏んで、裁判所は利益相反問題で損害を被る株主自身に直接意思決定をすることを求めています。取締役会も公正な判断が期待できない、裁判所も経営判断は行い難い、よって、株主に任せるしかないという流れです。しかし、株主といっても、多数派株主に少数株主の利益を考えた判断を要求することは困難ですので(アメリカと異なり支配株主に善管注意義務が課せられていない日本では尚更)、少数株主の利益保護が問題となっているようなケースでは、少数株主の過半数同意を要求するといったところまで整備しなければ万全とはいえないと考えます。
①支配株主が関与する取引、②会社の売却、③買収提案を受けている中での防衛策の発動といった利益相反リスクが高い場面(アメリカではいずれもBusiness Judgment Ruleの適用が否定されている場面)においては、特別委員会を設置し、その判断を「最大限尊重する」だけでは、裁判所において公正な取引であったとの認定を受けられる可能性は保証されていないと考えるべきでしょう。独立取締役制度が存在しない以上、株主総会の承認というプロセスを利用せざるを得ない場面も出てくると考えますが、その場合でも、株主総会を経たから安心と考えるべきではなく、不利益を被る株主のInformed Judgmentを得るために万全の準備をしなければならないと考えます。」

ゴールデン・パラシュートに対する考察(その2)

アメリカでなぜゴールデン・パラシュートが発展したのか?

アメリカでは、独立性の高い社外取締役が(防衛策についても報酬についても)判断します。ここで第一段階のスクリーニングはできていると考えられているわけです。

続いて、アメリカでは、<コーポレート・ガバナンス>のコラムでも述べたように、資本市場そのものが会社を監視しているという考え方が基本です。常識外れのゴールデン・パラシュートを導入したとすれば、例えば機関投資家が黙っていないというわけです。現に、機関投資家のうちのいくつかは、「ゴールデン・パラシュートについては株主総会の承認を得るべき」という見解を打ち出しています。ここにあるのは、「結局のところ、取締役は株主の目を盗んで好きなことはできないはずだ」という資本市場に対する信頼です。

更に、アメリカでのM&Aは常に司法判断によって形作られてきました。ゴールデン・パラシュートについては、平時での導入であればBusiness Judgment Ruleが適用され比較的自由に設定・導入ができますが、買収提案を受けた後であればユノカル基準が採用され、更に、取締役会が売却を決めた後になるとより厳しいレブロン基準が適用されるものと考えます。法外なゴールデン・パラシュートは司法が許さないはずだというわけです。

また、<ヤフーとマイクロソフトの攻防(Tin Parachutes)(その2)>でも述べたように、アメリカでは税法上、「過去5年間の平均報酬の3倍以上の退職金を役員に支払うとそれをもってゴールデン・パラシュートに該当するとされ、平均報酬を超える部分に関して20%の超過税が課される」ことになっています。つまり、「社外取締役が判断し、株主が監視し、司法が事後的にチェックし、税務上も多額のゴールデン・パラシュートについては不利益的取扱いをする」という体制が整っているからこそ、ゴールデン・パラシュートが減らないのです。これに加えて、前述の、「役員に十分な退職金を支給すると約束しておけば、自己のポジションに固執して株主に有利な買収提案を断る事態が減るだろう」という考え方が根強いというのもあります。

対して、日本では・・・、敵対的買収提案を受けた会社の取締役が買収完了後に数十億円の退職金をもらったことが判明すれば、「道義的」な批判が全面に出てきてしまうのではないでしょうか?しかし、今の日本の状況ではむしろこれは当然だと考えます。CEOの報酬水準が低いだけではなくて、上記のような「体制」が不十分だからです。「資本市場と司法判断が濫用的な経営陣と濫用的な買収者を規律する」という体制ができ、税務上の対策まで施されれば、(それが良いか悪いかは別として)日本にもゴールデン・パラシュートが普及するようになると予測しています。

