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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その5)

【ケース5】対象会社に繰越欠損金があるケース

これまでのケース1から4までは、対象会社T社に繰越欠損金が存在しないことを前提にしていましたが、ここでT社に多額の繰越欠損金(*1)があると仮定した場合に何が違ってくるかを検討しておきたいと思います。

これまでと同様に、以下の条件を利用しますが、純資産30億円の内訳については、資本金50億円、利益準備金0円(欠損の填補に使用)、利益剰余金△20億円とします。
利益剰余金の時価は、税務簿価+営業権時価、すなわち、△20億円+60億円=40億円となり、この利益剰余金時価40億円と資本金50億円との合計額である90億円がやはり買収対価ということになります。

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を50億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
① 株式譲渡方式
・ 対象会社T社にとっては株主が変わるだけなので、課税関係は発生しません。
・ T社の株主Cから見ると、
(譲渡収入90億円-譲渡原価50億円)×実効税率40%=16億円
の税負担が発生します。
・ 買収会社A社にとっては単なる株式買取りなので、課税関係は発生しません。
・ 買収受皿会社V社においては、繰越欠損金20億円を将来全て使用できることを前提とすれば、
20億円×実効税率40%=8億円
の税負担の軽減につながります。

② 会社分割方式
・ 対象会社T社には会社分割益60億円が発生しますが、繰越欠損金20億円と一部相殺できますので、
(会社分割益60億円-繰越欠損金20億円)×実効税率40%=16億円
の税負担が発生します。
・ T社の株主Cから見ると、まず「みなし配当」(株主が交付を受けた財産の時価合計額から消滅会社の資本金および資本積立金の額を控除した残額)(*2)として、
(残余財産74億円-資本金50億円)=24億円   *残余財産=譲渡価額-法人税
が発生します。また、株主が交付を受けた財産の時価合計額から取得原価とみなし配当額を控除した残額は譲渡損益と扱われますが、本件では
(残余財産74億円-取得原価50億円-みなし配当24億円)=0円
となりますので、譲渡益課税はなされません。結局、「みなし配当」24億円に対し実効税率40%を掛けた9億6000万円の税負担がCに発生します。
・ 買収会社A社にとっては単なる株式買取りなので、課税関係は発生しません。
・ 買収受皿会社V社においては、営業権60億円を認識することができるため、
60億円×実効税率40%=24億円
の税負担の軽減につながります。

(まとめ)
結局、以下の表のとおり、株式譲渡方式と会社分割方式では、会社分割方式の方が当事者全体の税負担額が少ない結果になりました。
法人株主のケース
株式譲渡方式
会社分割方式
T社と株主Cの負担
16億円
25億6000万円
A社とV社の負担
△8億円
△24億円
実質的なトータル
8億円
1億6000万円

では、条件を変えて、純資産30億円の内訳を、資本金100億円、利益準備金0円(欠損の填補に使用)、利益剰余金△70億円(繰越欠損金が70億円)と仮定した場合はどうでしょうか?
この場合は、計算式は省略しますが、以下の表のとおり、株式譲渡方式の方が、税負担の軽減が4億円多い、すなわち株式譲渡方式の方が税務上有利という結論になります。
法人株主のケース
株式譲渡方式
会社分割方式
T社と株主Cの負担
△4億円
△4億円
A社とV社の負担
△28億円
△24億円
実質的なトータル
△32億円
△28億円

これは、株式譲渡方式では繰越欠損金の使用が可能であるが営業権は認識できない、他方、会社分割方式では繰越欠損金の利用は原則できないが営業権は認識できるという違いから導かれる結論と言えます。また、繰越欠損金の繰越期限が迫っている場合や、将来の利益が十分でない場合は、繰越欠損金の全額を利用することができないために結論が変わってくる可能性があります。このように、タックス・プランニングはM&Aのストラクチャーを決定する上で極めて重要ですので、事前の詳細なシミュレーションが必要と言えます。


(*1) 税務上、企業がある年に欠損金を出した場合、その欠損金は次の期に持ち越すことができます。そして、適切な会計帳簿を作成し青色申告書を提出していれば、翌年以降7年間に亘って毎年の益金と相殺して納税することが認められます。
(*2) みなし配当は、個人株主・法人株主ともに発生します(個人株主のみなし配当については所得税法第25 条、法人株主のみなし配当については法人税法第24 条)。
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タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その4)

【ケース4】会社分割によるM&A(法人株主のケース)

(事案) ~T社(法人株主Cが発行済み株式の100%を所有)の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(CにはT社から残余財産の分配を行う)~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
<タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その2)>で述べたように、本件においては、T社と受皿会社V社との間に事業関連性がなく、かつ、T社は株式分割によって交付されたV社株をすぐにA社に譲渡する結果、株式継続保有要件も充たさないため、本件会社分割は非適格会社分割として扱われます。

① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 買収受皿会社V社の税負担
非適格分割ですので、T社の資産・負債が時価でV社に承継され、V社は営業権の減価償却を行うことで将来における課税所得を圧縮することができます。本件では、営業権は60億円ですので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円 の税負担の軽減につながります。

