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井垣太介 (Taisuke Igaki)

Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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ディスカウントTOBの許容性

公開買付けで特定の大株主からだけ株式を取得したいときは,一般的に,ディスカウントTOBが用いられています。時代によって流行度合いの差はあるものの,これまでのデータを見ると,全TOBに占めるディスカウントTOBの割合が数割に達した年もあり,ディスカウントTOBは,上場廃止に至らないで大株主から株式を取得したい場合の便利な手段として用いられてきました。

また,会社法161条は,「市場価格を超えない価格による自己株式取得」を前提としていますので(この場合,他の株主に売主追加請求権を行使させずに特定の株主から相対で株式を取得することができる),ここでもやはり一種のディスカウント取引を認めていることになります。

ところで,こういった市場価格以下での株式売買については,売主側取締役の善管注意義務に反するのではないかという疑問が生じます。売主側取締役には,保有株式を含む会社資産について可能な限り高く売却する義務があるからです。実際に,フジテレビジョンが行ったニッポン放送株式の公開買付けに応じた東京電力に対し,東京電力の株主が,「ライブドアによる買付けの結果,(市場が動いて)買付価格が市場価格を下回ったにもかかわらず,応募を維持して株式を売却したのは善管注意義務・忠実義務違反である」と主張して株主代表訴訟を提起したケースがありました。

このケースは,当初から市場価格を下回る買付価格が提示されたわけではないという点で,計画されたディスカウントTOBではなかったかも知れませんが,結果としてはディスカウントTOB状態になりました。では,市場価格を下回る買付価格の公開買付けに応募することは許されるのでしょうか?・・・この点について東京地裁(東京地判平18・4・13判タ1226)は,市場価格を下回る買付価格の公開買付けに応募するか否かは「経営判断の問題」であると位置づけました。買付け価格は合理的である必要がありますが,何をもって買付け価格が合理的かを判断するに当たっては,裁判所は,単に値段が高い安いの問題だけではなく,要請元の企業やそのグループとの円滑な取引関係の維持や発展の要否など多様な諸要素も勘案する必要があると言っています。

その上で,東京地裁は,

① ニッポン放送株式の市場価格は買付価格を上回る価格で推移したものの,その差は1割程度であること
② 本件公開買付けに応じた目的が,経営上重要な取引先であるフジサンケイグループとの良好な関係の維持にあったこと
③ 本件買付価格は,公開買付け開始前の市場価格(3ヶ月平均)に約21%のプレミアムを加えた価格であったこと
④ ニッポン放送株式が上場廃止となった場合,株価が大幅に下落したり,換価が困難になる可能性を否定できないこと
⑤ 東京電力にとって,フジサンケイグループは大口の顧客であること
⑥ 東京電力の経営規模を勘案すれば,本件株式の処分が取締役会の決議事項に当たるとも解されないこと


といった要素を考慮した上で、東京電力の取締役の判断に善管注意義務違反は認められないと判示しました。

経営判断の原則というのは,要するにケース・バイ・ケースで判断しましょうということですので,買付価格と市場価格のバランスに留意しながらも,株式をその価格で手放す必要性と相当性に関し,訴訟になった場合に十分な攻撃防御ができるように準備しておく必要があると考えます。
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公開買付けにおけるプレミアム(上乗せ率)の「流行り」

公開買付けには,いわゆるディスカウントTOBという,直近の市場株価よりも低い買付け価格を提示して公開買付けを行うパターンもありますが(これについては次のエントリーで書きます),通常は,公開買付けを公表する前の一定期間における平均株価に20%や30%といった上乗せを行った価格で買付けを行います。この上乗せの率については,国や時代によって流行りがあるようですが,日本の場合,昨日(2008年9月27日)付けの日経新聞によれば,2004年には平均9%だったプレミアムが,2007年には平均24%に上昇し,今年(2008年)は更に上がって年初から9月20日までの平均が48%となっているようです。

ただ,この48%という数字には,東宝がコマ・スタジアムを公開買付けによって子会社がした際の341%というプレミアムが含まれているため,これを例外的ケースとして外せば平均42%となるようです。また,上記日経新聞のデータは,TOB公表前3ヶ月のターゲット企業の終値平均と買付け価格を比較する方法で算出されていますので,「前日の終値」「1ヶ月の終値」「6ヶ月の終値」「1年間の終値」を基準にしたデータとは異なってきます。

