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Author:井垣太介 (Taisuke Igaki)
日本及び米国NY州弁護士
 @西村あさひ法律事務所

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事務所移籍のお知らせ

皆様

いつも本ブログをチェックして頂いて有り難うございます。

私事になりますが、2013年6月1日付で西村あさひ法律事務所に移籍致しましたので、ご報告させて頂きます。

今後とも宜しくお願い申し上げます。
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証券会社向け無料出張M&Aセミナー(勉強会)の追加

<銀行向け無料出張M&Aセミナー(勉強会)のご案内>にてご提案させていただいた無料セミナー(勉強会)の対象範囲を証券会社にも拡大させていただきます。

特に、普段からM&Aニーズに触れてはいるが、案件化までのノウハウが十分ではない全国の証券会社のご担当者様との勉強会をイメージしております。

既に銀行向けセミナーについては複数のお申し込みを頂いておりますが、証券会社についてもお待ちしております。

世界GDPにおける日本のGDPシェアは、1990年には14.3%だったのが2011年には8.4%にまで下がりました。日本の一人当たりGDPの世界ランキングについては、2000年には3位だったのが、2011年は18位です。貿易収支、サービス収支ともに大赤字で、日本は世界経済の中心からどんどん離れていっています。

それから、「人口ボーナス」という言葉をご存知でしょうか。人口ボーナスというのは、生産年齢人口の割合の高さが経済発展を後押しする作用のことを言いますが、日本の人口ボーナスは1950年~1990年であり、既に20年前から下降曲線に入っています。中国の人口ボーナスが1965年から2015年、インドの人口ボーナスは1970年から2035年といわれています。ベトナムは1970年から2020年、インドネシアは1970年から2030年です(United Nations, World Population Prospects: 2004 Revisionより)。

今の日本の多くの企業は台頭する新興国に「価格」で負けていると感じていますが、もう数年経てば、「価格」で負ける、「特長」で負ける、「スピード」で負ける、「市場の広さ」で負けるの四重苦が襲ってくると思われます。iPodを売り出したアップルの売上高は2000年には50億ドルしかなかったものが、2012年には6,325億ドルにまで膨らみました。iPodに含まれている技術自体はそれほど珍しいものではなく、いろいろなアイデアを上手に組み合わせて使いやすくし、上手にマス・マーケットに売り込んだ結果です。対して、日本の場合は、皆さん、「うちは技術には自信があるんだけどなあ」とおっしゃいます。しかし、売り方についてはさっぱりだったりします。

これまで大企業の下にぶら下がっていた中小の製造企業はもはや虎の子の技術だけでは生き残ることができず、その技術の「売り方」を学び、作る者と売る者がアライアンスを組んで外需を求めていかなければ、日本の未来はないと思います。日本各地で経済特区とか国際戦略特区といった特区が流行っていますが、政府の認定事業となったからといって道が拓けるとは到底思えません。そのような制度の中で安心してしまうことはかえって危険ですし、やはり、自ら、(使える専門家は使い倒して)他社とアライアンスを組んで、海外にも進出していかなければ、日本企業が日本経済と一緒に沈没することになってしまいます。

というような発想で、全国に有能なFAチームが多数誕生してくれたら面白いと思っています。
ご希望がございましたら、<こちらのフォーム>からご連絡頂きますよう宜しくお願い致します。

銀行向け無料出張M&Aセミナー(勉強会)のご案内

最近のM&Aブームの影響を受けて、以前と比較すると手軽に会社の売買が行われるようになっているように思います。しかし、例えば、1000人の社員を抱える会社を買収するということは、1000人の中途採用を行うことと等しいといっても過言ではないと思います。本来であれば、数人を中途採用するだけでも相当慎重な検討を行い、かなりの時間や経費を掛けて決定に至るものと思います。また、子会社を新規に設立するとなれば、相当詳細な事業計画を書き、人員も必要最小限に絞ってスタートするものと思います。ときに設立までに数年間の検討と事前準備が行われることもあるでしょう。ところが、なぜかM&Aとなると、わずか数週間のDD、「売り手が提出する事業計画を原則として尊重した上で行うバリュエーション」を経て、M&A仲介業者等が作成するひな型的契約書を使ってクロージングにまで至るケースが散見されます。

私自身は、M&Aのクロージング後に売り手と買い手の間で紛争が発生し裁判にまで発展したケースを複数見てきましたので、DDや契約書の重要性を痛感していますが、更に重要なのは、事業計画、買収対価、買収後の実績が整合的につながるかどうかだと思います。最近、M&Aの初期段階から、「銀行」が取引先との信頼関係を利用してある程度関与し、融資判断や債権管理を通じて培った嗅覚とノウハウを駆使してフィナンシャル・アドバイザーとして活躍すれば、モノの売買のように気軽に会社の売買を行うことにはならず、失敗リスクの少ない良いM&Aにつなげていけるのではないかと感じることが多々あります。

現状では、立派なM&A部隊を備えたメガバンクですら、適時開示の直前に取引先から電話が掛かり、「明日(酷いときには開示の数十分前に)、他社買収のプレスリリースを行います」と言われて、慌てて行内向けの説明文書を作成するということが少なくないと思われます。

なぜ、銀行がM&Aのプロセスに関与できないか。それは、まず「銀行はお金を貸してくれるところ」というイメージがあり、買収のための融資が必要なケースを除いて、M&Aの当事者の頭の中に「M&Aのサポーター」として思い浮かばないからだと思われます。そして、実際に取引先と普段交流している支店の営業担当者において、M&Aにつながりうる情報を上手にキャッチできず、FAとなるべき機会を喪失しているからだとも考えられます。

銀行には企業の成長を支える責任があるわけですが、昨今の日本企業の成長のキーワードは、M&Aと海外進出です。私自身にもそれらの活動をサポートする責任がありますが、一人、あるいは一事務所としてやれる範囲は当然に限界があります。日本企業の成長を促進するという最終目的のためには、一人でも多くの専門家やサポーターを育てる必要がありますし、銀行が金利ビジネスではない新しい種類の事業分野に積極的に進出して、結果としてwin winの関係で取引先企業の発展に全員で寄与すれば良いと思います。

このようなことをつらつらと考えている中で、自身の日常業務の多忙さを顧みず、来年の「年次ライフワーク」の一つとして銀行向け無料出張セミナーを開催することを決めました。既に個別にはご依頼を頂いているところですが、これを日本全国に広げるべく可能な限り頑張りたいと思います。都銀・地銀・信託銀行を問いません。

具体的には、各行内のM&A担当部署の戦力を増強すると共に、支店まで「FA化」させるためのお手伝いをさせて頂くべく、ご要望のあったところに(北海道から沖縄まで)、順番に無料出張セミナーを提供させて頂き、取引先からM&Aに関する話が出たときにそれをどう具体化させるかという機会創出の手法から、企業価値評価の手法、M&Aを進めるに当たって必要となる法律上の手続/契約書の揃え方等に関するノウハウを分かりやすくご説明させて頂きたいと思います。M&Aに関する取引先とのQ&Aマニュアルを中心とし、どちらかといえばシミュレーショントレーニングを兼ねた勉強会的な進め方になると思われますので、テーマは個別にご相談させて頂きますが、M&A支援を中心とし、ご希望があれば、来年以降増えると思われる事業再生に関する支援、既に地方であっても無視できなくなっている海外案件支援についても追加可能です。

スケジュールの関係で年間10件程度が限度になると思われますが、ご希望がございましたら、<こちらのフォーム>からご連絡頂きますよう宜しくお願い致します。先着順でお受けし、一旦、2013年1月末で受付を締め切りたいと思います。

増資(上場会社)の払込期日前後の手続

上場会社が第三者割当増資を行うケースを前提に、払込期日前後に必要となる手続を整理しておきます。日付はサンプルです。

★ 12月9日
・ 有価証券届出書の効力発生通知書を財務局から受領。
・ 届出目論見書の確認を財務局で受ける。
・ 財務局から受領した効力発生通知書(写し)を証券取引所に提出。

★ 12月10日
・ 増資をする会社から引受人に届出目論見書を交付(払込前に)。

★ 12月12日
・ 払込期日
・ 増資をする会社が適時開示(払込完了のお知らせ)
・ 譲渡報告の確約書を証券取引所に提出(「割当て後直ちに」)(*1)