なお、日本取締役協会の「資本市場を正しく使う委員会」(メンバー:日興コーディアルグループ会長金子昌資氏、早稲田大学法学部上村達男教授、久保利英明弁護士ほか)は、2005年6月17日付けで<「正しい敵対的企業買収に向けた提言」>と題する報告書を公表していますが、そこでは、ゴールデン・パラシュートは、「敵対的買収の局面における取締役の利益相反を減少させ、取締役が自己の保身を離れて、買収者の提案について、それが株主利益に資するか否かの観点から判断することを可能とする」から、「敵対的買収の局面における株主と経営者の利益相反を減少させるためには、適切に設計されたゴールデン・パラシュートを導入すべきである」との提言がなされています(12頁)。
この提言は、資本市場によるガバナンスを強化すること、証取法または証券取引所規則によって独立取締役の制度を導入することといった他の提案とともになされていますので、全体として見れば、アメリカ型コーポレート・ガバナンスシステムへの移行を提案しているものと考えられます。

「日本企業の出発点と拠って立つべき所は技術力(モノづくり)である」と考える私見からは、キャピタル・マーケットを過度に信頼したり、株価(株主)至上主義に陥ることについては、日本経済の持続的成長という観点から躊躇を覚えますが、少なくとも、ゴールデン・パラシュートについては、上記提言のように、金額の多寡だけを議論すべきではなく、ガバナンスや資本市場・裁判所の役割とも絡めて議論しなければならないということだと考えます。

ゴールデン・パラシュートに対する考察(その1)

敵対的買収の際に役員や従業員に多額の退職給付を与えることをもって買収防衛策とする、いわゆるゴールデン・パラシュートやティン・パラシュートに、いかなる問題が存在するのでしょうか?まずは、問題視されることが多いゴールデン・パラシュートについて考えてみたいと思います。

すぐに思いつくのは、役員が自分に対する退職金を増額させるわけですから、お手盛りのリスクがあるのではないか、役員が自らを利することで株主の利益を害するのではないかということです。この問題については、アメリカでは1980年代から各種論文で取り上げられてきました。そこでの議論を振り返りますと、立場は以下の二つに分類できます。

1. 株主との利益相反は明らかであるから、好ましくない。
2. ゴールデン・パラシュートが存在することによって、現在の取締役は、自分の利益を一旦忘れて(=自分は現在のポストに後ろ髪を引かれることなく退陣して)、株主にとって最善の買収提案をチョイスできるようになる。よって、むしろ株主の利益につながる。


そして、見解1に対しては、「役員の利益と株主の利益が対立するのは、通常の役員報酬と退職給付とで差異はない。いずれのケースでも、独立取締役からなる報酬委員会で判断すれば利益相反は回避できる」という反論が、見解2に対しては、「ゴールデン・パラシュートの金額が高すぎると、現在の取締役の中には、株主に利益にならない敵対的買収でも受け入れて、自己が多額の退職金を得るという選択肢をチョイスするリスクが出てくる。」という反論がなされていました。

このような議論を経て、現在のアメリカでは、上場企業のうち大手は半数以上がゴールデン・パラシュートを導入しています。高額のゴールデン・パラシュートが新聞を賑わせるたびに、その金額について道義的な非難の声が(主に株主から)あがるにも拘らず、ゴールデン・パラシュートは消える気配がありません。他方で、日本では、ゴールデン・パラシュートはほとんど全くといっていいほど導入されていません。ここはとても興味深い相違点です。ゴールデン・パラシュートに関して日米の考え方の違いを議論するだけで、M&Aやコーポレート・ガバナンスに関する日米のシステムおよび考え方の違いが全て議論できるのではないかと思うほど、興味深い問題です。

例えば、「会社が利益をあげるか損失を出すかは、CEOの手腕にかかっている」という考え方は日本よりもアメリカの方が強いと言われ、その結果、(優秀なCEOを獲得し、つなぎとめるために)「従業員の給料平均に対するCEOの報酬平均」値は、アメリカが日本の4~5倍高いと言われています。よって、アメリカには元々役員に多額の退職金を給付する風土が備わっている・・・と考えることもできそうですが、それだけがゴールデン・パラシュートに関する違いの理由ではなさそうです。
アメリカでなぜゴールデン・パラシュートが発展したのかについては、次回のコラムで更に詳しく考えてみたいと思います。

ヤフーとマイクロソフトの攻防(Tin Parachutes)(その2)