続いて,日経のデータによると,TOBの中でもMBOに関しては更に強い上昇傾向を示しており,今年(2008年)9月25日までに公表されたMBO11件のプレミアム率平均は58%になっています。経産省の企業価値研究会が2007年9月に公表した<MBO指針>以前のプレミアム平均は28.5%だったとされていますので,その上昇傾向は顕著と言えます。これは,MBOに構造的に存在する買主(取締役)サイドの利益相反問題,売主・買主間の情報の不均衡問題から(レックス事件のような)トラブルに発展しないように,予め買取価格が高めに設定されるからだと考えます。

ただ,上記平均値については,冒頭で述べたように,その時期ならではの流行りという要素もあります。現在で言えば,株価の低迷です。市場株価が低く企業価値を反映していない場合は,プレミアムは拡大します。株を手放す株主から見れば高いプレミアムは有難いわけですが,高い買い物をしすぎたということにならないよう,プレミアムを抑えることも大事です。海外市場の平均は約30%とされていますので,これを基準に,対象会社やそのときどきの特殊事情を加味して決めればよいのではないでしょうか。M&Aにおけるプライシング全般については,また別のコラムで検討してみたいと思います。

自社株の買付け規制

最近,上場会社が自社株を大量に買取る場合の規制内容について質問を受けましたので,この機会に整理をしておきたいと思います。

発行会社といえども自社株を大量に買い付ける場合は公開買付け規制の対象となるというイメージがあるかと思いますが,ここでいう「公開買付け的」規制には,金商法上の公開買付け(金商法27条の22の2以下)と,会社法上の売主追加請求権(会社法160条以下)が含まれます。

自社株を相対で取得する場合の手続は,原則として株主総会の特別決議です(会社法156条,309条2項2号)。そしてこの場合,会社法160条は他の株主が自己も売主に追加することを認めるよう請求できるとしていますから,ここで一種の公開買付け類似の状態が発生します。ただし,会社法161条は,当該自社株購入の対価が市場価格未満であるときは160条を適用しないとしていますから,その場合に限り他の株主の売主追加請求権が排除されます。他方,株主総会特別決議ではなく「定款+取締役会決議」で自社株を取得する場合(会社法165条)は,そもそも相対取引ができませんので,買取る株式数が少なければ市場で買い付け,多ければ金商法上の公開買付けを行わければなりません。

以上を整理すると,以下のようになります。
規制の種類としては,①金商法上の公開買付けと②会社法上の売主追加請求権があって,

・ 定款+取締役会承認で大量の自社株買いを行う場合は,①は必要,②は不要
・ 株主総会の承認を得て相対で自社株買いを行う場合は,買い付け価格が市場価格未満であれば他の株主を害さないので,①②ともに不要,市場価格以上で買取る場合は①は不要,②は必要


となります。なお,自社株買いに限らずそもそも公開買付けが必要な場合については,<公開買付制度の概要(その1)>をご覧下さい。また,自己株式取得の方法としては,上記以外にも証券取引所を通じて行われる「事前公表型の市場内での取得」というカテゴリーが存在し,「終値取引(ToSTNeT-2)による買付」による取得や,2008年1月15日から始まった「自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付」(*1)の利用頻度が増えているようです(例えば,タカラトミーは,2008年8月26日付けで,東京証券取引所のToSTNeT-3を利用して、大株主で資本・業務提携関係にあったインデックス・ホールディングスから約570万株を取得しました)(*2)。


(*1) 詳細は,http://www.tse.or.jp/rules/stock/guideline/jikokabuqa.pdf
(*2) これら立会外取引(ToSTNeT)も,金商法上の公開買付規制の対象となります。

公開買付制度の概要(その6)~全部買付義務ほか~

今回は、平成18年の改正点のうち、「全部買付義務の導入」と「買付者が競合する場合の処理」について述べたいと思います。

まず、「全部買付義務の導入」ですが、旧法下では、買付予定数を上回る応募があった場合には、按分比例方式によって超過部分の全部または一部を買い付けないという選択肢が存在しました。しかし、買付者が発行済み株式を大量に取得してしまった場合、対象会社は上場廃止となる可能性があり、このとき残された少数株主は手残り株を抱えたまま著しく不安定な地位に置かれることになります。そこで、平成18年改正によって、公開買付け後における株券等所有割合が3分の2以上になる場合には、買付予定数の上限を設定することは認められず、その結果、公開買付者は応募株券の全部を買い取らなければならないこととされました。
また、親会社が子会社株式を買付ける結果株券等所有割合が3分の2以上になる場合には、公開買付けによることが強制され、その結果、同じく応募株券の全部を買い取らなければならないことになりました(*1)。