★ 12月19日までに
・ 大量保有報告書の提出(必要となる場合。取得から、土日祝を除いて5日以内

★ 12月27日までに
・ 増資に係る変更登記申請(払込期日から2週間以内

なお、証券取引所に提出する必要がある書類の一覧については、こちら


(*1)
有価証券上場規程施行規則[東京証券取引所]
(第三者割当による募集株式の割当てを行う場合における確約の締結)
第429条

1 上場会社は、第三者割当による募集株式の割当てを行う場合には、割当てを受けた者との間で、書面により、次の各号に定める事項の確約を行うものとする。
(1) 割当てを受けた者は、割当てを受けた日から起算して2年間において、割当てを受けた株式(以下この条において「割当株式」という。)の譲渡を行った場合には、直ちに上場会社に書面によりその内容を報告すること。
(2) 上場会社は、割当てを受けた者が前号に掲げる期間において割当株式の譲渡を行った場合には、直ちにその内容を当取引所に報告すること。
(3) 割当てを受けた者は、この項に規定する確約のための書面に記載する本項各号に掲げる内容及び割当株式の譲渡を行った場合にはその内容が、公衆縦覧に供されることに同意すること。
(4) その他当取引所が必要と認める事項
2 上場会社は、第三者割当による募集株式の割当てを行った場合には、前項に規定する確約を証する書面を、募集株式の割当て後直ちに当取引所に提出するものとする。

IPO前の第三者割当増資/新株予約権発行

M&Aそのものではありませんが、出資もアライアンスの一部ですから、将来の株式公開を考えている会社が、上場が迫っている状況で、第三者割当増資や新株予約権の発行を通じた資金調達ができるのかという問題について、簡単に整理しておきたいと思います。

上場前の新株(予約権)発行は短期的な利益確保につながりやすいため、投資家を煽って行き過ぎた資金調達につながる可能性もありますし、他の株主との関係で公正さに疑義が生じる場合も考えられます。
よって、例えば東証であれば、東証の「有価証券上場規程第217条及び有価証券上場施行規則」により一定の規制に服することになります。
具体的には、①第三者割当増資、②従業員等以外の第三者への新株予約権、③従業員等へのストックオプションの3種類に分けて規制がなされています。

① 第三者割当増資について(規則第255条)
・ 増資自体は自由です(但し、上場承認日前日から上場日までの数週間については、上場手続の関係で実質的に募集株式割当ができません)。
・ 上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日以後に募集株式の割当を行っている場合には、当該割当株式を、原則として上場日以後6か月間所有しなければなりません。
・ 増資をした会社及び割当を受けた者の二者が、継続所有や情報開示への協力等に関する確約書を東証に提出しなければなりません。

② 従業員等以外の第三者への新株予約権について(規則第257条)
・ 新株予約権の割当自体は自由です(但し、上場承認日前日から上場日までの数週間については、上場手続の関係で実質的に割当ができません)。
・ 上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日以後に新株予約権の割当を行っている場合には、当該新株予約権及び当該新株予約権を行使した結果交付された株式を、原則として上場日以後6か月間所有しなければなりません。
・ 増資をした会社及び割当を受けた者の二者が、継続所有や情報開示への協力等に関する確約書を東証に提出しなければなりません(上記制限期間よりも前に割り当てられた新株予約権を行使した結果取得した株式については、確約書の提出不要)。

③ 従業員等へのストックオプションについて(規則第259条)
・ 割当対象は「役員又は従業員等」であり、具体的には、①申請会社の役員又は従業員、②申請会社の子会社の役員又は従業員を指します。役員には役員持株会を含み、取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員を含む。)、監査役、執行役(理事及び監事その他これらに準ずる者を含む。)が該当します。なお、弁護士、会計士、顧問、大学教授等の会社協力者等や契約社員及び入社前の者は「役員又は従業員等」には該当しません。
・ ストックオプションの割当自体は自由です(但し、上場承認日前日から上場日までの数週間については、上場手続の関係で実質的に割当ができません)。
・ 上記①②とは異なり、継続所有を義務付けられる期間が、「割当日から上場日の前日まで」に短縮されます。
・ 確約書が必要である点については、上記②と同様です。

上記各規制に違反した場合、上場申請の不受理又は受理取消しというサンクションがありえますが、例外も定められています(規則第256条等)。

また、上場申請日の直前事業年度の末日の2年前の日から上場日の前日までの期間において、第三者割当等による募集株式の割当又は新株予約権の割当を行っている場合には、当該第三者割当等による募集株式等の割当の状況を、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」の中の「株式公開情報 第2 第三者割当等の概況」において記載する必要があります(価格の算定根拠も記載)。

更に詳細な規制内容については、東証のウェブサイトをご確認下さい。また、有価証券上場規程と有価証券上場施行規則については、新日本法規の証券六法にも掲載されています。

日本人弁護士による米国逆上陸

皆様、ご無沙汰しております。
今年は大量のM&A案件に文字通り忙殺され、全くブログの更新ができず、申し訳ございませんでした。正確には数えておりませんが、JVや一部出資を含めるとおそらく30件前後の案件を担当し、使用した時間的には半分以上がクロスボーダー案件だったように思います。平均4時間程度の睡眠を更に削ってブログを書くには心身の鍛錬が足りず、皆様の「いつも見ていますよ」というお声に励まされつつ、甘えさせてもらっておりました。

さて、クロスボーダーM&Aといえば、日本人弁護士として初めてアメリカで法律事務所を開設され、日本が誇るクロスボーダーM&A弁護士のパイオニアとして現在もご活躍中の先生がいらっしゃいます。桝田江尻法律事務所(西村あさひ法律事務所に合併する前のあさひ・狛法律事務所の前身)を創設された弁護士の桝田淳二先生です。読まれた方も多いかと思いますが、桝田先生は「国際弁護士」という本も書かれています。この本は桝田先生の自伝であると同時に、米国の法制度や裁判の仕組みが分かる教科書にもなっていますので、皆様(特に国際弁護士を目指されている学生の皆さん)におかれましても、是非一度お読み頂ければと思います。

『国際弁護士 アメリカへの逆上陸の軌跡』桝田淳二/日本経済出版社

実は、今日、東京でその桝田先生にお会いして、食事をしながら色々とお話をお伺いすることができました。

桝田先生は、1977年に桝田江尻法律事務所を開設され、バブル経済の真っ最中だった日本で数多くのクロスボーダーM&A案件を経験されましたが、1990年台に入り外国の弁護士が日本において業務を開始するようになると、日本からもアメリカに「逆上陸」するぞとの決意の下に1991年の年末に単身でニューヨークに乗り込み、オフィスを開設されました。
その後、日本企業の駆け込み寺のようになって多忙を極める業務の合間にアメリカの法律の勉強もされ、1994年にはニューヨーク州の司法試験に合格されています(当時51歳)。ニューヨーク州の司法試験の勉強では大量の暗記を求められますので、50歳を超えてからの挑戦は大変だったそうですが、見事に一発合格されておられます。

桝田先生は、ずっと私が思い描いてきた仕事スタイルをもう何十年も続けてこられました。その過程では相当なご苦労があったものと思いますし、気力的にも体力的にもよく続けてこられたなあと思い、本当に頭が下がります。最近、私が「クロスボーダーM&Aを頻繁にやっている」と言うと、他の弁護士さんから「でも、クロスボーダー案件というのは、海外の弁護士が8割方動いて、日本の弁護士は仕事がないし、儲からないでしょう」と言われることが多いのですが、実際には違います。「違って然るべき」という言うべきかも知れません。資格(現地の弁護士法)の関係で現地の弁護士は雇って協働体制を組みますが、基本的には、言語が英語であり、クライアントからの要請がある限り、DDから交渉、契約書作成まで自ら行うことにしています。その場合、日本側の仕事量は逆に8割を超えてきます。現地の弁護士には現地法に基づくアドバイスや交渉同席を求め、現地政府との折衝等を依頼しますが、メインの仕事については、クライアントも巻き込んで「他人任せ」にしないで進めていくのです。クライアントの皆様も、必死で英語の契約書や財務諸表を読んで、一生懸命英語でメールを書いて、現地での会食も交渉も英語でこなします。それでなければ、買収してからの会社の運営がスムーズにできませんし、中身が良く分からないまま高い買い物をしてしまうことになりかねないからです。