③ 対象会社T社の税負担
T社は自己の資産・負債を時価でV社に移転する結果、60億円の会社分割益を得ますので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担がT社に発生します。

④ 対象会社株主Cの税負担
個人株主であればT社を清算して残余財産を分配するプロセスにおいて配当所得課税がなされ、その際に配当控除が適用されましたが、本件のような法人株主の場合、法人税法上の「受取配当金の益金不算入」が適用されます。すなわち、配当金はそもそも配当を行う法人の課税後利益から支払われるものですので、これに対して更に課税すると二重課税となります。そこでこの二重課税を避けるために用意されたのが、個人株主の場合は「配当控除」であり、法人株主の場合は「受取配当金の益金不算入」です。
その結果、法人が内国法人から受けた配当については会計上は収益として計上されますが、税務上は益金に算入されず、課税所得の計算上控除されることになります。

具体的には、以下の金額を、各事業年度の益金の額から控除することができます。

ア 連結法人株式等: 配当金の全額
イ 関係法人株式等: 関係法人株式にかかる受取配当等の額-控除負債利子の額
ウ 一般法人株式等: (一般法人株式の受取配当等の額-控除負債利子の額)×50%


ここで、「関係法人株式等」とは、内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の発行済株式または出資金額の25%以上を、その配当等の額の支払義務が確定する日以前6ヶ月以上保有している場合の当該株式または出資を言います(法人税法23条⑤、法人税法施行令22条の2①)。また、「控除負債利子」は、配当金を得るために借入れ等をしたと判定される負債利子額で、
支払利子×当該株式の帳簿価額(*1)/総資産価額(*1)
で求められます。
本件では、CはT社の100%株主ですので、上記アが適用され、結局CがT社から残余財産の分配として受け取った金額は全額「益金不算入」となります。

(まとめ)
以下のまとめの表のとおり、個人株主Iのケース1およびケース2では会社分割方式よりも株式譲渡方式の方が税務上有利でしたが、法人株主Cのケース3およびケース4では、逆に会社分割方式の方が有利(*2)であることが分かります。ただし、株式譲渡方式を用いる場合でも、株式譲渡の前にT社からCへの配当を行えば、当該配当に関しては「益金不算入」となる結果、株式譲渡によって株主Cに発生する譲渡益課税を減らすことができます。

個人株主のケース
株式譲渡方式(ケース1)
会社分割方式(ケース2)
T社と株主Iの負担
176000万円
51億9040万円
A社とV社の負担
0円
24億円
実質的なトータル
176000万円
27億9040万円

法人株主のケース
株式譲渡方式(ケース3)
会社分割方式(ケース4)
T社と株主Cの負担
352000万円
24億円
A社とV社の負担
0円
24億円
実質的なトータル
352000万円
0円


(*1) 前期末と当期末の合計額。
(*2) もっとも、会社分割方式では、登録免許税、資本金が増加することによる住民税均等割部分および事業税資本割部分の増加などが発生しますので、この点の更に詳細な比較検討が必要になってきます。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その3)

【ケース3】株式取得によるM&A(法人株主のケース)

(事案) ~法人株主Cが発行済み株式の100%を所有するT社を株式買取りによってA社の子会社とするスキーム~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Cは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 対象会社T社の税負担
T社から見た場合、株主がCからA社に変わるだけなので、課税関係は発生しません。

③ 対象会社株主Cの税負担
法人税の課税所得を計算するに当たり、株式譲渡益が益金算入されるため、
(譲渡価額90億円-譲渡原価2億円)×法人税実効税率40%=35億2000万円
の税負担が発生します。

(まとめ)
個人株主からの株式買取りでは17億6000万円の税負担だったのが、法人株主になり税率が高くなったことにより、税金が35億2000万円となりました。こうなると、ケース2で述べた会社分割方式とどちらが有利かが再び問題となります(次回のコラムで検討します)。
なお、株式譲渡方式ですので、不動産取得税、登録免許税、住民税の均等割部分の増加、事業税の資本割部分の増加(*1)はいずれも発生しません。


(*1) 資本金が1億円を越える場合、外形標準課税の対象となり、(事業税の所得割および付加価値割に加えて)「資本金と資本積立金の合計金額に対して0.2%(東京都は0.21%)」の資本割事業税が発生します。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その2)

【ケース2】会社分割によるM&A(個人株主のケース)

(事案) ~T社(個人株主Iが発行済み株式の100%を所有)の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(IにはT社から残余財産の分配を行う)~

① 対象会社の貸借対照表
 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Iは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ Iは株式を5年超所有 → 長期譲渡所得として所得税率は20%(所得税15%+住民税5%)
・ 総合課税におけるIの所得税率は50%とする。
・ 法人税の実効税率は40%とする