これらは少数株主保護の一方策と言えますが、この「全部買付義務の導入」によっても少数株主が完全に保護されるわけではないと考えます。なぜなら、今回の法改正は、「応募をすれば買い取ってもらえる」ということに過ぎず、応募しなかった株主が救済されるわけではないからです。上場廃止となれば手残り株は容易には処分できなくなりますので、買付け条件に不満があったとしても株を手放す株主が出てくるはずです(*2)。支配株主のFiduciary Dutyが法律上も判例上も認められておらず、いわゆる二段階買収のスキームが採られた場合の二段階目の現金交付合併における対価が公開買付価格と同額であることが制度上保証されていない日本では、「不満があったので応募しなかった株主」と「不満はあるがやむを得ず応募した株主」の双方が被る不利益が考えられ、それらは「全部買付義務の導入」によっても解消されません。そこで、今回の改正は一つのステップとして前向きに捉えた上で、情報開示の更なる強化および公開買付けプロセスの適切さを監視する機関の創設(EU諸国にはかかる監視機関が存在します。例:イギリスの<Takeover Panel>http://www.thetakeoverpanel.org.uk/new/)と、支配株主の責任を認める法理論の確立が必要になってくると考えます。特に最後の支配株主の責任を認める法理論は「買収後の株主保護」策ですので、これが確立されれば、株式取得行為自体の規制の必要性は小さくなります。

なお、ヨーロッパでは、公開買付け規制の先駆け的存在であるイギリスが1968年に「公開買付けと合併に関するシティ・コード」を公表しており、これを受けてEUが2004年に「公開買付けに関する指令」を採択していますが、このシティ・コードおよびEU指令では、買付者は原則として対象会社の発行済株式の全てを対象として買付けを行なわなければならないとされています。また、公開買付け後に残存する少数株主は、一定条件を充たせば会社に対して公正な価格で株式を買い取ることを請求できるシステムになっています(日本にはかかるシステムは存在しません)。

他方、アメリカでは、イギリスのシティ・コード制定と同じ年(1968年)に連邦証券規制の一環としてウィリアムズ法が制定され、公開付規制が始まりましたが、イギリスのような全部買付義務は課されませんでした。その結果、アメリカでは強圧的な二段階買収が流行ったため、これに対抗する意味もあって、ポイズン・ピルが開発されたり、多くの州で反企業買収法が制定され、かつ、判例において少数株主保護のための法理論が作られてきたわけです。

大量の株式取得に関する日本のルール作りは、現在、EU諸国のTOBルールを少しずつ取り入れつつ、他方で、少数株主保護や取締役の責任に関して積み上げられてきたアメリカの判例法も気にしながら、公開買付け規制と買収防衛策をミックスしながら道を探っている状況にあります。行政面では、金融庁が公開買付規制を担当し、経産省と法務省が買収防衛策規制を担当するという縦割り状態ですが、これが、玉虫色のルールを作る結果となっているのかも知れません。早期に国全体でTOBルールと買収防衛策、少数株主保護策が検討され、統一感のあるルールが作られることを望みます。

最後に、「買付者が競合する場合の処理」ですが、ある者が公開買付けを実施している間に他の大株主も同時に買付けを進める場合には、その後発の大株主にも公開買付けが義務づけられます(金商法27条の2第1項5号)。具体的には、株券等所有割合にして3分の1超の株式を保有する者が、急速に買い増しを行う場合に(5%超の株券等の買付け等)、この規制の対象となります。これは、大量の株式買付けが競合する場合には、株主はより複雑な投資判断を要求されること、買付者相互間の公平を図る必要があることから、手続を透明・公正にするために行なわれた改正だと言えます。