桝田先生は、このような「日本人がクロスボーダー案件の中心に立ってマネジメントし、コントロールする」という仕事の仕方を当初からされてきました。単身でアメリカに乗り込んでいかれたというのも、当時のことを思えば大変な偉業だったと思いますが、何よりも、ときに一つの案件で100人以上の海外の専門家を取り纏めるという神業を駆使しながら、国際案件の真っ只中に自ら飛び込んで他人任せにしないで進めるという仕事のスタイルを継続されてこられたことが素晴らしいと思います。桝田先生からのアドバイスは、要約しますと、①ビジネスを理解する、②相手(クライアントも含む)の本音を正確に読む、③前面に立って誰かに頼らず自分の頭で考える、④解決できない問題はないと信じる、⑤結果に対して全責任を負う、⑥英語力を磨き続ける、の6点でした。普段心掛けていることとはいえ、身が引き締まる思いです。

今日は、桝田先生から、国際弁護士としての先生のご経験、これからの日本の進むべき道、これからの日本人弁護士が果たすべき役割等について、お話を伺い、意見交換させていただくことができ、大変貴重な機会となりました。

今、多くの日本企業は、国内マーケットの縮小、円高等で非常に苦しい状況に置かれています。今後、多くの企業が、生き残りを賭けて海外進出、他社買収を仕掛けると同時に、逆に、他者による買収、民事再生等による大手術を経ながら、事業の存続を図っていくことになると思います。私自身、10年ほど前に民事再生が流行った際には倒産弁護士としての経験を積ませて頂きました。そして、現在は、他社買収、海外進出案件に明け暮れています。来年は、逆境の中で、上に、外に突き抜けようとする企業、そして、やむを得ず一旦落ちてから再起を図ろうとする企業の両方のお手伝いができればと考えております。

今年も残り僅かですが、どうぞ宜しくお願い致します

上場会社による100%子会社の合併方法

上場企業が100%子会社を吸収合併するケースは少なくないと思いますので、その際の方法について簡単に整理します。

まず、親会社側については、通常、簡易合併となり株主総会決議が要りません。
簡易合併が認められるための要件の概略は、以下の①を満たし、かつ②及び③に該当しないこととされています。なお、親会社の株主の(原則)6分の1以上(会社法施行規則197条)が当該合併に反対する場合には株主総会の開催が必要となりますが(会社法796条4項)、実務上かかる可能性は少ないと思われます(*1)。
① (合併対価が株式である場合)合併において交付される株式数が発行済株式総数の5分の1以下であること(会社法796条3項本文)
② 存続会社の全株式が譲渡制限株式であり、かつ、合併対価の全部又は一部がかかる存続会社の譲渡制限株式である場合(会社法796条3項ただし書、同条1項ただし書)
③ 存続会社に合併差損が生じる場合(会社法796条3項ただし書、795条2項各号)


100%子会社の合併は通常「無対価の吸収合併」になりますので、上記①は常に満たし、また親会社が上場会社であれば上記②も当然に充足することとなります。
他方、③については、子会社が債務超過の状態になかったとしても安心はできず、親会社のB/S上に計上されている子会社の株式が消滅することとなるため、いわゆる「抱合せ株式の消滅による抱合せ損」が生じる可能性がある点に注意が必要です。

かかる抱合せ損が生じる場合には、たとえ資産超過会社を吸収合併する場合においても、簡易合併の要件である上記③を充足しないこととなり(会社法796条3項ただし書、795条2項1号、会社法施行規則195条1項、2項)、親会社において株主総会決議が必要になります。抱合せ損が生じるか否かは、概略でいえば、(1)親会社において計上されている子会社株式の帳簿価格と(2)子会社の純資産の額の比較を行って判断することになりますが、(2)については子会社の連結上の帳簿価格を用いるといった留意点もありますので、具体的な判定を行う際には、会計士、監査法人等の意見も確認するのが望ましいでしょう。

続いて、子会社側においては、略式合併を検討することになります。略式合併が認められるための要件の概略は、以下の①を満たし、かつ②に該当しないこととされています。
①存続会社が消滅会社の総議決権の90%以上を有している「特別支配会社」(その意義については、会社法468条1項、会社法施行規則136条1項をご覧ください。)であること(会社法784条1項本文)
②合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式である場合であって、消滅会社が公開会社であり、かつ種類株式発行会社でないとき(法784条ただし書)

上場会社による100%子会社の吸収合併の場合、上記①及び②のいずれも充足しますので、子会社側においては株主総会の開催が不要になります。

最後に、例えば、決算期が3月31日で合併の効力発生日が4月1日の場合、当該事業年度における子会社側の決算書類の作成や公告はどのように処理するべきかが問題となります。
この点、合併の効力発生日以後は、子会社の決算書類の作成及び取締役会による決定、株主総会による決議及びその後の公告といった手続を行うべき子会社の機関が消滅しているため、これらの手続はできず、かつ、その必要もないということになります。
もっとも、消滅会社の確定申告については、存続会社が行う必要がありますので留意が必要です(国税通則法6条)。

【執筆:弁護士岩谷博紀】


(*1) 詳細は、「簡易組織再編の原則と例外」をご参照ください。

自己株式取得の際の財源規制

M&Aを行う際に、最初に自己株式をいくらか取得することで浮動株を減らして株主構成をシンプルにしたり、その後の株主総会決議を採り易くすることがあります。この自己株式の取得については剰余金の配当と同様の財源規制が有りますが、毎回会社法の条文を探さなくても良いように、簡単に整理しておきたいと思います。

① 会社法461条に基づく規制
これは、自己株式取得の効力発生日における規制です。すなわち、
分配可能額(自己株式取得と引換えに交付する金銭等の額の上限)= ①分配時点の剰余金の額-②分配時点における自己株式の帳簿価額-③法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額となりますので、この分配可能額の範囲内で取得する必要があります。上記における「分配時点の剰余金の額」は、最終事業年度における剰余金の額をベースに、最終事業年度末日後に自己株式処分/消却、減資、準備金減少、剰余金配当、吸収合併、剰余金の額の減少等を行っている場合には加減算を行うことになります。

では、かかる規制に違反した自己株式取得の効力はどうなるでしょうか?
これについては、若干の反対説はあるものの、一般的に「無効」と解されています。正確には、会社法462条1項に基づき、金銭での解決は可能となっています。しかし、そこで言う金銭とは「分配可能額を超えた部分」ではなく、条文に記載されているとおり、自己株式の譲渡人が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭ですので、要は、全額の返還義務が発生することになります。この条項をもって(あるいは、そもそも法令違反の株主総会・取締役会決議に基づく会社の剰余金配当等は無効であるとの理解に基づき)、分配時点における分配可能額を超えてなされた自己株式取得は違法であり無効になると解釈されています。
そして、自己株式の譲渡が無効であることを受けて会社から譲渡人に対して受領済みの譲渡代金全額の返還を求める以上、当然、取得した自己株式を譲渡人に返す必要がありますので、原状に復する面倒な手続が採られることになります。もちろん、会社法に基づく責任を負う取締役等が全額ポケットマネーで補填を行い、自己株式を譲渡した株主に迷惑を掛けないという手法も理論的には可能ですが、金額によっては現実的でないと思います。なお、会社法463条で善意の株主は求償対象外とされていますので、株主側が渋って長期に亘り解決しなければ会社としては取締役等に先に請求せざるを得ず、その場合、株主には求償できずに終わる(但し、463条2項により会社の債権者は株主に対して請求可能)ことになる可能性はあります。

② 会社法465条に基づく規制
これは自己株式を取得した年度の決算を締めてみて初めて判明する話なのですが、結果として分配可能額がマイナスになってしまうと、その自己株式取得を行った取締役等は、会社に対して連帯して、①そのマイナス分、②株主に交付した金銭等の帳簿価額総額のいずれか少ない方を支払わなければなりません
こちらの規制は461条による規制と異なり、あくまでマイナス分の補填で済む点が異なります。

会社法上の規制はおおまかに言えば以上になりますが、自己株式取得については税務上の扱いも重要です。
すなわち、自己株式取得に伴い株主に交付される金銭を①自己株式対応資本金等の額と②それ以外に分け、①を超える部分はみなし配当(すなわち、受取配当金として課税される)、②(すなわち、譲渡収入金額)と譲渡株式の税務簿価との差額が株式譲渡損益として課税されることになります。

例えば、資本金が500、発行済株式総数が100、今回取得する自己株式が40、自己株式の対価として株主に交付される金額が300、譲渡株式の税務簿価が50とすれば、
①自己株式対応資本金等の額=500*40/100=200
譲渡収入金額=300-200=100 ← これについて配当課税。但し、配当控除の適用あり。
譲渡益=200-50=150 ← これがキャピタルゲイン課税