(検討)
まず、本件会社分割が適格分割か非適格分割かを判断する必要がありますが、会社分割における税制適格要件も合併と同様、「グループ内の適格分割」と「共同事業を営むための適格分割」に分けられます。本件では、株式分割前のT社とV社間に資本関係はないと仮定すれば、「グループ内の適格分割」には該当せず、「共同事業を営むための適格分割」の該当性が問題となります。「共同事業を営むための適格分割」要件は、適格合併の要件(対価要件、事業関連性要件、規模要件または経営参画要件、独立事業単位要件、事業継続要件、株式継続保有要件)とほぼ同じで、ただ、独立事業単位要件として、「80%以上の従業員の引継ぎ」に加えて「主要な資産および負債の移転」が要求されることと、株式継続保有要件に関し、吸収分社型分割(分割法人に株式が交付される)の場合には分割法人の株主数に関係なく分割法人が分割によって交付を受けた分割承継法人の株式を保有し続けなければならないのに対し、吸収分割型分割(分割法人の株主に株式が交付される)の場合には分割法人の株主が50人以上いれば株式継続保有要件は課されないという点で違いがあるにとどまります(*1)。

さて、本件に関しては、T社と受皿会社V社との間に事業関連性がなく、かつ、T社は株式分割によって交付されたV社株をすぐにA社に譲渡しますので、株式継続保有要件も充たさないということになります。よって、本件は、非適格会社分割として扱われます。

① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 買収受皿会社V社の税負担
非適格分割ですので、T社の資産・負債が時価でV社に承継されることになります。時価で承継される結果営業権が発生し、V社は営業権の減価償却(*2)を行うことで将来における課税所得を圧縮することが出来ます。他方、V社はT社の繰越欠損金を引き継ぐことはできません。
本件では、営業権は60億円ですので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担の軽減につながります。

③ 対象会社T社の税負担
T社は自己の資産・負債を時価でV社に移転することになりますので、その譲渡価額と帳簿価額の差額に関して譲渡損益が発生します。本件では、T社に60億円の譲渡益が出ますので、
60億円×法人税の実効税率40%=24億円
の税負担がT社に発生します。

④ 対象会社株主Iの税負担
T社からV社への会社分割の時点では個人株主Iには何らの課税関係も発生しませんが、その後T社を清算してIに残余財産を分配するプロセスにおいて課税がなされます。すなわち、支払いを受けた残余財産のうち資本金および資本積立金の金額を超える部分については配当所得として総合課税がなされます。本件では、残余財産は、
(売却価格90億円-法人税24億円)=66億円
ですので、
(残余財産66億円-資本金および資本積立金合計2億円)×税率50%=32億円
の配当所得課税となります。ただし、配当金所得を総合課税として確定申告する場合には配当控除が受けられますので(*3)、その分
(残余財産66億円-資本金および資本積立金合計2億円)×税率6.4%=4億960万円
を差し引き、結局、27億9040万円が、個人株主Iが負担する税額となります。

(まとめ)
本件スキームを採用する場合には、T社に24億円の、T社株主Iに27億9040万円の税負担が発生し、反面、買収側のV社には24億円の「税負担の軽減」が発生することが判明しました。オーナーからの単純な株式買取り方式では、Iに17億6000万円の税負担が発生するだけでしたので、税金面のみを捉えればT社サイドは「会社分割+株式譲渡方式」には異議を唱えることになるだろうと思われます。

また、「会社分割+株式譲渡方式」では、株式買取り方式では発生しない登録免許税(不動産登記と会社分割登記など)、資本金が増加することによる住民税均等割部分および事業税資本割部分の増加などが発生しますので、この点でも単純な株式買取り方式の方が関係当事者の税負担が少ないと言えます。


(*1) 旧商法上の会社分割制度は、「分割法人の株主」が分割承継法人から移転資産の対価の交付を受ける「人的分割」と、「分割法人」が対価の交付を受ける「物的分割」に分けられていましたが、会社法では、人的分割が姿を消し、物的分割という手法のみ残されました。しかし、税務上は、依然両類型が残っており、人的分割を「分割型分割」、物的分割を「分社型分割」と呼びます。
(*2) 平成18年度税制改正によって、「営業権」ではなく「資産調整勘定」として処理がなされ、5年間の均等償却が行われることになりました(法人税法62の8④⑤)。
(*3) 課税総所得金額が1,000万円以下であれば12.8%(所得税10%+住民税2.8%)、1,000万円を超える場合は6.4%(所得税5%+住民税1.4%)を累進税率より差し引くことができます。

タックス・プランニングのためのケース・スタディ(その1)

これまで適格合併の各要件に焦点を当てて見てきましたが、これは、タックスの観点からM&Aのストラクチャーを決定していくために知っておく必要がある基本的概念の一部を整理したにとどまります。実務上、当事者が最も気になるのは、「合併、会社分割、事業譲渡、株式取得、株式移転、株式交換といったたくさんあるM&A手法のどれを選択すれば税務上最も有利か?」という点だと思われ、適格か非適格かという問題も、この論点に絡めて考える必要があります。そして、実際に、選択するストラクチャーによって、①買収会社、②対象会社、③対象会社の株主に発生する税負担は大きく変わってきますので、今回のコラムから数回のシリーズで、「各種M&A手法と税負担の関係」をケース・スタディを通じて数字で確認していきたいと思います。