(*1) 旧法下においては、議決権の50%超を既に保有している親会社が子会社株式を著しく少数の者から買い付ける場合には、公開買付けによることを要しないとされていました。
(*2) 上場会社の株主の場合、相互に連絡を取り合うことが容易ではないため、いわゆる「囚人のジレンマ」に陥る可能性があります。「囚人のジレンマ」とは、逮捕された共犯者が相互に連絡が取れない個室に入れられて取調べを受けている場面で、もし自白をすれば自分の刑罰のみ軽くなるという状況にある場合、共犯者を信じて黙秘し完全無罪放免を目指すか(この場合、共犯者に裏切られる可能性あり)、共犯者を裏切って自白をするかの決断が非常に困難になる現象を示しています。

公開買付制度の概要(その5)~買収防衛策とのバランス調整~

公開買付開始公告がなされると、当該公開買付けの撤回を行なうことは原則として認められません(金商法27条の11第1項本文)。撤回を認めると、株式市場が混乱しますし、株価操作につながることもあるからです。しかし、対象会社側に破産、M&A、上場廃止といった予期せぬ事態が発生したり、あるいは、最近流行の買収防衛策が発動されたりすると、公開買付けの維持を強制することは公開買付者側に不測の損害を与えることになります。そこで、以下の条件を共に充たした場合には、公開買付けの撤回が認められています(金商法27条の11第1項但書)。

(1) 発行会社またはその子会社の業務または財産に関する重要な変更その他公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事由が発生したこと
(2) 公開買付開始公告および公開買付届出書に撤回することがある旨が記載されていること


平成18年改正以前における上記(1)の撤回事由は、対象会社において、株式交換、株式移転、会社分割、合併、解散、破産・再生・更生手続開始、資本金額の減少、事業譲渡・譲受け、上場廃止などが発生した場合(施行令14条1項1号)などでしたが、改正によって、これに、

① 株式分割
② 株式または新株予約権の無償割当て
③ 株式・新株予約権・新株予約権付社債の発行
④ 自己株式の処分
⑤ 既に発行されている株式に拒否権条項または取締役・監査役選解任権を付すること
⑥ 重要な財産の処分または譲渡
⑦ 多額の借財


が撤回事由として追加されました。なお、これはいずれも、公開買付開始公告後に「公表」された場合に初めて撤回事由として機能します(*1)。また、買収防衛策が消却されないことを理由に買付者が公開買付けを撤回すると決めた場合には、公開買付撤回届出書の「撤回等の理由」欄に、防衛策消却のために買付者側が講じた方策について具体的に記載することが求められています(その方策を採らなかったからといって公開買付けの撤回そのものができなくなるわけではありません)。

さて、上記事由が生じたとしても、公開買付者や対象会社に対する影響が軽微なものは除かれています(軽微基準)。例えば、①②③④については、議決権割合の低下が10%未満であれば撤回事由とはならず、⑦については総資産の帳簿価額の10%未満の借財であればやはり撤回事由にはなりません(⑥については基準なし)。

続いて、これまでに述べた公開買付撤回とは別に、「買付価格引下げ」という手段も、平成18年改正によって買付者に与えられました。具体的に買付価格引下げが認められるのは、

① 対象会社が株式分割を行なった場合
② 対象会社が株式または新株予約権の無償割当てを行なった場合


であり(施行令13条1項)、この場合、「決定」だけでは足りず、現に上記の行為が行なわれることが必要です。なお、「買付価格引下げ」には軽微基準が存在しないため、「撤回はできないが、買付価格引下げはできる」というケースが出てくることになります。買付価格の引下げを決めた場合、買付者は公告によって買付条件の変更およびその理由を株主に知らせる必要があります(金商法27条の6第2項)。


(*1) いつの時点のどのような行為がこの「公表」に該当するかについては何ら基準が公開されていませんが、意見表明報告書の中で対象会社における買収防衛策の方針が記載されることからすれば、この記載等を通じて「公表」が行なわれたかどうかを判断することになると思われます。

公開買付制度の概要(その4)~意見表明報告書②~

意見表明報告書の記載事項のうち、まだ触れていない以下の点を見ていきたいと思います。

⑥ 会社の支配に関する基本方針に係る対応方針
⑦ 公開買付者に対する質問
⑧ 公開買付期間の延長請求


まず、「会社の支配に関する基本方針に係る対応方針」ですが、そもそも、会社法上、この基本方針を会社が定めている場合には、事業報告においてその内容を開示しなければならないこととなっています(会社法施行規則127条)。具体的には、「基本方針の内容」に加えて、