震災関連法務(その3)

3.今後に備えて準備しておきたい事項
(1)契約条項関連

震災・津波等で契約の履行が困難になるケースを想定し、今一度、不可抗力条項に焦点を当て、自社が直接被災した場合だけでなく、部品調達先の被災、製造委託先工場の被災、被災による原材料の納品遅延等をカバーする不可抗力条項を入れることを検討する必要があります。特に国際紛争においては、契約条項が強い効力を有するため、明文化できるものは全て書いておく必要性が高いといえます。

また、最近のM&A関連の契約書においては、かなりの確率でMAC(Material Adverse Change)条項が入っています。これは米国の同時多発テロをきっかけに実務家が考案した条項で、震災や津波も十分射程範囲に入ると考えられますので、買収等の大型取引においては、ペナルティを払わずに撤退できる手段を確保するためにMAC条項の導入を検討する必要があります。

(2)データ回避   
今回の大震災の影響が大きい東北6県と茨城県には、12万社を超える企業が本社を置いていますので、被災により、顧客データ、従業員データ、契約書等の書類を喪失された企業も少なくないと思われます。かかる事態を回避するために、外部専門業者のサーバやクラウドへのデータ回避を検討している企業においては、情報漏えいを避けるための方策(業者の選定、情報管理システムの徹底、契約書における委託先の責任追及条項等)を万全にするとともに、第三者に情報管理を委託することになるため、個人情報保護法(委託先の監督に関する第22条、第三者提供の制限に関する第23条等)への対応も必要となります。

また、これを危機管理の一貫として行う場合、内部統制システムの一部として「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」(会社法362条4項6号、同法施行規則100条1項2号)に該当し、取締役会の承認決議が必要となってきます。

(3)事業継続計画の策定   
リスク管理の一貫として、近時、企業に事業継続計画(BCP)の策定と運用が求められています。次回の災害に備えて、サプライチェーンの再構築や危機時対応について事業継続計画で定めて、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」として取締役会で承認し、有価証券報告書提出会社においてはこれを有価証券報告書において開示することへの期待が一層高まるものと予想されます。この流れを受けて、今後は、危機管理体制の不備について取締役の善管注意義務違反が問われる可能性は増していくものと思われます。

なお、BCPについては、毎年一定時期に見直し、必要な追加・修正を行うとともに、紙とデータの双方で保存し、かつ危機時に即対応できるようサマリー版も用意しておくことが望ましいと考えます。また、BCPには、被災地との一般的連絡手段が途絶えた場合の連絡方法、被災地の従業員が全員被災したことを前提としたシミュレーション、直接の部品サプライヤーだけでなく、更に上流の2次、3次サプライヤーまで被災した場合の部品調達方法に至るまで可能な限り具体的に記載し、かつ、生産移管工程等については実際の訓練を毎年行い、更にはサプライヤー側のBCPが整っているかについてまで気を配っておくことが望ましいでしょう。

4 終わりに  
そのほか、震災に関連する法務としては、保険関係、クレジット関係、原発事故(損害賠償)関係、事業の再建手段、会計処理や監査関係等、様々なトピックがありますが、本ブログはM&A情報ブログですので今回は割愛させていただきました。

日本企業が、今回の大震災を乗り越え、むしろこれをきっかけに国際競争力強化のための大型企業再編が行われたり、エネルギー政策の見直しによって関連分野に強い日本企業のプレゼンスが高まっていくこと、また世界において最も危機管理に強い企業集団を擁する国になることを願って止みません。

震災関連法務(その2)

(3)倒産に関する特例
今回の大震災により、製造ラインの損壊、大口取引先の被災、原材料の不足等により既に多くの企業が破産申立てを行っていますが、前記のとおり、東日本大震災による災害が特定非常災害と認定されたことによって、債務超過会社については、自ら破産を申し立てた場合又は支払不能である場合等を除き、平成25年3月10日までは裁判所による破産手続開始決定が留保されます(特別措置法5条)。

ここでは、経済的に困窮した企業、その取引先債権者、金融機関等の立場を超えて一般的な震災復興支援策について概略を述べますが、まず政府系金融機関によって、セーフティネット貸付、災害復旧貸付、事業再建資金に関する協会による保証等のための制度が整備されました。また、震災を起因とする手形不渡りについては、中小企業倒産防止共済法施行規則の改正により共済金の貸付請求ができます。

更に、金融庁からは、債務の履行遅滞や収支上の赤字が一過性のものと判断されるときには債務者区分の引下げを行う必要がないこと(金融検査マニュアルの特例措置)と、債権放棄・返済猶予等による柔軟な対応が要請されています(中小企業金融円滑化法については、法律の存続期限が平成23年3月末から平成24年3月末に延期され、かつ、監督指針において東日本大震災に関連した規定が設けられています。)。なお、金融機関自体が被災しているケースがありますので、金融機能強化法の改正や柔軟化により、公的資金の予防的注入等を活用しつつ、経営責任を問うことなく被災地の企業と金融機関が一体となって復興できるよう制度整備が図られることが期待されます。

(4)国際取引に関する問題   
今回の震災により、多くの輸出企業において納品遅れが発生しているものと思われますが、これが不可抗力(Force Majeure)条項によって救済されるか否かが論点となっています。国際取引契約において不可抗力条項が適用されるためには、契約書の文言により個別の判断が必要になりますが、一般的には、契約上の義務の免責を主張する側が、①契約締結時に予見できない事情であったこと、②履行遅滞という結果を回避できなかったことに合理性があること、③履行遅滞の範囲及び期間が最小限であることを主張、立証していかなければなりません。

完成品メーカー自体が被災し、製造及び出荷が一定期間不可能になった場合は不可抗力と認められる可能性が高いと考えますが、完成品メーカーの施設自体は被災しなかったが部品工場の被災を理由に製造遅延が不可抗力であると主張する場合には、調達先を分散させていなかったことが上記②との関連で問題になる可能性があり、かつ、代替調達先を速やかに見つけられなかった場合は上記③との関連で完全免責を受けられない可能性が出てきます。ただし、顧客側が部品調達先を指定又は承認している例も多いことから、実際には交渉によって解決されるものと考えます。

なお、部品調達先の変更や製造ラインの修復等により製造コストが増加するケースの方が多いと考えられますが、これを理由に製品の値上げを要求する理屈となりうる事情変更の原則については、必ずしも国際的に承認されているわけではなく(ヨーロッパ契約法等、かかる原則について規定しているケースもあります。)、仲裁等の国際的紛争解決手段に踏み切る場合、最終的には契約書に記載されていない事情は考慮されない可能性が高いことに留意する必要があります。

なお、不可抗力条項が契約に含まれていなかったとしても、過失責任を原則とする国では、自然災害を起因とする履行遅滞・不能については一定範囲で免責される可能性があります。例えば、日本では帰責事由があって初めて債務不履行責任が問われるところ(民法415条)、阪神淡路大震災の際の裁判例で、過失の前提として具体的な予見可能性を要求した上で、「本件大震災は、未曾有の大地震であるところ、このような規模の大地震が発生するのを具体的に予見することはできなかった」と認定し、債務不履行責任を否定したケースがあります(東京地判平成11年6月22日(判例タイムズ1008号288頁))。

続いて、放射性物質漏洩の影響により世界各国で日本製品(特に食品)の輸入規制が行われていますが、これによる外国取引先側の受領拒否が契約違反になるかという問題もあります。不当な輸入制限措置については、まず国家間の問題であり、WTOの紛争解決手続(当該輸出先国がWTOの加盟国である場合)等により解決されるべきですが、私企業間の受領拒否については、製品の性質や用途に応じた個別判断をせざるを得ず、協議で解決しない場合には仲裁・裁判等に持ち込むことになります。なお、今回の震災に起因して、国際取引に絡んで自社に損害が発生した場合、貿易保険による補償、救済の検討が必要になります。

(5)独禁法・下請法上の問題   
今回の震災のような非常時においては競業者間で種々の協力が行われることがありますが、例えば、運送料金の取り決めや配送地の分担、原材料の共同調達、生産調整、価格調整などの協力行為がカルテル(独禁法2条6項、3条)にならないように留意する必要があります。この点については、公取委事務総局から平成23年3月18日付けで公表されている「被災地への救援物資配送に関する業界での調整について」に記載された3要件(①被災地に救援物資を円滑に輸送するという社会公共的な目的に基づくものであり、②物資不足が深刻な期間において実施されるものであり、③特定の事業者に対して差別的に行われるおそれがないこと)を参考に、競争の実質的制限とならないよう、具体的な協力行為の態様について専門家を交えて検討する必要があります。なお、公取委のウェブサイトには「東日本大震災に関連するQ&A」が掲載されています。