【ケース1】株式取得によるM&A(個人株主のケース)

(事案) ~個人株主Iが発行済み株式の100%を所有するT社を株式買取りによってA社の子会社とするスキーム~

① 対象会社の貸借対照表

 
簿価
時価
 
簿価
時価
資産
100億円
100億円
負債
70億円
70億円
営業権
 
60億円
純資産
30億円
90億円
総資産合計
100億円
160億円
負債資本合計
100億円
160億円
* 純資産の内訳: 資本金2億円、利益準備金5000万円、利益積立金27億5000万円

② その他の前提条件
・ Iは対象会社株式を2億円で取得
・ その株式を今回はA社が純資産相当額の90億円で買取り予定
・ Iは株式を5年超所有 → 長期譲渡所得として所得税率は20%(所得税15%+住民税5%)
・ 法人税の実効税率(*1)は40%とする

(検討)
① 買収会社A社の税負担
株式を買うだけなので、課税関係は発生しません。

② 対象会社T社の税負担
T社から見た場合、株主がIからA社に変わるだけなので、課税関係は発生しません。

③ 対象会社株主Iの税負担
個人が株式を譲渡した場合には譲渡所得税が掛かるため、
(譲渡価額90億円-取得費2億円)×20%=17億6000万円
の税負担が発生します。

(まとめ)
オーナーからの単純な株式買取りでは、対象会社側(対象会社株主)に17億6000万円の税負担が発生するということになりました。買収する側にとっては税負担なしの良い案と言えます。

では、同じくT社の事業を買収する手法として、「T社の全事業を買収受皿会社V社に会社分割によって承継させ、V社が分割対価としてT社に発行したV社株式をA社が買い取ることでV社をA社の子会社とするスキーム(IにはT社から残余財産の分配を行う)」を採用した場合の税負担はどうなるでしょうか? この点について次回検討したいと思います。


(*1) 法人税の実効税率の計算方法は、法人事業税は所得計算上損金に算入できるため、
(法人税率+法人税率×住民税率+事業税率)/(1+事業税率)
という方程式になり、地方税法が定める標準税率を使用すると、実効税率は
(法人税率30%+法人税率30%×住民税率17.3%+事業税率9.6%)/(1+事業税率9.6%)=40.87%
となります。なお、この40%という数値はアメリカやドイツとほぼ同レベルですが、フランスの33%やイギリスの30%と比較すると高いと言えます。

合併の税務(その7)~逆三角合併の場合~

米国では、通常の三角合併(Forward Triangular Merger)に加えて、逆三角合併(Reverse Triangular Merger)が頻繁に利用されます。これは、合併のターゲット会社が特定の事業の許認可を有していたりする場合に、許認可の取り直しを避けるためにターゲット会社を存続会社として残し、買主側の子会社(買収子会社)がターゲット会社に吸収合併される形態のM&Aが有用だからです。例えば、自動車大手の独ダイムラーと米クライスラーの合併も、Reverse Triangular Mergerの形で行われました。

他方、日本の会社法下で平成19年5月以降可能となった三角合併は、買収子会社が存続会社となる「正三角合併」のみであり、「逆三角合併」については手当されていません(会社法800条)。そこで、日本の実務では、対象会社の許認可等を残すための方策、すなわち、「逆三角合併」と同様の効果を発生させるスキームとして、「三角株式交換」方式が検討されることがあります。

「三角株式交換」方式とは、

① 買収子会社が対象会社の株式を一定割合取得する(公開買付け)。
② 買収子会社を完全親会社、対象会社を完全子会社とする株式交換を行う(対象会社の株主には、外国親会社の株式を交付する(*1))。
③ 対象会社を存続会社、買収子会社を消滅会社とする「逆さ合併」を行う(その結果、外国親会社が対象会社の完全親会社として残る)。


という「公開買付け+株式交換+逆さ合併」の組合せによる買収方法ですが、この方式の問題点は、税務上「適格」となるかどうかが疑わしい点にあります。すなわち、最初の公開買付けによって対象会社の50%超の株式を取得できなかった場合は、「共同事業を行うための適格株式交換」に該当させるために「株式継続保有要件」を充たす必要がありますが、買収子会社は最後の逆さ合併で消滅してしまいますので、この株式継続保有要件を充足するか否かに関して疑義が発生するのです。

よって、逆三角合併と三角合併を同様に扱わない点については、アンバランスという指摘が可能であり、立法による解決が望まれます。


(*1) 株式交換においても、「対価の柔軟化」によって、「株式交換完全親会社(*上記例では買収子会社のこと)の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債その他の財産」を交付することができるようになりました。

合併の税務(その6)~三角合併の場合~

いわゆる三角合併の場合、通常、合併前の当事会社間に50%超の資本関係は存在しないと思われますので、適格合併とするには、「共同事業を行うための合併」として以下の要件を充たす必要があります。

ア 事業関連性要件
イ 事業規模要件または経営参画要件
ウ 株式継続保有要件
エ 金銭等の支払がないこと
オ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
カ 事業継続要件