ア 会社財産の有効活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針実現に資する特別な取組み
イ 基本方針に照らして不適切な者によって会社の財務および事業方針の決定が支配されることを防止するための取組み(いわゆる買収防衛策


を開示するとともに、上記の取組みが、基本方針に沿うものであるか、株主の共同の利益を損なわないか、役員の地位の維持を目的するものではないかについて、取締役の判断およびその理由を記載することが求められています。

その結果、事業報告(有価証券報告書でも開示されます)を見ればその会社の基本方針と買収防衛策の中身は分かるわけですが、具体的に公開買付けが行なわれた場合に、実際に当該防衛策が発動されるか否かまでは分からないため、対象会社が提出する意見表明報告書において、現に進行中の公開買付けに関して買収防衛策発動の予定があるかどうか、発動する場合はどのような内容となるのかについて具体的な記載が求められることとなったわけです。

続いて、既に<ブルドックソースとスティール・パートナーズ間のやり取り>などでお馴染みとなっている「公開買付者に対する質問」ですが、株主への情報提供の充実という観点から、対象会社は意見表明報告書の中で公開買付者に対して質問を行なえることとなり、その質問の送付を受けた公開買付者は、受領日から5営業日以内に「対質問回答報告書」を提出することが義務づけられています。この質問と回答のプロセスは、1回きりと定められているわけではありませんので、対象会社は、公開買付者の説明が不十分であれば追加の質問を行なうことが可能ですが、近時は、この質問を繰り返すことによって買収提案の検討期間を徒に長期化させることの弊害が指摘されつつあるところです。経済産業省・法務省は、2008年6月30日付けで、新たに買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめ<「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」>(以下、「新指針」と言います)として公表しましたが(*1)、ここにもこの点の問題意識が現れています。なお、新指針は、「対象会社側の情報開示の在り方」として、

対象会社側は、例えば、①現経営陣の経営ビジョン・経営方針や、代替案、②買収価格に対する現経営陣の評価、③現経営陣が買収により株主共同の利益が毀損されるという判断をする場合にはその旨を、財務的数値を示すなど具体的に開示することが望ましい。

とする一方で、「買収者側の情報開示の在り方」については、

買収者はデューディリジェンスを行っていないことと、買収者が買収後の利益等の具体的な数値まですべてを開示することは自らの手の内をさらすことになり買収戦略上も困難が生じることからすれば、買収者による情報開示にはおのずから限界がある。すなわち、買収後の詳細な経営計画・見通しや業績予想の開示については限界があると考えられる。

として、現実的視点から、買収者に対する情報開示要求に歯止めをかけています(*2)。支配権の交替の場面では、買収者と対象会社経営陣がフェアな立場に立って交渉して初めて株主の適切な投資判断を可能にすると言えますので、上記スタンスには個人的にも賛成です。

続いて、公開買付期間が30営業日を下回る場合には意見表明報告書の中で買付期間の延長請求が可能となりましたが(27条の10第2項2号)、この延長請求がなされると、買付期間は30営業日に延長されます(27条の10第3項)。延長請求を行なった対象会社としては、これを株主に周知させる必要があるため、公開買付開始公告が行なわれた日から10営業日以内に、期間延長請求公告を行なわなければなりません(*3)。


(*1) 新指針の「案」は、2008年6月30日付けで正式な指針として公表されました。
新指針: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a01j.pdf
指針案との変更履歴比較データ: http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80630a02j.pdf
(*2) 新指針は、更に、「例えば、①買収価格の算定根拠として、算定の前提となる事実や仮定、算定方法、算定に用いた数値情報並びにシナジーの額及びその算定根拠について、買収者に網羅的に開示を要求し、あるいは、②買収後の経営方針として、事業計画、財務計画、資本政策、配当政策、資産活用方策等の内容について、買収者に網羅的に開示を要求した上で、提供されない情報があることをもって買収防衛策を発動することは、被買収者側の開示状況と対比するに、不適切である。」として、望ましくない行為を具体的に提示しています。
(*3) 公開買付期間は、平成18年改正前は、買付公告の翌日から起算して20日以上60日以内とされていましたが、改正後は初日算入方式に変わり、かつ、実日数ベースから営業日ベースに変更された結果、「買付公告の当日から起算して20営業日以上60営業日以内」になっていますので注意が必要です。