また、放射能汚染を理由とする受領拒否などは下請事業者の責に帰すべき理由が認められない限り下請法4条違反となりますので、親事業者側でコスト負担を行わない検査の強要等のケースでは慎重な対応が必要となります。

震災関連法務(その1)

先週は、多数の日本企業が、東日本大震災を契機とする業績予想の下方修正及び特別損失(震災関連費用)の計上をリリースしました。工場等の生産設備等の復旧費用、工場操業が停止したことによる損失、被災した取引先への貸倒引当金の計上、たな卸資産の評価損等、併せると一企業で一千億円を超える特別損失を計上した企業もあり、震災関連損失は日本全体で2兆円を超えると報じられています。私が個人的に関与していたM&A案件のうち、いくつかは既に相当程度手続が進んでいたこともあり震災の影響を受けつつも無事に成約に至りましたが、他方で、対象企業の今後の事業計画が見えなくなったこと、又は買い手の資金を他の用途に使わなければならなくなったことなどから中止となった案件もあります。
 
既に相当数の震災関連法務の論稿が発表され、会社法、金融商品取引法、労働法、下請法等の各法分野における法務対応のA to Zが出揃いつつありますので、M&Aに関連するか否かに関わらず、現時点で整理されている震災関連法務を紹介した上で、企業の法務部が次の災害に向けて準備をしておきたい事項についても言及したいと思います。

1.既に一定程度整理されている事項

(1)定時株主総会対応
定時株主総会は、設定された基準日の有効期間(3か月、会社法124条2項)に照らして、毎年、決算期末日から3か月以内に開催される(会社法296条1項)旨定款に規定されていることが通常ですが、必要な公告要件を充たした上で基準日を再設定する方法により定時株主総会の開催時期を遅らせることが可能です。法務省も、震災後に、当初予定した時期に定時株主総会を開催できない状況が生じている場合には、そのような状況が解消され、開催が可能になった時点で定時株主総会を開催すれば会社法296条1項にも定款にも反しない旨公表していますので、定時株主総会開催時期に関する問題はほぼクリアされています。

なお、多くの会社は、剰余金配当基準日を定款において定めていますので、「剰余金配当の効力発生日を、定款に規定された基準日から3か月以内とする内容の株主総会決議を行う必要がある」という法規制(会社法454条1項等)に従い、当該決議が間に合わない場合には別途公告を行い、基準日を設定した上で配当を行うことになります。
続いて、被災地の株主については議決権行使が物理的に困難な状況に陥る場合があるため、株主が1000人以下の会社においては任意とされている書面による議決権行使(会社法298条1項3号)、又は電磁的方法による議決権行使(会社法298条1項4号)を認める方向での配慮が必要と考えられます。

(2)上場企業の開示に関する特例
有価証券報告書及び半期報告書は、各年度・期間経過後3か月以内(金商法24条1項、24条の5第1項)の、四半期報告書は各期間経過後45日以内(金商法24条の4の7第1項)の提出が求められ、これを徒過した場合には監理銘柄に指定され上場廃止基準の該当性が確認される実務になっていますが、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(以下「特別措置法」といいます。)及び関連政令により、東日本大震災による災害が特定非常災害と認定され、上記報告書の提出期限が平成23年6月30日までとされたことに加え、震災により(本社が被災した場合のみならず、支店・工場や重要な取引先の被災により決算作業が困難となった場合など、間接的な影響によるものを含みます)、本来の提出期限までに有価証券報告書を提出できない3月決算企業などについて、同年9月末まで提出期限が延長されることになる見込みです。

また、証券取引所は、震災により業績見通しを立てることが困難な場合には決算短信及び四半期決算短信において業績予想を開示する必要がないものとし、かつ、震災により監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明の記載がなされた場合であっても監理銘柄指定及び上場廃止の対象にはならない(その旨の開示も不要)としています。

その他、震災により滅失・棄損した資産の帳簿価額が最終事業年度末日における純資産額の3%以上である場合には、可能な範囲で速やかに臨時報告書を提出することが求められています(金商法24条の5第4項、企業内容等開示府令19条2項5項)。また、開示とは直接関係はありませんが、東京証券取引所等の証券取引所において、震災による特別損失の計上で債務超過になった場合、上場廃止までの猶予期間を通常の1年間から2年間に延長することが発表されています。

ドイツでの買収交渉

3月(2011年)には、ドイツでの現地交渉に行ってきました。日本企業によるドイツ企業の買収です。半年ほど掛けて交渉してきたのですが、段々とスケジュールがきつくなってきたため、最後はface to faceの交渉を行い一気に片付けたい!というクライアントからの要請があったため、同行させていただいた次第です。

東日本大震災の翌々日に成田から飛んだのですが、皆家族を日本に置いての海外出張ですから、仕事に集中せよという方が無理があります。しかし動いている案件を止めることもできません。全員が、交渉は2日間に限定し、必ずその2日間で合意に至るという不退転の決意で乗り込みました。

宿泊したのはマンハイムという小さな街で、フランクフルト空港から車で1時間ちょっとかかるのですが、何とものんびりした雰囲気です。今回は現地の法律事務所に応援を依頼していましたので、到着した後すぐにホテルに全員集合し、戦略会議です。私も含めて時差ボケに強い人はいいのですが、結構な強行スケジュールとなりました。

当日は、相手方の弁護士が提供してくれた法律事務所の一室で、朝から交渉が始まりました。場所はハイデルベルクという綺麗な街で(但し、街を歩く時間がなかったので、法律事務所周辺が綺麗だと感じるに留まりました)まずは皆でコーヒーを飲んで、日本の地震の話がしばらく続いた後に、契約書の話に入っていきました。交渉中もこちらは皆、日本の家族とニュースが気になります。しかし、電波が悪くブラックベリーも使えない中、嫌でも交渉に集中せざるを得ない状況でした。

タフネゴシエーターが結集していますので、お互い一筋縄では行きません。相手の利益にも配慮しつつ、ビジネスアライアンスを成功させるのだという本来の目的を忘れずに、条項の一つ一つについて丁寧に誠実に、ときに駆け引きを使いながら交渉していきます。ドイツ語と英語が飛び交う交渉は皆の頭脳的体力を徐々に奪って行きます。まだ明日があるから……ということで、初日は午後9時頃に交渉を中断し、散会となりました。

翌日も午前9時に集合です。初日はこちら側のアドバイザーとしてドイツの法律事務所のパートナー弁護士がいらっしゃったのですが、2日目は都合がつかず、私がメインネゴシエーターとなります。たまにドイツ法に関連する部分が出てきますので、そこは同席してくれた別のドイツの弁護士に確認しながらの交渉になりました。英語で交渉すること10数時間、夜中の11時過ぎにようやく契約書がまとまりました。内容が固まったことを確認するために最終ドラフトに双方がサインをして終了です(実際の調印には公証人の立会いが必要となるため、後日に回されました)。

交渉終了後に、相手方の弁護士が、-いつも事務所に置いてあるのでしょうか- シャンパンを持ってきてくれました。相手方も当方も一緒になって交渉成立を祝って乾杯し、しばらく談笑が続きましたが、こちらはやはり日本の地震の状態が気になりますので、達成感はあるものの、笑顔にはなりきれませんでした。

今回は2日間で計26時間に及ぶ交渉になりましたが、M&Aにおける本当の勝負はこれからです。ドイツでの事業展開が順調に進むことを心から願っています。

米国での調停(その3)

Mediation statementは出すタイミングも重要です。どちらかが先に出してしまうと、もう一方はそれを見て反論を追加できることになって不公平だからです。そこで、相手方の弁護士と電話で話して、合意した特定の日時に同時にmediatorと相手方当事者にメールで送信する約束をしました。その時間の10分前に相手方弁護士に「今から10分後にメールで送ります」と連絡し、時計を睨みながら丁度の時間に同時に送りました。Mediatorからは「受け取った」というメールが届き、相手方からも相手方のmediation statementが届き、一安心です。時差があるので、こういった手続も事前によく協議して決めておかなければなりません。