従前、三角合併にとっての障害は上記要件のアとエでした。
すなわち、まず、エの「対価要件」に関しては、平成19年税制改正前の対価要件は「存続会社の株式以外の資産が合併対価として交付されないこと」でしたので、親会社の株式を交付する三角合併は非適格となりました。しかし、既に<合併の税務(その2)~100%の支配関係がある場合~>で述べたように、平成19年年度税制改正によって、「合併法人の親法人の株式」が、適格合併の対価の範囲に加えられました。ここで言う「親法人」とは、「合併等の直前に合併法人等の発行済株式の全部を直接に保有し、かつ、当該合併等後にその発行済株式の全部を直接に継続して保有することが見込まれる法人」をいいます。よって、この要件を充たす親法人の株式を利用する三角合併については、適格要件を充たすことになりました(*1)。

続いて、アの「事業関連性要件」に関しては、三角合併を計画する外国企業が日本企業を買収するために日本に設立する子法人は自らは事業を行っていない受皿会社(SPC)であるのが通常ですので、「消滅会社の主要な事業」と「存続会社のいずれかの事業」が相互に関連するとは言えず、やはり非適格となりました。この点、平成19年年度税制改正によって、やはり「事業関連性要件」の緩和措置が採られ、<合併の税務(その4)~共同事業を行うための合併①~>で述べた「事業実体性に関する判断基準」を充たす事業準備会社については「事業関連性要件」を充足しうるということになりました。

なお、<合併の税務(その3)~50%超100%未満の支配関係がある場合~>で述べたとおり、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」については、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の50%超の支配関係の継続
ウ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
エ 事業継続要件

が「適格合併」となりますので、「事業関連性要件」を充たす日本法人を持っていない外国企業が日本企業を買収したい場合には、先に50%超の対象会社株式をキャッシュで買い付けてから上記「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」を利用するという方法があり得ることになります。


(*1) 三角合併に限った論点ではありませんが、「対象会社の株主に存続会社およびその親会社の株式以外の財産が交付されないこと」をもって適格合併の要件とする現行法については、金銭を対価として利用する合併は全て不適格となり妥当でないとの批判が存在します(例えば、武井一浩「M&A法制の今後の課題-企業法実務の観点から-」(『会社法と商事法務』289頁))。合併対価の一部を金銭で受け取るということは、株主にとって、「株式を持ち続けることによって発生する将来のリスクを部分的現金化によって軽減させる」効果を有しますし、金銭を受け取ってもその比率によっては「支配関係」に大きな影響を与えないケースもあり得ると思いますので、要件を明確にした上で、「対価要件」を緩和するのが良いではないかと考えます。なお、現行法の下で、キャッシュと株式を混ぜた合併を行おうと思えば、「現金を使った株式取得+合併」という二段階スキームを利用することになります。

合併の税務(その5)~共同事業を行うための合併②~

共同事業要件は、「事業関連性要件」「事業規模要件または経営参画要件」「株式継続保有要件」の三つから成りますが、今回はそのうち「事業規模要件または経営参画要件」と「株式継続保有要件」について紹介します。

イ 事業規模要件または経営参画要件

税法上は、合併当事会社が「共同」で事業を行う場合に限って適格合併と評価されますが、規模が大きく違う会社間の事業統合については、もはや「共同事業」とは言えず、むしろ「買収」と評価すべきことになりますので、事業規模が近いことが税制適格要件として要求されています。また、例えば、ベンチャー企業と同業の老舗企業が合併し、お互いに足りないものを補完しあう場合のように、事業規模は異なっていても「共同で事業を行うために合併する」と評価してもよいケースもあるでしょう。そこで、事業規模要件の代わりとして、経営参画要件が登場します。これは、合併当事会社の双方から役員を出して新会社の経営を行うのであれば、共同事業性を認めようとするものです。

具体的には、
消滅会社の事業と存続会社の事業のそれぞれの売上金額、資本金等の事業規模が概ね5倍を超えないこと(事業規模要件)
または、
合併後の存続会社の特定役員(社長、副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役又はこれらに準ずる者で経営に従事する者)(*1)が、消滅会社の特定役員および合併前の存続会社の特定役員の双方から選出されること(経営参画要件)
が必要です。

ウ 株式継続保有要件

「共同事業を行うための合併」においても、「企業グループ内の合併」と同様、合併後の保有株式について一定の制限が設けられています。すなわち、消滅法人の株主の数が50人未満である合併については、「存続会社株式の全部を継続保有することが見込まれる者が、消滅会社株式の80%以上を有していること(議決権のある株式に限る)」とされています。株主が50人以上のケースに関して株式継続保有が要求されないのは、株主が多数存在する企業や上場企業の株式について継続保有の要件を課すことは現実的ではないからです。

なお、「共同事業を行うための合併」においても、「企業グループ内の合併」と同様、「金銭等の支払がないこと」「独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)」「事業継続要件」は必要です。

よって、まとめると、「共同事業を行うための合併」が税制適格を得るための要件は、

ア 事業関連性要件
イ 事業規模要件または経営参画要件
ウ 株式継続保有要件
エ 金銭等の支払がないこと
オ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
カ 事業継続要件