公開買付制度の概要(その3)~意見表明報告書①~

前々回のコラムで、今回の法改正では以下の諸点について見直しがなされたと書き、1の「脱法的取引への対応」については既に述べましたので、今日は2について説明したいと思います。

1. 脱法的取引への対応
2. 株主への情報提供の充実
3. 買収防衛策とのバランス調整
4. 全部買付義務の導入
5. 買付者が競合する場合の処理


第三者から公開買付けがなされた場合、会社支配権に対する争奪戦が始まったと言えます(敵対的買収の場合)。とすれば、株主から見ると、買付者がどのような経営プランを持っているのか、また、現経営陣が当該買付けを評価しているのか、何か問題があるものとして敵対視しているのかなど、気になることはたくさんあると思います。この点、旧法下では、対象会社による意見表明は任意だったために(*1)、株主が的確な投資判断を行うために必要な情報が提供されないケースもあったものと思われます。

そこで、平成18年改正によって、対象会社は、公開買付開始公告がなされた日から10営業日以内に意見表明報告書を提出しなければならないこととされました。そのほか、同改正によって、意見表明報告書を利用して買付者に対する質問を行なうことができるようになり(27条の10第2項)、また、公開買付期間が30営業日を下回る場合には意見表明報告書の中で買付期間の延長請求が可能となりました(27条の10第2項2号)。

まず、意見表明報告書の提出義務ですが、これは文字通り「報告書の提出義務」であり、改正後の現在においても意見の表明義務自体はありません。ただし、改正前と異なり、沈黙することは認められておらず、意見を表明できない場合は、意見表明報告書を提出した上で、その中で、理由付きで「意見を留保すること」を明記しなければなりません。また、改正前は存在した「役員の意見表明報告書提出義務」は改正後は存在しません。よって、役員が会社と異なる意見を表明した場合でも、当該役員が意見表明報告書を個別に提出する義務を負うことはありません。

意見表明報告書の記載事項は内閣府令25条2項で定められていますが、具体的には以下のとおりとなっており、このうち⑥⑦⑧は平成18年改正で新設された項目です。

① 公開買付者の名称・所在地
② 当該公開買付けに関する意見の内容および根拠
③ 当該意見を決定した取締役会の決議の内容
④ 役員が所有する当該公開買付けに係る株券等の数および当該株券等に係る議決権の数
⑤ 役員に対し公開買付者またはその特別関係者が利益の供与を約した場合、その利益の内容
会社の支配に関する基本方針に係る対応方針
公開買付者に対する質問
公開買付期間の延長請求


意見表明の仕方としては、「公開買付けに応募することを勧める」「公開買付けに応募しないことを勧める」「公開買付けに対し中立の立場をとる」「意見の表明を留保する」など、分かりやすく記載する必要があります(*2)。そして、意見の根拠については、意思決定に至った過程を具体的に記載しなければなりず、中立の立場を採る場合と意見を留保する場合もそれぞれ理由を書かなければなりません(留保の場合は、それに加えて、将来意見表明を行なうか否かの予定も記載)。

また、上記④⑤のとおり、対象会社役員に利益相反問題があるときは、その点を明らかにするとともに、利益相反回避措置についても具体的に記載することが求められています(*3)。ただし、これは、対象会社が相反回避措置を採っているときにそれを開示せよという要求に留まり、相反回避措置を採ることそのものは求められていません。また、役員の株券等所有状況は有価証券報告書でも開示されている情報ですので、意見表明報告書に特有の開示事項というわけではありません(*4)。

次回のコラムでは、「会社の支配に関する基本方針に係る対応方針」などについて説明したいと思います。


(*1) 旧法下でも、対象会社(の役員)が意見を対外的に公表した場合には、ただちに意見表明報告書を提出することが義務づけられていましたが(この開示義務は、証券取引所の適時開示規則でも定められていました)、完全な沈黙を守ることも可能でした(ただし、実務上は、ほぼ必ず対象会社による意見表明が行なわれていました)。
(*2) 4号様式の「記載上の注意」参照
(*3) 同じく、4号様式の「記載上の注意」参照
(*4) ここでいう「役員」とは、取締役、執行役、会計参与(法人の場合は職務を行なう社員)、監査役を指します。