その後飛行機に飛び乗り、飛行機の中で相手方のmediation statementを入念に読み込んで、口頭で反論できるように詳細なメモを用意しました。時差があるため3日の夜にニューヨークに着き、早速その晩、mediatorと、まだ西海岸にいる相手方の弁護士と、3者で電話会議です。Meditorは既に両者のmediation statementを読んでいるわけですが、お互いの主張を簡単に口頭で伝えた上で、和解の方向性・可能性についてヒアリングを受けました。その後、Mediation当日の集合時間や、2日間の進め方の確認をして終了です。

Mediation当日は、mediatorのローファームに集合です。アメリカらしく、コーヒーやスナック類が豪華に飾られている待機室で、久しぶりの米国ローファームの雰囲気を味わった後、にこやかに(内心は好戦的に)相手方弁護士と握手をしてmediationが始まりました。アメリカのmediationでは、最初にopening statementというプロセスがあります。これは口頭で当事者の主張を述べる手続です。そこで相手方弁護士は、おもむろに畳くらいの大きさがあるボードを5枚ほど取り出しました。このボードは米国の陪審員向けプレゼンテーションでよく用いられるもので、大きな字で契約書の条項が貼り付けられています。相手方の若手弁護士が、法廷映画の俳優のように、流暢に、今回の契約書の内容と紛争の概要、相手方の主張を説明します。すると、いきなりmediatorから質問が出されます。手馴れているようです。こちらも遠慮せずに意見を言ったため、opening statementがディスカッションになってしまい、最初から熱い口頭弁論のようになってしまいました。

途中経過は省略させていただきますが、その後、論点ごとに交渉を重ね、初日は夜7時くらいに解散となりました。翌日も朝9時からスタートし、残りの論点を解決していきます。おおよそ15時くらいでしょうか。ほとんどの条件について合意ができましたので、その後和解契約書(Settlement and Release Agreement)の作成に取り掛かります。しかし、これが大変でした。和解契約書自体はこちらでその場で案を作って提示したのですが、相手方弁護士はトランザクション系の弁護士で訴訟(紛争解決)担当ではないため、和解条項の検討をするために先方の法律事務所で待機している訴訟部門の弁護士と逐一協議を行っているようです。結局、細部にまで交渉が続き、双方の代表者が和解契約書にサインをしたのが何と夜中の3時でした。結構年配のmediatorの弁護士さん、夜中まで全くスタミナが切れず、むしろどんどん元気になっていかれるのが印象的で、夜中3時過ぎにmediationが終わると、おもむろにヤンキースの野球帽をかぶって、待たせてあった車で颯爽と郊外の(?)自宅に帰って行かれました。

私自身はと言いますと、久々のニューヨークということで飛行機を一日遅らせ、友人の弁護士を順番に尋ねて充実したafter mediationを過ごし、翌々日に帰国しました。おそらくは今回のmediationを行わなければ、今でも紛争は継続していたのではないかと思います。当事者双方が2日間で終わらせると決めて臨んだからこその解決だったと思いますが、海外でのmediationはなかなか面白く、紛争当事者にとってもやってみる価値のある手続のように思いました。

米国での調停(その2)

さて、しばらくするとmediatorのリストがメールで送られてきました。候補者全員について経歴書やタイムチャージの金額が書かれています。確かに、mediation経験豊富な弁護士や製薬関連の業務や研究経験がある弁護士がずらっと並んでいます。

ここでは、こちらに有利な判断をしてくれそうなmediatorを探しますが、フィーも若干気になります。Mediatorへの報酬は弁護士報酬と同様にタイムチャージとなりますが、時間当たり300ドルから700ドルまで様々ですので、できればタイムチャージ単価の低めの弁護士を選びたいと思うからです。但し、タイムチャージ単価が安いということは、経験が浅かったり、若かったり、それなりの事情があるものと思われます。こちらは日本の弁護士(今回は米国の弁護士を起用しませんでした)で、先方は世界的に有名な大手ローファームがついていますので、先方の不合理な主張については「それはおかしいでしょう」とたしなめてくれる年配の弁護士が望ましいという配慮も必要です。

CPRからは、当事者間でmediatorを合意して選べるのであればそれでよいが、選べない場合はselectionプロセスに進めると言われています。結局、こちらの希望する候補者と相手方の希望する候補者が一致しなかったため、selectionプロセスに進みました。selectionプロセスというのは、各当事者が希望する候補者を5名ずつ選んで、それに順位をつけてCPRに提出すれば、CPRがそれを点数化して一番獲得点数の高かった候補者がmediatorに選ばれるという仕組みです。そのselectionプロセスの結果、ニューヨークのローファームで長年弁護士をやっておりmediation経験も豊富な弁護士が選ばれました。料金は高いですが頼りになりそうです。

次は、mediation statementと言われる申立書(主張書面)の作成に取り掛かります。事実関係と当事者の主張を整理してmediatorに分かりやすく書かなければなりません。契約書などの疎明資料も一緒に添付します。Mediationでは、通常書面は最初に出す申立書のみですから、必要なことは全部書かなければなりません。今回の調停は1月5日と6日の2日間と決めてスケジュールを組みましたので、12月28日から1月3日までの殆どの時間を申立書の起案に当てることになりました(正月三が日を3日とも事務所で過ごしたのは初めてでした)。

続きは次回に。

米国での調停(その1)

少し前の話になりますが、今年(2011年)の1月にニューヨークで調停をしてきました。当方は日本企業で、相手方は米国企業です。昨年、半年ほど掛けて交渉を行ってきたのですがどうしても合意に至らず、のんびり時間を掛けていると対象となっている事業・技術が劣化してしまうために契約書に従って調停に持ち込んだ次第です。

調停(Mediation)は仲裁(Arbitration)とは異なり、調停委員(Mediator)の判断には何ら拘束力はありません。その意味で通常の「和解」と同じなのですが、第三者が入って話をまとめる手続であり、2日とか3日といったスケジュールを決めて行うため、和解しやすい(和解できないことも早期に判明する)という効果があります。

さて、今回の契約には、Dispute Resolution条項に以下の規定が入っていました。
"If the dispute has not been resolved by negotiation as provided in Section ** within 30 days after delivery of the initial notice of negotiation, or if the senior executive failed to meet within 30 days after delivery, the Parties shall endeavor to settle the dispute by non-binding mediation under the CPR Mediation Procedure then currently in effect. Unless otherwise agreed, the Parties will select a mediator from the CPR Panels of Distinguished Neutrals."

シニアエグゼクティブによる交渉が30日以内にまとまらなければCPRのルールに従って調停を行いましょう、調停委員はCPRに登録している「利害関係を有しないメンバー」から選びましょうということです。
CPR(International Institute for Conflict Prevention and Resolution)というのは民間の調停機関で、フットワーク軽く調停委員(通常は登録している弁護士)の紹介をしてくれます。

今回はまず相手方との間で、どこでmediationをやるのかが争点になりました。こちらの会社は東京、先方は米国西海岸です。最初はサンノゼを提案され、こちらから「あまりにそちらに近過ぎる。コスト面でも人選面でもこちらに不利益」と反論し、その後、サンフランシスコになりかけましたが、結局、なるべくニュートラルにやりたいということでニューヨークに決めました。

続いて、CPRにメールをしてmediatorの紹介を依頼します。Mediator候補者リストには2種類あります。一つは"Unvetted list of mediators"と呼ばれるもので、紛争になっている分野(今回は製薬)に強い候補者を紹介してくれるが、利益相反に関する事前チェックは経ていないものです。もう一つが"Vetted list of mediators"といって、利益相反チェックを済ませた候補者のリストになります。いずれのリストも最大15名をピックアップしてくれますが、前者は1,500ドルで後者は1,750ドルということでした(その当時の料金です)。利益相反があれば意味がないため、相手方と協議して” Vetted list of mediators”を希望しました。費用についてはこれも相手方と協議して折半にしました。

続きは次回に。

2011年2月10日に閣議決定された産活法改正案の概要

一昨日(2011年2月10日)に閣議決定された産活法改正案(「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律案」)が第177回通常国会に提出されます。

改正法案のポイントは、以下の通りです。
(1) 民主導の戦略的な産業再編等を促すため、以下の措置を講じます。
 ① 公正取引委員会との協議制度の創設
 ② 会社法の特例による組織再編手続きの簡素化・多様化
 ③ 産業再編等を行う事業者に対する長期資金の低利融資制度(ツーステップローン)の創設等
(2) ベンチャー・地域中小企業等を支援するため、以下の措置を講じます。
 ① ベンチャー、中堅企業等の成長企業への融資に対する債務保証
 ② 事業の引継ぎを希望する中小企業どうしの引き合わせ支援等