となります。

以上で、適格合併要件の整理は終わりますが、若干の補足です。税制適格合併では、原則として合併の日の前5年以内に開始した事業年度において生じた青色繰越欠損金を存続会社が引き継ぎますが、グループ内組織再編の場合で、要求される資本関係(持分割合50%超の関係)が合併の日の属する事業年度開始日の5年前の日以後に生じている場合は、「みなし共同事業要件(*2)」を満たさなければ、資本関係発生事業年度前に生じた青色繰越欠損金の金額の全部または一部を引き継ぐことができない場合がありますので注意が必要です。


(*1) ここでいう「特定役員」は、実態的に経営の従事する役員でなければならないことから、使用人兼務役員や社外取締役では要件を充たさず、執行役員については経営に参画しているかどうかで判断されます。また、共同事業性の要件を充たすためにとりあえず短期間「特定役員」を存続会社に派遣するというのでは法の趣旨の潜脱になる可能性があります。
(*2) 「事業関連性要件」「経営参画要件」の両方を充たすか、「事業関連性要件」「事業規模要件」「規模継続要件(消滅会社の合併直前の事業規模が、特定資本関係になった時点に比べて2倍を超えないこと)」の全てを充たすことが必要。

合併の税務(その4)~共同事業を行うための合併①~

(2) 共同事業を行うための合併について

税法が、「適格合併」の一類型として認めているのが「共同事業を行うための合併」です。ここでは、再編前の持株関係に関する要件はありませんが、その代わり、税法上「共同事業」とみなされるための判定要件である「事業関連性要件」「事業規模要件または経営参画要件」「株式継続保有要件」の三つを充たす必要があります。

ア 事業関連性要件

まず、「消滅会社の主要な事業」と「存続会社のいずれかの事業」が相互に関連するものであることが必要です。もともと持株関係がない会社間での合併ですので、単なる買収ではなく「共同事業」と評価できるだけの関連性が要求されるためです。ただ、この「事業関連性」については曖昧で判断が難しいという声がありました。そこで、法人税法施行規則の平成19年改正によって、要件の明確化が図られました。その要件は、

① 事業実体性に関する判断基準
② 事業関連性に関する判断基準


に分けられ、①には、
・ 事業拠点保有に関する要件(*1)
・ 従業者に関する要件(*2)
・ 事業または事業準備に関する要件(*3)
が、②には、
・ 同じ事業の種類(*4)
・ 同一または類似の商品等・経営資源(*5)
・ 商品・経営資源の活用見込み(*6)
が含まれます(*7)。

その他の要件については、次回以降のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 事務所、店舗、工場その他の固定施設(その本店または主たる事務所の所在地がある国または地域にあるこれらの施設に限る)を所有し、または賃借していること
(*2) 従業者(役員にあっては、その法人の業務にもっぱら従事するものに限る)があること
(*3) 自己の名義をもって、かつ、自己の計算において次に掲げるいずれかの行為をしていること
① 商品販売等(商品の販売、資産の貸付けまたは役務の提供で、継続して対価を得て行われるものをいい、その商品の開発もしくは生産または役務の開発を含む)
② 広告または宣伝による商品販売等に関する契約の申込みまたは締結の勧誘
③ 商品販売等を行うために必要となる資料を得るための市場調査
④ 商品販売等を行うにあたり法令上必要となる行政機関の許認可等についての同号に規定する申請または当該許認可等に係る権利の保有
⑤ 知的財産権の取得をするための出願もしくは登録の請求もしくは申請、知的財産権の移転の登録の請求もしくは申請または知的財産権等の所有
⑥ 商品販売等を行うために必要となる資産(固定施設を除く)の所有または賃借
⑦ ①から⑥までに掲げる行為に類するもの
(*4) 被合併事業と合併事業とが同種のものである場合における被合併事業と合併事業との間の関係
(*5) 被合併事業に係る商品、資産もしくは役務または経営資源と合併事業に係る商品、資産もしくは役務(それぞれ販売され、貸し付けられ、または提供されるものに限る)または経営資源(事業の用に供される設備、事業に関する知的財産権等、生産技術または従業者の有する技能もしくは知識、事業に係る商品の生産もしくは販売の方式、または役務の提供の方式その他これらに準ずるものをいう)とが同一のもの、または類似するものである場合における被合併事業と合併事業との間の関係
(*6) 被合併事業と合併事業とが合併後に被合併事業に係る商品、資産もしくは役務または経営資源と合併事業に係る商品、資産もしくは役務または経営資源とを活用して営まれることが見込まれている場合における被合併事業と合併事業との間の関係
(*7) 共同事業性要件については、国税庁から「共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A」が出ています: http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/6037/01.pdf

合併の税務(その3)~50%超100%未満の支配関係がある場合~

続いて、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」について検討します。

この場合も、前回述べた「完全親子会社・兄弟会社間の合併」と同様、支配関係が変わらなければ、課税の対象となる「資産の移転」と捉えるべきではないと言えます。よって、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の50%超の支配関係の継続
(*1)
については、同じように「適格合併」の要件として要求されます。