さて、Golden ParachutesとTin Parachutesの違いの2点目は、導入方法です。日本の場合、Golden Parachutesは役員の退職慰労金に関するものですので株主総会の決議が必要であるのに対し、Tin Parachutesは従業員の退職金に関するものですので労働法所定の手続に加えて取締役会決議で導入できます。よって、Tin Parachutesの方が機動的に導入できるといえるでしょう。なお、米国では、Golden Parachutesについても株主総会の承認は不要ですが、機関投資家が株主総会での承認を得ているGolden Parachutesについては異議を唱えない傾向があることから(金額にもよります)、会社が進んで株主総会にかけることがあります。

Golden ParachutesとTin Parachutesの違いの3点目は、効果です。「Tin Parachutesの方が、一旦導入された後に買収者が交渉によって撤去するのが難しい」とか「裁判所から見た場合、Golden Parachutesは無効と判断しやすいが、Tin Parachutesでは利益相反状況がないからこれを無効というのは難しい」といわれることがありますが、対象人数の多さや相手が従業員であるということを考えれば、買収者側から見てより嫌なのはTin Parachutesの方であろうと思います。また、Tin Parachutesには、買収におけるコスト戦略としてターゲット会社の従業員の整理解雇(lay off)に重点を置いている買収者を排除するという効果もあります。

ところで、ヤフー社のTin Parachutesの内容は、同社がSECに提出したフォーム8-Kによれば、

企業支配権の移動から2年以内に、被用者が「理由」(“cause”)なく当社により解雇された場合、または、被用者が「正当な理由」(“good reason”)をもって退職を願い出た場合、
(1)退職金として、退職日以降指定期間(社員の職位に応じ、4ヶ月から24ヶ月)中、社員の年俸ベースの給与支給を継続する。
(2)退職日以降24ヶ月間の再就職費用の償還(職位に応じ、3,000ドル~15,000ドルを上限とする)
(3)退職金支給期間中の医療団体健康保険及び歯科保険の継続
(4)退職時に未行使のストックオプション、制限付株式その他エクイティベースの権利の繰上げ行使を認める


というものでした。果たして、この内容は一般的なものなのでしょうか?実務家としては、「先例として使えるかどうか」が気になります。

Tin Parachutesは原則として開示されないために調査が難しいのですが、オラクルがピープルソフトを買収しようとした2003年に、ピープルソフトは、総額2億ドルに及ぶTin Parachutesを導入しました(*1)。また、古い例なども調べていくと、「敵対的買収の場合には雇用期間1年当たり1ヶ月分の給料相当額の退職金(下限3ヶ月、上限24ヶ月)を支給する」とか「敵対的買収の場合にはボーナスも含めた年俸の50%から250%を支給する」といった例があるようです。Golden Parachutesの場合、アメリカでは、税法によって、過去5年間の平均報酬の3倍以上の退職金を役員に支払うとそれをもってGolden Parachutesに該当するとされています(Golden Parachutesに該当すると、平均報酬を超える部分に関して20%の超過税が課されます(*2))。よって、「Golden Parachutesは年俸の299%まで」といったイメージが存在するのですが(これはあくまで税務的な観点からのアドバイスにおいて299%に留めておいた方がよいと言われるものに過ぎず、実際のGolden Parachutesプランでは300%以上支給することを定めているものもあります)、その点からしても、Tin Parachutesは2年分程度が穏当な範囲かという印象を持ちます。その他、様々な資料を読んでみたのですが、
1.対象者は、Change in Controlから2年以内に解雇された従業員
2.雇用期間1年につき2週間から1か月分の給料相当額を退職金として支給する
3.支給額上限は2年分の給与相当額前後
4.支給期間に相当する期間中、保険や福利厚生関連のサービスは継続する
5.各種権利の待機期間については撤廃され、即権利行使が可能になる

といった内容が多いように感じました。そうすると、ヤフーのTin Parachutesプランは特段目新しいものではなさそうです(*3)。

なお、これらのParachutesプランについては批判も少なくありません。ここに潜む利益相反の問題や株主の利益との関係については、また別の機会に述べたいと思います。