このうちM&Aに関係するのは(1)の方ですが、そのうち①は、主務大臣が産活法に基づく計画認定を行うにあたり、公取委と「協議」することを義務付けています(これまでは、主務大臣から「意見を述べるものとする」と規定されていました)。条文は「第13条(公正取引委員会との関係)」です。単に意見を述べるのではなく協議まで求めることで、産活法の枠組みを利用して行われるM&Aについては、公取委側の合併等の審査についても当事会社側(あるいは経済界)のニーズに応える合目的的な結果を導こうとする趣旨ではないかと考えます。新聞報道上はこれによるスケジュールの短縮が予想されていますが、スケジュールについては、現在審議されている事前相談制度の廃止が実現するかどうかや、公取委側の審査期間がどのように設定されるかによって決まってくるものと考えます。

続いて、②は、90%以上の株主が公開買付けに応じた場合の完全子会社化の手続簡素化を定めており、全部取得条項付種類株式に関連する株主総会の開催を不要とするもので、条文は「第21条の3(全部取得条項付種類株式の発行及び取得に関する特例)」です。

②にはもう一つ改正点があり、自社株を対価にする公開買付けを利用しやすくするため、現行の「株価」ではなく「株式交換比率」を株主総会で決議すれば済む特例を設けています。現行制度では、手続進行中に「株価」が変動してしまう可能性があったため、交換比率だけを決議すれば足りるとなれば手続の安定につながるでしょう。こちらの条文は「第21条の2(株式を対価とする公開買付けに際しての株式の発行等に関する特例)」です。

③は、政府が総額1000億円の資金を2011年度の財政投融資計画で確保し、日本政策金融公庫と民間の指定金融機関を経由して、M&Aを行う企業に5年ないし10年の長期資金として融資するというものです。

いずれも産活法に基づく事業計画の認定を受けた企業がM&Aを行う際に適用されるものであり、公布の日から起算して3ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされています。

【新旧条文対照表】はこちら
【会社法の読替表】はこちら


自社株買いと公開買付け

簡単ではありますが、自社株買いをする際に公開買付けが必要かという問題を整理しておきます。

★ 他社株式の取得(金商法第2章の2第1節) ⇒ 3分の1ルールや5%ルールが適用される

★ 自社株式の取得(金商法第2章の2第2節) ⇒ 3分の1ルールや5%ルールは適用されない
 ⇒ 市場外取引であれば
  ① 原則:1株でも公開買付けが必要
  ② 例外:「会社法160条1項に規定する158条1項の規定による通知を行う場合」は公開買付け不要(金商法27条の22の2第1号)← よって、特定の株主との合意で自己株式を取得するケースにおいては、公開買付け不要(その代わり160条3項の売主追加請求権がある)

なお、立会外取引の場合でも公開買付けが必要とされるのは、あくまで「発行者以外の者による株券等の公開買付け」(他社株式の取得)の場合だけで、根拠条文としても、金商法27条の2第1項3号しかありませんので、自己株式を立会外取引(ToSTNet3等)にて取得する場合については公開買付け規制は適用されません。この点は、自己株式取得であっても、規制すべき理由があるのでは?という意見もあるようですが、現状、区別されているようです。

なお、自己株式取得の際にはインサイダー取引規制が問題となりますので、いわゆるクロ=クロ取引に該当させるために、取り交わす書面に

① 会社関係者又は情報受領者であること
② 職務に関し重要事実を知ったこと
③ 重要事実の内容の認識

を記載して万全を期す必要があります。インサイダー取引が既遂になる時期は、売買等に係る申込みと承諾の意思表示が合致した時点と解されていますので、この時点までに、売り手となる株主をクロにしておく必要があります。決算情報など、重要事実に該当するタイミングが難しい情報(*1)については、より注意が必要です。


(*1) 東京地判平4・9・25(マクロス事件)参照

グローバル企業における国際税務戦略

外国に複数の子会社を保有している日本の企業がアウトバウンドの買収を行うケースや、外国の子会社をまとめてぶら下げる中間持株会社を設立する場合、ビジネスの問題(サプライチェーン・マネジメントなど)に加えて、必ず国際的なタックス・プランニングが必要となります。

クロージング後/設立後の論点としては、移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、PE課税などがあり、一方、持株会社設立の際には、どこの国に設立するか、会社形態をどうするか(具体的には、受取配当に対する課税、親会社への配当の際に発生する源泉税が問題となり、それに関係してタックスヘイブン対策税制や租税条約が問題となります)、買収の場合には、買収資金をどのように調達しどのように直接の買い手に提供するか(具体的には、誰が資金調達して、それを出資/貸付のいずれの方法で買収ビークルに提供するかという問題)が問題となります。

日本では、平成21年税制改正によって、受取配当金が非課税(益金不算入)になりましたので、一見、日本の親会社にどんどん資金を吸い上げれば良いかのように見えますが、孫会社から親会社まで配当が流れてきた場合には配当の5%部分について日本で課税されることになっているため、これまで例えばEUにある中間持株会社で資金を溜めてEU内で循環させて利用していた場合には5%部分の二重課税を甘受する理由が本当にあるのかを検討する必要があります。また、上記税制改正を受けてタックスヘイブン対策税制も平成22年に改正され、持株会社が子会社から受領した配当が原則合算課税の対象外となりましたが、他方で、持株会社が支払った法人税に関する間接外国税額控除と、持株会社が日本の親会社に配当する際に発生する源泉税に関する直接外国税額控除が認められなくなったことから、タックスヘイブン国に持株会社を置くことが本当に有利かどうかを検討する必要があります (*1)。

続いて、買収のケースでは、親会社が借入れを行った資金を、買収ビークルに出資するか貸し付けるかという論点が発生し、かつ、買収ビークルは買収対象会社国に作るとしても、その買収ビークルをぶら下げる中継持株会社を別の国に設立すべきかどうかも問題となります。

まず、日本の親会社が借入れを行い、買収ビークルに出資した場合は、親会社レベルで受取配当の益金算入(5%×41%=+2%)と支払利子の損金算入(△41%)が発生し、トータルで△39%となります。すなわち、出資という形で買収ビークルに資金を提供すれば受取配当課税を検討することになるわけですが、これが買収ビークルへの貸付(ローン)となれば、受取利子の益金算入を考慮することになります。例えば、日本の親会社が借入れを行い、海外の買収ビークルに貸し付けた場合は、親会社レベルでは支払利子の損金算入(△41%)/受取利子の益金算入(+41%)がおおむね相殺され、買収ビークルにおける支払利子の損金算入(例えば、米国なら大体△36%、イギリスなら△28%、オランダなら△25.5%)のみが残ることになります。よって、親会社に利益が出ている限り、前述した出資スキームの方が税務上は有利ということになります。

更に、例えば、オランダや香港等の中継国に持株会社を設立し、日本の親会社がその持株会社に出資又は貸付を行い、その持株会社から対象会社国の買収ビークルに出資又は貸付を行うスキームも検討に値します。一般的に、買収ビークルには貸付の形態を採ることにより、支払利子の損金算入を利用でき、中継国の持株会社には出資の形態を採ることで、日本の親会社において受取配当の益金不算入を利用でき、更に中継国が税率の低い国であれば、持株会社において受取利子の益金算入による課税を減らすことができます。なお、対象会社→買収ビークル→中間持株会社→日本の親会社の順番で配当を流していく場合には、すべての配当局面で配当源泉税を検討する必要があり、外国同士または外国と日本との間の最新の租税条約や、それらの条約の改正の動向にまで目を配らなければなりませんし、配当源泉課税の対象外となっている特殊なエンティティ(例えば、オランダにおける協同組合(Coop、Cooperative Association(Cooperatieve Vereniging))を使うかどうかも検討すべきです。