しかし、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」の場合は「完全親子会社・兄弟会社間の合併」とは異なり、資産の切り売りと評価されないよう「独立事業単位要件」と「事業継続要件」が別途要求されます。

すなわち、「適格合併」に該当するためには、「独立事業単位要件」として、「移転法人の移転事業の従業者のおおむね80%が取得法人に引き継がれていること」が必要です(引き継がれた従業者がその後も移転事業に従事する必要はありません)(*2)。

また、「事業継続要件」として、「消滅会社の主要事業が、存続会社において引き続き営まれることが見込まれること」が必要です。では、具体的に、どのくらいの期間、どの程度同じ態様で事業を継続する必要があるのでしょうか?・・・この点については、具体的な要件が規定されていないためケース・バイ・ケースで判断するほかありませんが、当初から従業員を一定数リストラするつもりで、あるいは、合併後に当該事業部門を閉鎖する予定で合併する場合は、「見込み」として事業継続がなされないことになりますので、非適格合併となります。

以上より、「保有割合50%超100%未満の支配関係がある会社間の合併」については、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の50%超の支配関係の継続
ウ 独立事業単位要件(80%以上の従業員の引継ぎ)
エ 事業継続要件

が充たされて初めて「適格合併」となります。

では、持分割合が50%以下の関係にある会社間の合併は、常に税制不適格となるのでしょうか?
税法上、「企業グループの枠を越えた組織再編成」についても、一定の要件を充たせば「移転資産に対する支配」が継続しているとみなされる場合がありますので、その類型を次回のコラムで紹介したいと思います。


(*1) 存続会社と消滅会社との間に直接または間接の50%超の保有関係があるか(親子会社のケース)、存続会社と消滅会社が同一の者により直接または間接に50%超保有されている関係があり(兄弟会社のケース)、合併後も同一者による50%超の継続保有が見込まれること
(*2) 適格分割と適格現物出資における「独立事業単位要件」には、従業者引継ぎ要件に加えて、「移転法人の移転事業の主要な資産及び負債が取得法人に引き継がれていること」も含まれます。

合併の税務(その2)~100%の支配関係がある場合~

前回のコラムで述べたように、「適格合併」として資産の譲渡損益に対する課税が繰り延べられる組織再編成の特例は、
① 企業グループ内の組織再編成
② 共同事業を行うための組織再編成

に限定され、それぞれ一定の要件を充足しなければなりません。以下、順に説明していきたいと思います。なお、以下で登場する株式保有割合は、特に記載がない限り、議決権ベースではなく、発行済み株式総数に占める割合を指します。

(1) 企業グループ内の合併について

例えば、前回のコラムで挙げた例において、存続会社であるA社が消滅会社であるT社の100%親会社であったとします。このように企業グループ内の100%親子会社関係にある会社同士が合併し資産が移転しても、実質的にはその完全支配関係は合併の前後で全く変化しないと言えます。よって、100%親子会社間の合併については、「適格合併」として、資産は帳簿価額で移転し、譲渡損益の額は認識されません。また、存続会社と消滅会社の100%親会社が同一である場合についても、それら兄弟会社が合併したとしても支配関係は変化しませんので、やはり「適格合併」となります。

ただし、「適格合併」となるためには、そもそも論として、「移転する資産に対する支配が継続されている」ことが前提となります。よって、合併対価として存続会社およびその親会社(*1)の株式以外の財産の交付、すなわち「金銭等の交付」がなされるケースについては、組織内の再編成というよりはむしろ他社の「買収」に当たると考えられることから、「適格合併」とはなりません(*2)。

また、100%株式保有という当事会社間の関係は、合併後も継続される必要があります(ただし、「見込み」でよいため、結果として継続されなかった場合は救済されますが、例えば、合併後に第三者割当増資を予定しているようなケースでは、100%株式保有関係が継続されないことが見込まれているため、「適格合併」にすることはできません)。

以上より、【保有割合100%の完全支配関係がある会社間の合併】については、
ア 金銭等の支払がないこと
イ 直接または間接の100%の完全支配関係の継続(*3)

を要件に、「適格合併」となります。

なお、合併後に完全支配関係が維持できないケースであっても、依然50%超の支配関係が継続される場合は、次のコラムで述べる「持分割合が50%超100%未満の関係にある法人間」での「適格合併」要件を充たす可能性があります。


(*1) 三角合併の解禁を受けて、平成19年年度税制改正によって、「合併法人等の親法人の株式」が、適格合併の対価の範囲に加えられました。ここで言う「親法人」とは、「合併等の直前に合併法人等の発行済株式の全部を直接に保有し、かつ、当該合併等後にその発行済株式の全部を直接に継続して保有することが見込まれる法人」をいいます。 
(*2) ここは、合併の対価として「金銭等の交付」を行ってはならないという趣旨のため、以下のケースについては、金銭等の交付があっても「適格合併」の要件を充たします。
① 新株の割当てに際して1株未満の株式(端株)が生じたため、端株の代金として株主に金銭を交付する
② 反対株主が株式買取請求権を行使した結果、株主に金銭を支払う
③ 被合併法人の配当見合い金として株主に金銭を交付する