(*1) 12 Harv.Negotiation L.Rev.1
(*2) IRC Section 280G and 4999
(*3) そもそもTin Parachutes自体は目新しいものではありません。アメリカでは1980年台に登場し、いくつかの州ではTin Parachutes法まで成立しました。例えば、マサチューセッツやロードアイランド州では、Change in Controlから2年以内に解雇された従業員に対して、それぞれ「雇用期間1年につき2週間分」の給料相当額を退職金として支給するという法律ができました。なお、いくつかの州のTin Parachutes法は、裁判所によって、<「アメリカの連邦法であるERISA(Employee Retirement Income Security Act)という労働者保護法が優先する結果、適用されない」という判断>を受けています。

ヤフーとマイクロソフトの攻防(Tin Parachutes)(その1)

ソフトウエア世界最大手の米マイクロソフトがインターネット検索大手の米ヤフーに総額446億ドルの買収案(*1)を提示していますが、ヤフー取締役会はこの買収提案を拒否した上で、買収防衛策として従業員の退職金制度を改定しました(報酬委員会の承認日は2008年2月12日)。この退職金制度の改定により、買収後2年以内に正当な理由なくヤフーの従業員が解雇された場合、当該従業員はそれぞれの地位に応じて4か月分から2年間分の基本給と特定の手当てが支給されることになります。これが買収者から見た場合には買収費用の大幅増加となり、買収防衛策の一種になるということです。

このような「買収防衛策としての従業員退職金支給制度」は、役員への退職金制度が「黄金のパラシュート」(Golden Parachutes)と呼ばれているのに対して、若干豪華さに欠ける「スズ(ブリキ)のパラシュート」(Tin Parachutes)と呼ばれますが、Golden ParachutesとTin Parachutesにはいくつか違いが存在します。

1点目は、ディスクロージャー(開示)に関する取扱いです。取締役(Director)・役員(Officer)に対する報酬・退職金(年金プランを含む)については、アメリカであれば委任状説明書(Proxy Statement)へ記載して開示することが証券取引委員会(SEC)の規則によって定められています(ただし、取締役・役員の全員が対象となるわけではありません)。よって、Golden Parachutesの内容は、公開されている情報を元にチェックできます。

他方、日本では、会社法施行規則121条4号に基づき、公開会社は「当該事業年度に係る取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額」を「事業報告」(=旧商法下での「営業報告書」)の記載事項としなければならないとされていますが、役員ごとの個別開示義務はありません。そのほか、金商法(旧証取法)上、「コーポレート・ガバナンスの状況」に関する情報として、役員報酬の内容が有価証券報告書の記載事項とされていますが(平成15年3月31日内閣府令28号)、「企業内容等の開示に関する内閣府令」は役員報酬の記載方法に関する詳細なルールを定めていませんので、退職慰労金については実務上記載したりしなかったりと様々です(*2)。いずれにしても、Golden Parachutesであれば、その存在が開示される可能性があります。

他方、Tin Parachutesについては従業員の退職金ですので、アメリカでも日本でも開示義務は存在しません。よって、Tin Parachutesを導入した会社から進んで開示がなされない限り、その存在を知ることは困難といえます。実務家の観点からは、原則的に開示されないものについては調査がしにくいということで、先例探しに苦労されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。では、なぜ今回ヤフーが策定したTin Parachutesについて報道機関が報道できたのか?それは、ヤフーが、今回のTin Parachutes策定の事実を、2008年2月12日付け<SECへの報告書(フォーム8-K)>(*3)に記載して開示したからです。では、なぜ、今回のプランがフォーム8-Kの対象事項となったのか?それは、「当該プランは、CEO・CFO・上級Officerをも対象とするものであったから(よって、開示義務が発生する)(*4)」というのが法律上の回答になると思いますが、実務上は、あえて開示することでマイクロソフトに対してヤフーが買収防衛策を導入したことを知らせるためであったのだろうと推測します。(続きは次回の記事にて。なお、本ブログでは、赤字部分はリンクを含んでいませんが、青字部分は全てリンクを含んでいます。)

(*1) 1株31ドルでの買収提案。1月31日の終値に62%のプレミアムを上乗せ。
(*2) 米英仏独などでは公開企業の上位役員の個別報酬開示はすべて強制であるのに対し、日本では総額や計算方法の開示で足りる点については、株主からの批判もあり、最近様々な議論がなされていますが、ここではひとまず置いておきたいと思います。
(*3) 「臨時報告書」(Current Report)
(*4) 役員も含んでいるという点からは、今回の退職金プランはTinとGoldenの合体版であるといえます。

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