公開買付制度の概要(その2) ~金商法27条の2第1項4号~

前回説明した公開買付けが要求されるケースのうち、「証券取引所の市場内で買付けが行われる場合」と「買付け後の株券等所有割合が5%以下である場合」については、内容が明確ですのであまり悩む必要はありません。しかし、「60日間で10名以下の者からする買付けのうち、買付け後の株券等所有割合が3分の1以下である場合」については、若干悩ましい問題があります。60日間という期間の中で、11人の株主から合計6%の株を市場外で買った場合であれば、5%基準も充たしませんし、「60日間で10名以下の者から」という基準も充たさないので公開買付けが必要だということはすぐに分かりますが、例えば、

● 市場外で32%の株式を取得し、その後、対象会社から2%の新株発行を受けることで34%となった場合
● 市場外で32%の株式を取得し、その後、市場内で2%の株を買ったことで34%となった場合(村上ファンドのケース)

などでは、一見しただけでは公開買付けが必要かどうかがわかりません。

そこで、旧法下では、上記の場合、「取引後に3分の1を超える市場外での買付け」が存在しない以上公開買付けは不要であるという見解と、これら一連の取引が実質的に一つの取引であれば公開買付け規制を及ぼすべきだという見解が対立していました。後者の見解は、先に市場内で2%の株を買ってその後市場外で32%の株式を取得した場合は「取引後に3分の1を超える市場外での買付け」が存在するから公開買付けが必要になるというのであれば、その順序を逆にするだけで公開買付けを回避できるのはおかしいという価値判断に基づいています(*1)。以上のような混乱を収束させるべく、金商法27条の2第1項4号が新設され、「組み合わせ取引」に関するルールが作られたのです。

さて、金商法27条の2第1項4号(に関する政令)ですが、整理しますと、

① 3ヶ月以内という短期間に
② 合計10%を超える株式取得を行い
③ そのうち5%超に相当する買付けが特定売買等または市場外取引等であり
④ その後に株券等所有割合が3分の1を超える


ことが要件になります。③で「特定売買等」とあるのは、「取引所市場内の取引のうち競売買以外の方法」を意味し、ToSTNet取引のように、価格や時間を基準とした優先原則が働かない立会外取引を言います(*2)。

上記ルールが制定された結果、市場外取引やToSTNet等の特定売買で一旦5%超の取得を行ってしまったら、その後3ヶ月間は、「直前3ヶ月間の取得合計が10%を超え、かつ取得後株券所有割合が3分の1を越えるような買付け等(新株取得も含む)」ができなくなります。

では、例えば、7月1日に市場外で公開買付けによらずに株券等を7%取得し、株券等所有割合が20%から27%になったケースにおいて、その後3分の1超の取得を目指して8月1日に公開買付けを行なうことは許されるでしょうか?
・・・答えはNOです。4号は、3ヶ月以内に行なわれた取引を一連の取引として規制する考え方を採っています。よって、上記の例では、7月1日に行なわれた最初の取引から公開買付けによって行うことが必要だったということになります。最初の株券等取得を公開買付けによらずに行なってしまったら、あとは、「3ヶ月待て」ということになりますので、この点で、4号は公開買付けの「スピード規制」であると言われています。

これが、改正の目玉の一つであった4号(組合せ取引の規制)の内容ですが、次回はほかの点を拾ってみたいと思います。


(*1) 村上ファンドのケースだけではなく、例えば、ドン・キホーテのオリジン東秀買収の際も、ドン・キホーテはTOB開始前に市場外取引で31%まで取得した後、公開買付けにより3分の1超を目指しましたが失敗し、その後市場内取引を通じて46%まで買い増しを行いました。当時は、これが公開買付け規制の趣旨に反するとして波紋を呼びました。
(*2) 「特定売買等」は、形の上では取引所市場における取引であっても公開買付け規制を及ぼすべきだとして、平成17年改正で導入されたものです。

公開買付制度の概要(その1)