(*3) 存続会社と消滅会社との間に直接または間接の100%保有関係があるか(親子会社のケース)、存続会社と消滅会社が同一の者により直接または間接に100%保有されている関係があり(兄弟会社のケース)、合併後も同一者による100%の継続保有が見込まれること

合併の税務(その1)

M&Aのストラクチャーを決める大事な考慮要素の一つに、税金の問題があります。合併を例に取りますと、「合併当事会社間で資産と負債が移転することによって発生する税金」と、「消滅会社の株主が合併対価を受け取ることによって発生する税金」の二種類について検討する必要があり、課税の有無・程度によってはストラクチャーの変更をも視野に入れなければなりません。

例えば、T社がA社に吸収合併されるケースで説明しますと、法律上は、T社とA社の法人格が一つになることによってT社の資産・負債は包括的にA社に帰属することになり、合併対価はA社からT社の株主に直接交付されますが、税務上は、①T社の資産・負債がA社に譲渡・承継され、②合併対価についてはA社からT社に交付された上で、改めて(直ちに)T社からT社の株主に交付されたものとみなされます。すなわち、①の局面において、資産・負債を移転したT社サイドで、その譲渡損益に関する法人税処理が必要となり、②の局面において、株主に対して株式譲渡益課税(*1)やみなし配当課税(*2)が行われます。

上記は、いわば税務における原則的な取扱いと言えますが、消滅会社の株主としては、税金を支払うために(現金が手元にない限り)持株を売却せざるを得ず、また、株が一斉に売られると株価が下がるために、売却によって更に損をする可能性もあります。そうすると、最初から合併そのものに対して反対票を投じることを考える消滅会社の株主も出てくるでしょう。また、資産の含み損を実現化させたい場合などは別として、合併に際して資産が時価評価され課税されることは避けたいと当事会社が考えるケースも多いと考えられます。

そこで、平成13年の税制改正によって「企業組織再編税制」が導入され、組織再編成によって法人がその資産を移転する場合には、時価取引として譲渡損益の額を認識すること、すなわち「時価譲渡」を原則としつつも、「資産を移転する場合であっても、実質的に当該資産に対する支配が継続していると認められる場合」については、特例として、資産が帳簿価額で移転するとみなして譲渡損益の額を認識しないこと、すなわち「簿価譲渡」が認められることになりました。

これは、資産移転の前後で経済的な実態に実質的な変更がない場合においては、当事者としては、「存続会社が消滅会社の資産・負債を帳簿価格で承継し、譲渡損益の認識を繰り延べてもらいたい」、「消滅会社の株主へ交付される合併対価については、その株主が将来実際に株式を売却するまでは課税されないようにしたい」と考えるのが通常であるし、それを認める合理性もあることから、移転する資産の譲渡損益の額を認識しない組織再編成を特例として認めたものです。この特例に該当する合併が「適格合併」と呼ばれ、「適格合併」に該当しないいわば原則的取扱いのケースは「非適格合併」と呼ばれます。

「適格合併」として資産の譲渡損益に対する課税が繰り延べられる組織再編成の特例は、
① 企業グループ内の組織再編成
② 共同事業を行うための組織再編成

に限定され、それぞれ一定の要件を充足しなければなりません。

課税の繰り延べ措置が認められるか、簿価承継となるかどうかは合併当事者とその株主にとって極めて重要な問題ですので、いかなる場合であれば「適格合併」に該当するかをチェックする必要がありますが、要件を列挙するだけではなかなか記憶に残りにくいことから、次回以降のコラムで、趣旨に遡って各要件を一つ一つ見ていきたいと思います。


(*1) 消滅会社の株主が存続会社株式以外の財産の交付を受けた場合には、譲渡損益に対する課税が生じます。譲渡損益は、「株主が交付を受けた財産の時価合計額から取得原価とみなし配当額を控除」して求めます。以下に述べるように、みなし配当が、「株主が交付を受けた財産の時価合計額」と「消滅会社の資本金および資本積立金」の差額であることを考えれば、譲渡損益は、「消滅会社の資本金および資本積立金」と「取得原価」の差額ということになります。
(*2) 合併における解散法人に留保利益があった場合、課税なくして合併が認められると、株主に対する配当課税のチャンスが失われてしまうため、消滅会社の利益を原資とする部分(利益積立金)が存続会社の資本金および資本積立金に組み入れられる場合、法人税法では、その資本組入部分について、「一旦株主に配当として分配し、その分配部分を再び株主から出資を受けた」ものとみなします。この株主への配当とみなされる部分(別の言い方をすれば、「株主が交付を受けた財産の時価合計額から消滅会社の資本金および資本積立金の額を控除した残額」)について行われる課税が、「みなし配当課税」です。みなし配当が発生する場合、合併法人は一株当たりのみなし配当額を株主に通知する義務があります。

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