もちろん、実体のないペーパーカンパニーを節税のために利用した場合は、税務当局から租税回避行為であるとして否認されるリスクがあります。また、最終的なエグジットを見越してキャピタルゲイン課税の問題も併せて考慮する必要がありますし、更には、組織再編/買収後の取引ベースでの課税(移転価格の問題)も一緒に検討しなければなりません。あるいは、外国子会社の株式を新たに設立する中間持株会社に譲渡する場合には、日本の親会社レベルで株式譲渡損益課税が発生するに留まらず、国によっては、事業の譲渡と同視され、その国でも譲渡損益課税が発生することがありますから(ちなみに、米国では日米租税条約によってこの場面での米国での課税は発生しないとされています)、関係各国の税法と租税条約は全て調査する必要があります。ここが国際税務戦略の難しいところでありますが、世界の大企業が徹底的に研究されたタックス・プランニングによりグループ全体の負担税率を大幅に引き下げている中で、日本企業はまだまだ良い意味でも悪い意味でも正直に高い税負担を甘受している傾向にありますので、今後、日本企業が海外企業を買収する際あるいは国際的なグループ再編を行う際には、積極的に税務戦略を検討・立案したいと考えています。


(*1) 平成22年改正によって、タックスヘイブン税制におけるトリガー税率は、従前の25%以下から20%以下に変更されました。中国(25.0%)、マレーシア(25.0%)、ベトナム(25.0%)、韓国(22%)といったアジア諸国に進出している子会社数は相当数に上るため、トリガー税率が20%以下となれば、企業の税務負担と申告作業が相当程度軽減されることになります。なお、これらの国は法人税率を下げることに熱心であるため、具体的な税率は個々のトランザクションの際に確認してください。

簡易組織再編の原則と例外

実務上、検討する機会が多い制度の一つとして簡易組織再編が挙げられますが、簡易組織再編は意外と細かくて、例外や手続について完璧に押さえるのが難しい制度ですので、一度まとめておきます。

株式会社が吸収型再編を行う場合、原則として、両当事会社において株主総会の承認決議が必要です。根拠条文は、存続会社が会社法795条、消滅会社が783条です。決議要件は、存続会社も消滅会社も「特別決議」(総議決権の過半数(*1)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上(*2)の賛成、会社法309条2項)が原則ですが、公開会社が消滅会社となるケースで、消滅会社の株主に譲渡制限株式が対価として交付される場合には「特殊決議」(総株主の半数以上の株主の賛成+総議決権の3分の2以上の賛成、会社法309条3項2号、3号)が要求されます。

さて、上記承認手続を省略できるケースの一つが簡易組織再編です。例えば、吸収分割であれば、吸収分割会社の株主に交付する「吸収分割承継会社の株式の数に1株当たり純資産額を乗じて得た額」と「吸収分割承継会社の株式等以外の財産の帳簿価額等」の合計額が、吸収分割承継会社の純資産額の20%を超えない場合(796条3項)、承継会社における株主総会承認決議が不要となり、吸収分割承継会社に承継される資産の帳簿価額の合計額が、吸収分割株式会社の総資産額の20%を超えない場合(784条3項)、分割会社における株主総会承認決議が不要となります。

この簡易な手続は、吸収合併(存続側)、吸収分割(分割側&承継側)、新設分割(分割側)、株式交換(完全親会社側)、事業譲渡(譲渡側&譲受側)について認められており、新設合併と株式移転については認められていません。また、簡易事業譲渡についてだけ、他とは離れた場所に条文があります(会社法467条1項2号、468条2項)。

実務上、注意しておくべきは、簡易組織再編ができないケースです。以下の場合には、簡易組織再編ができません(*3)。

① 株主に対する株式買取請求に係る通知又は公告の日から2週間以内に、法務省令で定める数の株式を有する株主が当該組織再編行為に反対する旨を当該会社に通知したとき(会社法796条4項) = 具体的には、特別決議で議案が否決される可能性のある数(定款で特に変更を加えていなければ、1/2×1/3+1で、6分の1超、会社法施行規則138条、197条)の反対通知がなされた場合
② 合併差損が発生する場合(会社法795条2項)
③ 対価として譲渡制限株式を交付する場合(会社法796条3項但書)


最後に、簡易組織再編においても、会社法785条2項2号に基づき反対株主の株式買取請求権は発生しますが、簡易吸収分割及び新設簡易分割における分割会社の株主には株式買取請求権が与えられていませんので(会社法785条1項2号、806条1項2号)、注意が必要です。


(*1) 「総議決権の過半数」という定足数については、定款で3分の1にまで下げられる。
(*2) 3分の2を上回る割合を定款で定めることが可能。
(*3) 吸収分割における分割会社に関しては、かかる例外の適用がなく、20%要件さえ充たせば簡易組織再編が可能。

MBOの際の「公正な価格」とは(その2)

続いて、MBOに関連する代表的な株式取得価格決定申立事件(*1)を整理します。

(1)レックスホールディング事件(東京地裁H19.12.19、東京高裁H20.9.12、最高裁H21.5.29)

【事案の概要】レックスホールディングス(「牛角」等フランチャイズ飲食店を経営)の取締役とアドバンテッジパートナーズとが共同して行ったMBOに際して、公開買付けに応じなかったレックスの株主が、裁判所に株式取得価格の決定を申し立てた。
【大阪高裁・最高裁の判断】市場株価が短期的には様々な影響を受け得ることを理由に、本件公開買付け公表前6ヶ月間の終値の平均値に、同時期のMBO事例のプレミアム平均値20%を加算。

(2)サンスター事件(大阪地裁H20.9.11、大阪高裁H21.9.1)

【事案の概要】サンスターの代表取締役がSSAの100%親会社の代表者であったところ、SSAがサンスター株式の公開買付けを行い、MBOを実施。
【大阪高裁の判断】公開買付け公表後の株価のみならず、MBOの準備を開始したと考えられる時期から、公開買付け公表時までの期間における株価についても特段の事情がない限り排除すべきとし、株価の推移や業績の予想などを根拠に、公開買付け公表日1年前の株価の近似値に、同時期のMBO事例のプレミアム平均値20%を加算。

(3)サイバード事件(東京地裁H21.9.18)

【事案の概要】サイバードホールディングスの代表取締役らが、ロングリーチファンドと共同してMBOを実施。
【東京地裁の判断】公開買付け公表前1ヶ月間の市場株価の終値の出来高加重平均値(5万1133円)を株式の客観的価値と認め、公開買付け価格6万円は、MBOにより増大が期待される価値のうち既存株主に分配されるべき部分の最大限を織り込んだ価格として、公開買付け価格6万円を取得価格と認めた。

上記の事案においては、いずれも、株式を取得する経営陣と対象会社の株主との間に構造的利益相反(*2)が存在するところ、手続として利益相反の回避・軽減措置を採る必要がありますが、その前に、MBOにおける公開買付け価格が不適切(不当に廉価)だとそもそも何が起こるのでしょうか。この点については、

① 公開買付けが成立しないおそれ。
② スクイーズアウト後に反対株主から取得価格決定申立を提起されるおそれ。
③ 裁判所が公開買付け価格から乖離した取得価格を決定した場合、株式買取請求に応じることによる多額のキャッシュアウト。
④ 裁判所決定後、公開買付けに応じた株主が、MBOに伴う株式買取価格が低すぎたとして裁判所決定価格との差額の支払いを求めて提訴してくるおそれ
(*3)

等を指摘できます。

では、かかるリスクが顕在化しないために実務上どのような対応を採るべきか。これについて、次回以降、Q&A方式で説明していきたいと思います。
【執筆:弁護士吉村尚美】


(*1)  類似の事件として、①カネボウ事件(H20.3.14東京地裁決定):旧商法下での営業譲渡に反対する株主による株式買取請求権行使事件(地裁決定では、TOB価格を否定、鑑定書に基づく評価額を追認。現在東京高裁で係争中)、②日興コーディアル事件(H21.3.31東京地裁決定):日興コーディアルとシティグループジャパンホールディングスとの間の株式交換に反対した株主による株式買取請求事件。公開買付け価格を公正な買取価格と認定した。
(*2)  企業価値の向上を通じて株主の利益を代表すべき責務を負う取締役(対象会社サイド)が、同時に買収者でもあることにより、構造的な利益相反が生じる。例えば、買取価格は、買収対象会社の株主にとっては高いほうが望ましいが、買収者である取締役は低いほど望ましい。そこで、経営者が株主に有利な買収か価格を提示しなかったり、買収に応じるかどうかに必要な情報を提供しなかったりする危険がある。株式交換等の組織再編と比較しても、公開買付けは買収者(経営者)と、対象会社の株主との間の直接取引であるから、利益相反の問題が大きい。
(*3)  レックス事件では、2009年8月19日、レックス及び当時の取締役に対して、約2億円の損害賠償を求める訴えが東京地裁に提起された。

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