有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社の株券を市場外で一定数以上買付ける場合などには、原則として公開買付けによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項)。ここで、公開買付けとは、株券発行会社または第三者が、不特定かつ多数の人に対して、公告等により買付期間・買付数量・買付価格等を提示し、株券等の買付けの申込みを行い、市場外で株券等の買付けを行なうことを言います。この公開買付け制度については改めて紹介するまでもないかも知れませんが、M&A情報ブログとしての性格上、一度、金商法施行後の公開買付制度がどのようになっているかについて整理しておきたいと思います。

公開買付制度は、もともと、会社の支配権に影響を及ぼすような買付けが行われる場合には、株主に十分な情報提供を行い、かつ、株主に株券売却の機会を平等に与える必要があるということで昭和46年(1971年)に設置された制度です(*1)。その後、平成2年、平成6年などの改正を経て、今回の「証券取引法等の一部を改正する法律」の中で、以下の諸点について見直しがなされました。

1. 脱法的取引への対応
2. 株主への情報提供の充実
3. 買収防衛策とのバランス調整
4. 全部買付義務の導入
5. 買付者が競合する場合の処理


以下、順に説明していきますが、まず、前提として、どのような場合に公開買付けが必要となるかについてざっと見ておきたいと思います。金融商品取引法27条の2第1項は、以下の事由に該当する場合に公開買付けによることを強制しています。

事  由
条文
5%基準
60日間で11名以上の者から、取引所市場外で買付け等をおこない、その後の株券所有割合が5を超える場合
1
3分の1ルール
60日間で10名以内の者から、取引所市場外で買付け等をおこない、その後の株券所有割合が3分の1を超える場合
2
取引所市場内の取引のうち競売買以外の方法(「特定売買等」)により買付け等を行い、その後の株券所有割合が3分の1を超える場合
3
取引所市場内外の取引を組み合わせた取引のうち、3か月以内に行なわれた買付け等による株券取得割合が合計10%を超え、かつ、これらのうちに5%超の市場外買付けが含まれ、その後の株券所有割合が3分の1を超える場合
4
他者のTOB期間中の大株主による買増し
3分の1超を既に保有する株主は、他者がTOBを行っている期間中に5%超の買付けを行う場合には、対抗TOBによらなければならない
5
その他
その他政令で定める場合(買付者の特別関係者による買付け等)
6

このうち、1号・2号・6号は旧法下における規制内容と同じですが、3号は、平成17年の改正で追加され、4号・5号は平成18年改正で追加されました。

そもそも、証券取引所の市場内で買付けが行われる場合には、公開買付けによる必要はありません。その趣旨は、証券市場内での取引は、取引の数量や価格が公表されており、透明性が確保されていますし、取引が競争売買によって行われるため、公開買付けを強制しなくとも、投資者は公正・平等に扱われるからです。

続いて、買付け後の株券等所有割合が5%以下である場合にも、公開買付けによる必要はありません。これは、買い付ける株券等の割合が少なく会社の支配への影響が少ないからです。ここで、5%というのは買付者本人のみではなく、「特別関係者の分と合わせて5%」を超えるかどうかが判断されます(*2)。

最後に、60日間で10名以下の者からする買付けのうち、買付け後の株券等所有割合が3分の1以下である場合にも、公開買付けによる必要はありません。これは、少数の者からの買付けなので、支配権が移動する場合を除けば、情報を開示させたり、広く株主に買付けの機会を与えたりする必要がないと考えられるからです。以上が基本的な枠組みですが、詳細は次回以降のコラムで書きたいと思います。


(*1) アメリカでは、1966年にウイリアムス法によって1934年取引所法が改正され、公開買付制度が導入されました。
(*2) 「特別関係者」とは、
公開買付者が個人の場合は、①その者の親族(配偶者および1親等内の血族または姻族)、②その者(その者の親族を含む)が法人等に対して総株主の議決権の20%以上の議決権に係る株式または出資を自己または他人の名義をもって所有する関係(特別資本関係)にある場合の当該法人等およびその法人等の役員を、
公開買付者が法人の場合は、①その者の役員、②その者が特別資本関係を有する法人等およびその法人等の役員、③その者に対して特別資本関係を有する個人および法人等ならびにその法人等の役員
を指しますが(以上は、「形式的基準」と呼ばれています)、これ以外に、公開買付者との間で共同して株券を取得・譲渡したり、議決権を行使することについて合意した者(これは、「実質的基準」と呼ばれます)も含まれます。

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